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千霧のサンドリア

巨大な生物が向かっているということで、ベステルタとプテュエラが出動、暴走状態の亜人だということが分かった。ゴ○ラ級の質量に苦戦したけど、シュレアの思ったよりエグい必殺技で事なきを得たよ。

「ぎゅ、ぎゅうう」


 プテュエラに運ばれ大ムカデのそばに降り立つと、意外にも可愛らしい声で地に伏していた。


「で、でっかいなぁ」


 近くで見ると凄まじい大きさだ。全身が漆黒の外骨格に覆われていて、鋭利な脚が無数に生えている。数百本くらいありそうだ。

 頭の部分は非常に凶悪で巨大な顎があり、数メートルの牙が不気味に鎮座している。

 

 これ本当に亜人なんだよね? 信じられない。そう言えば暴走状態って言っていたけど、どういうことなんだろう。


「亜人って暴走状態になるの?」


「若いころになりがちなのよ。でも、本当なら事前に母親が力の使い方を教えてくれるんだけど、この子はそうじゃなかったみたいね」


 ということは母親とすぐに離別したって感じなのかな。それは何とも重い話だ。


 あと、この姿も気になる。


「亜人って暴走すると全員こういう姿になるの? 大ムカデにさ」


 ベステルタは首を横に振る。まぁそうだよね。


「それぞれ姿は違うわ。ていうか、わたしたちの本来の姿がこれなのよ。力をコントロールして人型の形態を保っているの。慣れたら全然平気なんだけど、最初は難しいのよ。感情や理性が獣寄りだからね。それを最初にコントロールしてあげるのが母親の役目なの」


 えっ、何それ。初耳なんだけど。つまりベステルタやプテュエラ、シュレアにも真の姿があって、普段は力抑えているってこと?


「そうよ。この前本気出したって言ったけど、あくまでも人の姿で、だからね。本当の姿ならもっと強いんだから。勘違いしないでよね」


 いやいや、そんなツンデレっぽいセリフで照れる場面じゃないよ。君たちさらに強くなれるの? 人類は本当に危ないことしているな。国がいくつ滅びても驚かないよ。ていうか僕はそんな相手と繁っていたのか……。うわー。


「それにしてもシュレアの樹界錬成、久しぶりに見たけど凄まじいわね」


「ああ。森で相手取りたくはないな」


 二人がしみじみと会話している。実際その通りだ。大ムカデは本当にでかい。完全に怪獣とか災害レベルの大きさだ。


 しかしそれを簡単に押さえつける二つの手がさらにでかい。

 まさしく巨人、仙人の手だ。仙人掌だな。


 まさかシュレアの必殺技が完全物理の質量アタックだと思わなかった。エグ過ぎるよ。


「シュレアは森中の樹木と心を通わせているからな。彼女にとって森の中は腹の中と同じだ」


「樹木魔法が外の世界にあるのか分からないけど、ここまでにならないはずよ。そもそも樹木がないと効率悪いからフィールドを探すの大変だし。さらに樹木との親和性、知識、何より意思疎通できるだけの時間が膨大にかかるもの。あの子の家系は代々その技術を継承し練り上げてきた。そしてシュレアの代で昇華したって訳ね」


 君らめっちゃ褒めるやん。しかもドヤ顔だし。友達自慢できて嬉しいのか。仲良しかよ。本人の前で言ってあげなよ。まったく。

 でもやばいことには変わりない。なるほど、絶死の森はシュレアにかかれば天然の要塞か。その中では魔獣もちょっとでかい生き物も、仏の手のひらで踊る猿みたいなもんだな。賢樹魔法おそるべし。

 

「きゅうう」


 大ムカデが可愛い声で(ギャップ萌えにはならない)鳴いて、顎ががばっと開かれる。

 漆黒の外骨格に切れ目が入ると……、うわっ、口の中、人間みたいじゃん……。

 綺麗な歯並び、前歯に臼歯、舌と口蓋。まごうことなき人のそれ。

 うえええ……下手に昆虫っぽいのより精神に来るな。綺麗なのが救いだ。歯磨きちゃんとするタイプなのかな。


「ん? 何か口の中に引っかかってない?」


 最初は樹木の切れ端かと思ったけどどうも違う。


 蛇みたいな……尻尾?


「ラミイ!」


「あれはラミイの尻尾だ!」


 あっ、と僕が声を出す前に二人が飛び出す。


 待ち構えていたかのように黒光する顎が動いた。

 

 次の瞬間、漆黒のギロチンが、ガチン! と無情にも二人を切り裂く。


「ふぅ……。二人とも冷静になってください」


 なーんてことにはならなかった。シュレア先輩が触手で二人を絡めとっている。


「でもラミイを助けないと!」


「食べられてしまうかもしれない!」


 悲痛な二人の叫び。かなり焦って冷静さを欠いている。


「いえ、そんなことにはならないはずです。ベステルタ。貴方があの亜人に攻撃した時、顔、つまり口の周辺を庇っていませんでしたか?」


「……そういえばそうね」


 確かに。ベステルタがパンチぶちかました時顔を背けていた。


「それってつまり」


「この亜人はラミアルカを守っていた可能性が高いです」


 ババァーン。


 嫌そうな目でドヤ顔を披露するシュレア。器用だな。


「だが、いずれにしろ引っ張り出さないとまずくないか?」


 心配そうなプテュエラ。僕もそう思う。


「大丈夫。私の鎖羅双樹は対象の力を吸収できるので。ほら、そろそろ亜人が元の形に戻っていきますよ」


 言っている側で、大ムカデはどんどん小さくなっていった。


 え、血から奪うって賢樹魔法の朽命じゃん。大丈夫なのか?


「失礼な。力の調整くらいできます」


 めちゃくちゃ嫌そうな目で睨んでくる。す、すみません。


「あっ!」


 ベステルタが声を上げる。力の吸収に伴って大ムカデの顎も小さくなり、樹木やら岩やらが弾き出される。


「ラミイ……」


 そして例の亜人、ラミアルカさんもずるりと顎から弾き出された。ベステルタが慌てて抱きとめる。


 ラミアルカさん、大ムカデがでかすぎて分からなかったがこの人もかなり大きい。頭から尻尾の先まで5メートルくらいだろうか。蛇の胴体に人間の上半身。ちょっとびっくりしたのが黒髪だったことだ。僕とシュレアしか見たことなかったし。亜人は意外と黒髪が多いのかな。くせっ毛で、顔立ちは活発そうだがベステルタたちより年齢が低そうに見える。そしてかなり弱っているように見えた。


「ひゅー……ひゅー……」


 か細い呼吸。やばくね?


「良かった、息がある……だが」


「すごく脈が弱い……どうしよう、わたし、まだ、あの時の事、謝れていないのに」


 いかん、ベステルタが弱気モードだ。


 シュレアを見る。無言で頷いた。


「ベステルタ、ひとまずラミアルカはシュレアが診ます。触手越しに生命力を送り込むので」


「ええ……」


 ぐったりするラミアルカさんを震える手撫でるベステルタ。


「ベステルタ、まずは大ムカデの亜人に話を訊いてみようよ。何か分かるかもしれない」


「……そうね、何が起きているか確かめないと」


 逸る気持ちを抑え、大ムカデが元の姿に戻るのを見守る。時間にして5分もかからなかったが、やけに時間が長く感じられた。


…………



……




「これがあの大ムカデの正体……かなり若いわね」


「……これくらいならまだ親が生きて一緒にいるはずだが」


「この辺の亜人ではありませんね。見たことありません」


 あの大ムカデは消えていた。その代わり、僕たちの眼前にはその何十分の一くらいかの、小柄な少女が横たわっていた。


 煤けた茶髪であどけない顔立ち。さっきのラミアルカさんよりも若く見える。横に並べば姉妹のようにに見えるかも。それでも僕よりずっと生きているんだろうけど。


 すっと近寄って、話しかける。


「君、大丈夫?」


「う、うぅ」


 その子はくわっと目を開いた。そして僕を見る。


 うおっ、見事な三白眼。


「ひっ、に、人間か!」


 怯えたように後ずさる亜人。ちょっとショック。


「落ち着いて。彼は人間だけど害は無いわ。そしてわたしたちは亜人よ」


 落ち着きを取り戻したベステルタが優しい声色で訊ねる。さりげなく僕を亜人から隠した。ショック。


「あ、亜人か。よかった。よかった……うぅ」


「そうよ。あなたの名前は?」


「あ、あたしはサンドリアだ……。千霧のサンドリア。母さんがそう言えって」


「そう。サンドリアね。わたしはベステルタ。よろしくね。後ろにいる翼が生えているのがプテュエラ。その後ろの目つき悪いのがシュレア」


「ああ」


「それは余計です」


「う、うん」


 ぼ、ぼくは? という言葉をぐっと抑え込む。お、大人だからな。空気くらい読めるし。


 それにしてもちぎりのサンドリアちゃん。なかなか個性的な亜人だが……怯えている。


 そしてめちゃくちゃ突っ込みたいのだが、足が無い。いや、無いというか、下半身の大部分が霧みたいなモヤみたいのに覆われてそこから下が無い。どういうこと? 千霧っていうのもそこから来ているのだろうか。


「それでね、サンドリア。あなたが連れてきた蛇型の亜人はラミアルカって言って、わたしたちの大事な友達なの。何があったのか教えてくれる?」


「そ、そうだ! 姉さん!」


 姉さん? 亜人って姉妹で産まれることもあるのか?


「お、お願いします。姉さんを助けてください!」


 ベステルタの腕を掴み必死に懇願するサンドリアちゃん。うーん、まだ話が読めない。



いつも読んで下さりありがとうございます。感想、評価、本当に励みになります。

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