炊き出し
フェイさんたちにスラムのネットワークを活かして情報収集の仕事を依頼することにした。いかにも裏世界っぽいよね? ただ、みんなお腹空いていそうなので炊き出しをすることにした。空腹のまま働かせるなんてブラックだし。そうしたらヒャッハーたちが泣いてしまった。むさくるしい。交換条件も出すし、無条件という訳じゃないんだけどな。
「ケイ殿……そのようなことして頂いても我々には報いることができません」
フェイさんは震える声を押し殺して答える。
「いえ、無条件という訳ではありません。僕はそんな善人ではありませんよ」
「それでも結果的に多くの人が助かります。ありがとうございます」
ヒャッハーたちも口々にお礼を言ってくる。ううむ、やりにくい。さっさと条件を話して炊き出しして……そうだ、奴隷を購入しに行かなければ。うん、そうしよう。
「それで条件と言うのは?」
「簡単なことです。ジオス教への入信、もしくは改宗です」
そう言うとフェイさんたちは顔を見合わせた。
…………
「おじちゃんありがと!」
「ははは、たくさん食べてね。あと僕はおにーさんだからね」
子供は素直だなぁ。でもその純粋さが僕の心を深く抉る。ま、まだギリギリ二十代だ。慌てるような時間じゃない。
「おねーさんもありがと!」
「うふふふ、たくさん食べなさい」
ベステルタもにこにこ、にっこにこだ。フェイさんたちとの会話でも完璧に意気消沈して空気と化していたけど、今はすっかり元気になって炊き出しの配膳係をこなしてくれている。ベステルタを叩いた子供たちもパウロとフェイさんから説明されて、ベステルタに謝りに来た。本当は子供だからそんなこといいんだけどね。謝意を通訳したらベステルタも感激して子供たちを抱きかかえてはしゃいでしまった。それを見て、僕を含めてたくさんの人たちが笑った。
「ケイの旦那、この肉はどうしましょう」
「旦那、この野菜は」
旦那、旦那、とパウロ含めヒャッハーたちに呼ばれるようになった。少しは打ち解けられたようだ。ただ、例の上空拘束組の手下たちを降ろした時、ものすごく怯えられてしまった。だってプテュエラが二人を対地ミサイルみたいに二人のヒャッハーを打ち込んできたんだよ。あまり人が見ていなくてよかった。パウロたちにも口止めしたし、まぁ大丈夫だろう。
炊き出しはフェイさんたちに「ジオス教への入信」を交換条件に行った。自分が使徒だとは、まだ言っていないけどね。なんか話がややこしくなりそうだったし。
まあ我ながら結構クズい交換条件だな、と思っていたんだけど。
「それだけですか?」
と逆に言われてしまった。多くの人の命が助かるなら安いものだし、そもそも無宗教の人やアセンブラを信じていない人も多いようだ。ジオス教は過去迫害されたことも知っていたけど、秘密にすれば問題ないし、
「こんな薄汚れたスラムにアセンブラのお偉い方は興味ありませんよ」
と吐き捨てるように言っていた。本当にアセンブラは全方位に憎まれているよな。アンケート取りたいよ。むしろ、よくまだ存続しているよね。これだけヘイト溜めていたらさすがに暗殺なりされそうだけど。何か秘密があるのだろうか。
入信についてはこのあと孤児院に戻ってカリンに伝えるつもりだ。フェイさんを始めオボロの幹部クラスから入信していって、徐々に人を増やすとのこと。ベステルタとプテュエラにも彼らのことは話したから、いきなり襲うことは無いだろう。むしろ彼女たちがフェイさんたちを襲わなければカリンたちも安心するはずだ。
「ふふふ、肉がうまいな」
「おじちゃん、おにくおいしーねー?」
「おいしいね?」
僕は心が広いからおじちゃんと呼ばれても大丈夫だ。勝手に脳内でおにいさんに変換するし。そうしなきゃ心が持たない。
……ふふふ、それにしても我ながら結構良い一手だったんじゃないかな?
信徒も獲得できそうだし、小さいながらアセンブラへの諜報組織の下地も作れそうだ。何より亜人たちの活動範囲と認知範囲が広がるのは良いことだ。彼女らが姿を隠さず出歩ける場所が増えて、恐れる人がいなくなるのは嬉しい。後でたくさん亜人とカリンに褒めてもらおう。そのまま今夜は感謝の正拳突き千回コースだぜ。
「ケイ殿、この肉とても美味しいですね」
フェイさんは狐目を細めてにこにこ肉を食べてくれている。ちなみに料理はダイオークのごった煮だ。たくさんの野菜と門外不出の絶死ニンニクと精力抜群ダイオーク肉。広場には暴力的なデリシャススメルが漂っている。
いやー、絶死の森で乱獲しまくったダイオークの使い道ができてよかった。全身余すところ無く、モツまで処理して大鍋にぶち込んでいく様は壮観だった。ダイオークの恨めし気な顔がコトコト煮込まれて、ぐずぐずに崩れたそれを女子供たちが美味しそうにパクつくのはちょっと怖かったけど。
「ですね。まだまだあるのでたくさん食べてください」
「はい!」
フェイさんもなんだか嬉しそうだ。男だけど。美味しいご飯は心を豊かにする力があるからな。男だけど。
「ケイ、なんだか目が死んでない?」
「大丈夫だよ。それよりもう平気?」
僕はベステルタの心の傷の方が心配だ。亜人のメンタルって基本人間より強いと思うけど、それでも肉体ほど強い訳じゃない。それは一緒に過ごしてきてよく分かっている。
「ええ、もう平気よ。子供たちに囲まれてとても楽しいわ」
心から嬉しそうに笑う。まあさっきまで暗い顔をしていた子供やスラムの人たちが、今や食って食っての大騒ぎだからね。酒を放出しなくてよかった。そんなことしたらマジで収集付かなくなってたかもしれないしな。
「ベステルタが嬉しそうなのが一番嬉しいよ」
「あら、そんなこと言ってくれるの? ふふ、それなら今夜は精いっぱいサービスするわねご主人様」
ぶほぉっ!
笑顔でなんてこと言うのベステルタちゃん。突然過ぎて思わず鼻血がでてしまった。ぐへへ。これは今夜が楽しみでんなぁ。
『ケイ、気持ち悪いぞ』
『プテュエラ、せめて気持ち悪い笑い方って言ってくれよ』
『……知らん。最近ケイはベステルタばっかりだな、まあ構わないが』
チャンネル越しにつんつんした様子が伝わってくる。
あ、あれ、君そんなこというタイプだっけ。そんなにないがしろにしていたかな。あー、でもベステルタは防具作ってから自由に行動できているからね。一緒に何かすること多くなったし。ていうか嫉妬してくれてるの? え、めっちゃ可愛いんですけど。
うーん、どうしたものか。プテュエラと一緒の時間増やすには……。
あ、そうだ。
『プテュエラ、今度空に連れて行ってくれないかな。デートしようよ』
『空? でーとだと? なんだそれは』
『好きな相手と一緒に出掛けることだよ』
今更だけど僕はプテュエラ大好きだからね。愚問ですよ。初期にベステルタと一緒に僕を支えてくれたしね。彼女がいなければデイライトに来るのも難しかっただろうし、護衛はほぼプテュエラにお任せしていたし。それに、そういう役割を超えて僕は彼女が好きだ。かわいいし、もふもふだし、クールポンコツで笑顔が可愛い。
『……ほ、ほう。いいんじゃないか?』
チャンネル越しに翼をばっさばっさする音が聞こえる。よし手応えあった。
『プテュエラとは絶死の森の空ばかりだったし、もっとのんびり二人で空の旅をしたいなって思うんだけどどうかな』
実際のんびりした空の旅ってめちゃくちゃ魅力的だな。空を飛びながら身も心も開放的になって、プテュエラといちゃいちゃする。うん、最高だ。
『うむ、分かった。このプテュエラ、ケイに最高の空の旅を約束しよう』
よかった、機嫌治してくれた。でもすごいやる気になってしまった。空繁りはまだちょっと怖いんだけどな。
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