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浄化活動

繁殖術(上位スキル)を使えるようになってちょうし乗っていたら、ベステルタに格の違いを見せつけられたよ。入っちゃいけないところまで牙が入ってきた。

 …………。


 ……うっ。ここは……。


 ああ、そうか。本気ベスデルタに搾られまくったんだ。


 節々が痛い。ひりひりする。

 

 首をなぞると歯型がたくさん。いったいどれだけ噛んだんだ。


 そうか。僕は生きているのか。


 あっ、付いているのか? 大丈夫かな。


 ……よかった。付いている。根っこから引っこ抜かれたかと思っていたよ。


「あ、起きた?」


 けろっとした顔のベステルタ。


「あいたっ」


「ベースー」


 翼でぱしんとはたかれている。プテュエラだ。


「さっき謝るって言っていただろう」


「ベステルタは限度を知らなさ過ぎです」


 シュレアもこんこんと説教している。


「う、だって負けられなかったし」


 いじけている。可愛い。けっこう負けず嫌いなんだね。そのスケールが違うけど。


「だってじゃない。ケイの首傷を見てみろ。かわいそうに。いくら契約者でも限界がある。痕が残るぞ」


「ベステルタは自分勝手なところがあります」


「うぅ」


 プテュエラがいたわるように優しく翼で包んてくれる。暖かい。ここで孵化したい。これが孵化みってやつか。孵化みでオギャりたい。


 縮こまるベステルタは僕の傷を見て一瞬だけ満足そうな顔をした。


 あ、こいつ反省してねえな。


 でも昨日の言い振りだと、綺麗に治したらすねるんだろうなあ。本性見ちゃったよ。でも悪くない。


「今日は訓練や浄化はせずにのんびりしましょう」


 シュレアが甘やかしてきた。

 

 割と体力的には大丈夫なんだけど、こういのも良いか。やりたいこともあるし。


「ありがとう。そしたら今日はゆっくりするよ。繁りつつ」


 まだ懲りていないんですか、と呆れ冷たい視線のシュレア。別にええやんけ。


「ならわたしと繁り」

「ベスは私とコス茶の採取に行くぞ」

「えーっ」


 怒り顔のプテュエラにぶっとい鷲爪でがしっ、と肩を掴まれテイクオフ。


「あっ、プテュエラ、肩痛いわ」


「ケイはもっと痛かったはずだ。まったく、忘れているかもしれないがケイは人だぞ? 亜人とは違う。無茶して何が起きるか分からない」


 正論だ。


 がっくり肩を落としてドナドナされていく。


「では行ってくる」


「ご飯は?」


「昼頃一旦戻る」


「わかった。行ってらっしゃい」


「ああ。ほらいくぞ」


 そのままドナドナ・フライ。あっという間に見えなくなった。


 僕とシュレアが残った。


「そういえば、浄化作業はやらなくていいの?」


「まあ、すぐにどうこうなる話ではありません」


 うーん、そうは言ってもシュレアと契約したことだし。なあなあにするのは良くない。それに僕らの暮らしにも関わってくることだ。


「近場だけ浄化するから教えてくれる?」


「無理しなくても大丈夫ですが」


「全然無理じゃないよ。身体は元気なんだ。今すぐにも繁りたいくらいに」


「……はあ」


 こいつは馬鹿か?

 って顔で見てくる。そうです、ワタシが馬鹿な契約者です。


「そこまで言うなら浄化に行きましょう。魔獣がうろついていますが、今回は私が処理するので気にしなくていいです」


 そりゃいいや。ダークエイプの相手はあんまりしたくない。


(……!)


 あ、リンカも行きたそうだ。


「リンカも行きたそうだね」


「そうですね。連れて行ってあげましょう。お散歩は大事です」


 いや、猫とか犬なら分かるけどそれ苗木なんだが……。もう苗木って大きさじゃないけど。


「リンカは樹渡り一緒にできるの?」


 シュレアが使う樹木間転移魔法のことだよ。


「この子にはケイの魔力とシュレアの魔力が少しずつ流れていますから問題ありません」


 やだ……それってベイビーってこと?


 ああ、なんてかわいいベイビー。


 繁りたくなるわ。


 冗談はさておき、なんかそういうふうに聞こえちゃうよ。問題無いならよかった。


「では行きましょう」


 うんしょ、うんしょと近くの樹まで移動するシュレア。あれ、リンカはどうするんだろう。


(……♪)


 ズボぉっ!


 リンカはたくましい幹を震わせたかと思うと、土から脚を引っこ抜くように長い根っこを出した。

 そのまま両脚? でぴょんぴょん跳ねながらシュレアに近付いて……。


「いい子ですね」


 シュレアの背に張り付き、融合した。


 ええ……。

 

 蝉の羽化ってあるじゃん?

 あれの逆再生を見ているみたいだ。


 シュレアの背中の肉がずももも、と脇に広がりリンカが収まる。


(……♪)


 シュレアの背中からぴょこっと幹をのぞかせご機嫌だ。


「んっ……」


 なんでそんな色っぽい声出すんだよ。


 だいぶヤバイ見た目だよ。倒錯したファンタジー映画を観ているようだ。唐突すぎて理解が追い付かない。


「それ、大丈夫なの? 痛くないの?」


「大丈夫です。リンカも大きくなったので」


 いやいや、説明になってない。


「ア……」


 え、リンカ?


「う……ァ」


 リンカの幹に人のような模様ができて、うねうねとうごめいて、声を発した。


 見た目が封印された悪霊じゃねえか。


「何かヤバイんだけど」


「やばくないです。シュレアの身体の一部をリンカに貸しただけなので」


 十分ヤバイやつやん。

 さっきからヤバイしか言えないくらいに語彙消失している。それとも昨日、絶命寸前繁殖したから脳細胞が死滅しているのか? 


「それよりもリンカに何か言ってあげてください」


 僕に向ける嫌視線とは真逆の、慈しむような目をリンカに向ける。

 やってることだけみたら、おんぶしている赤ちゃんに何か言ってあげてってせがむお母さんみたいだけど。


「や、やあリンカ」


「う……ア……」


 あいかわらず、人類の苦悶を煮固めたような模様が浮かんでいる。時折、男の顔になったり、老人の顔になったり、嬉しそうな悲しそうな表情を浮かべては消えていく。


「どうやらまだうまく顔を作れないようですね。でもリンカはついこの前まで普通の樹だったんです。それを考えればすごいですよ」


 シュレアはよしよし、と背中のリンカを撫でる。


「ほら、ケイも褒めて下さい」


「り、リンカ。えらいね」


「ウ、きゅう」


 あ、少しだけ嬉しそうな顔を見せてくれた。すぐにまた苦悶の煮凝りになったけど。


「シュレア、そろそろ浄化しに行こう」


「む、そうですね。シュレアとしたことが、つい夢中になってしまいました。子供とは可愛いものですね」


 子供とはどっちの意味なのか。

 そして、聖母のような笑みを浮かべるシュレアが愛おしくてたまらぬ。いつもとギャップがオールウェイズ。母性むんむんフォーリンダウン。だめだ語彙消失している。


「では行きましょう。樹渡り」


 彼女が近場の樹に手をかざすとこの前みたいに優しく中に取り込まれる。


 シュレアのぽよんよんと密着。


 薫るボタニカルすいーとフレグランス。


 ぽよぽよ……いや、ぱよぱよか!?


「着きましたよ。離れてください」


 嫌そうに僕から離れるシュレア。やっぱりこうじゃないとな。




 その後、予定通り浄化作業を始めた。


 枯れそうになっている樹木、小さな池、大きな岩、身を寄せ合って咲く花畑。

 

 そんなところを浄化していった。


(……!)


 草木や花々を浄化していくうちに、リンカとの意思疎通の経験が役に立ったのか、自然たちとのニュアンスが少しずつ伝わるようになってきた。嬉しい。


「あ……うぅ」


(……)


「う、あ……?」


(……?)


「うゥ……」


 リンカも何やら手伝っていてくれていたようで、「う……あ」と何やらシュレアに伝える。


 すると、


「ふむ、どうやら他にも魔素で苦しんでいる草木や岩花たちがいるらしいです。行きましょう」


 と教えてくれた。さながら通訳だな。シュレアによると自分よりももっと細かいニュアンスを訳せるとのこと。流石だな。


 それでどんどん浄化していく。

 

 どろどろの汚れを落としていくみたいで、ちょっと爽快感ある。


 僕がいそいそと浄化活動している後ろでは何度かシュレアが「樹葬」と呟いていた。きっと僕の見えないところで、ダークエイプを筆頭に魔獣たちが森の肥やしになっているんだろうな……。やや同情するよ。ダークエイプにはこれっぽっちも思わないけど。


「ぁ……わ」


「おや……?」


 美しい花畑を浄化し終わり、花々に感謝されていい気になっていたらシュレアとリンカが相談し始めた。なんだろう。


「ケイ、どうやらこの花たちによると近くに川ができているようですよ。それも魚たちが泳いでいるようです」


 な、なんだって。川魚だと!

いつも読んで下さりありがとうございます。

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