月光に照らされて
うーん。困った。これは一大事だ。異世界に来て、一番困っている。
なんというか。ギンギンなのだ。
滋養たっぷりの煮込み料理を食べたからね。
なんというか。ビンビンなのだ。
精力つく食べ物がしこたま入ってたからね。
じゃあ繁ればええやん?
違うのだ。もうみんな寝てしまった。
料理自体は大成功だったよ。
ベステルタもプテュエラも、初めてカツ丼食べる原始人みたいに夢中になって食べて、満足して寝てしまった。相当美味しかったんだろね。こんな反応見せたことなかったし。
子供達は叫び声を上げたり、飛んだり跳ねたりして、お行儀悪かったけど、とにかく口いっぱいの幸福を全身で表現してた。思わずほっこりしたよ。よかった。それは、よかった。
そしたらみんな、すぐにうとうとしだして寝室に行ってねちゃった。大部屋で区切りとか無く雑魚寝スタイルだ。みんなそれぞれ布団とか毛布を持ち寄って、寄り添って寝始めてしまった。
「しとさまもー」
「けいさまもねよー」
「ねむーい」
ねむねむ、と目をこする子供達にそう言われては断れない。カリンが苦笑して「片付けはしておきます」と言ってくれた。亜人たちも一緒の部屋に移ってきて寝た。
そして今。
僕のタネズソードは爆発寸前だ。マジでやばい。何もしなくても暴発しそう。ベステルタやプテュエラが近くにいるのに、何もできず、何もして来ず、ただいい匂いだけをさせて無防備に寝ているのがあまりにも身体に悪い。拷問だよ。生殺しトーチャーだよ。
(だ、だめだ。朝まで持たない)
僕はふらふらと部屋から出る。
異世界に来て初めて一人繁りをするかもしれん。でも、後始末が……。一発でバレるわ。だがやむを得ないか。このままでは頭おかしくなる。
とりあえず教会の礼拝堂に行こう。賢者タイムになれるかもしれない。
「おや、ケイ様。もう寝られたのでは?」
最悪のタイミングだ。カリンがいた。
「や、やあカリン」
すぐさま踵を返そうと身体が横になる。
「あっ」
つまり、カリンから見ると僕の凹凸がはっきり分かる。やらかした。
「……なるほど。そういうことでしたか。ケイ様が亜人様と複数契約できる源があの肉だったのですね」
カリンさんが頬を赤らめながら、凝視してくる。妙なところで鋭いな。良くない雰囲気、いやとても良い雰囲気、いや良くない。いや良い。
「そ、そうかもね。はは」
「それではさぞお辛いでしょう。さ、こちらへ……」
ああっ、お戯れをっ。
彼女のほっそりした手が僕の腕をそっと掴み礼拝堂の中心、祈りを捧げる壇上に誘われた。ちょうど月明かりが照らしている。
「ジオス様は遍く繁栄の神。命の営みを全てお認めになられております……」
カリンの繊細できめ細かい肌が、月光に薄く輝いて見える。睫毛、以外と長いんだな……。
「でもこんな場所では流石に」
「これは儀式で御座います。使徒様とそのシモベ、敬虔なる信徒が神とその御使いに信仰心を示す行為です。ですから、御懸念なさらず……」
しゅるしゅる。
カリンが僕に背を向け、白い肩を見せる。
「初めてゆえ、ご満足に足るとは思えません。せめて、ご満足されるまで、心ゆくまで、どうぞ……」
カリンが屈んでシスター服の裾を掴み、月が欠けるようにゆっくりとたくし上げた。僕はその手を掴む。
その夜は満月だったが、雲上では風の流れが激しく、月は何回も雲に隠れては現れ、地上を照らした。やがて全ての雲が去った時、月は大きくその身を空に明け渡し、一際強く輝いた。
…………
………
……
はぁ。
「あれ、カリンは?」
「まだ寝ているよ」
はぁ。
「ケイどうしたの? 元気無いように見えるわよ」
「昨夜は相手出来なくてすまんな。フレイム・ラグーが衝撃的な旨さでな」
「あれやばかったわね。記憶が無いわ」
「分かるぞ。何故か母のことを思い出した」
「すごかったわねー」
「美味しかったのなら何よりだよ」
はぁ。やっちまった。
これは、あれだ。責任だ。責任問題だ。
「あれ、すんすん、この匂い。まさか」
「ケイ、そういうことか」
早々に二人に気付かれる。まあそうなるな。
「誰と?」
ベステルタがジト目で見てくる。駄目だな、嘘はつけない。白状しよう。
「カリンとです……」
「ケイー? 何で。わたしたちがいるのに?」
ジト目が深くなっていく。
うっ。その通りだ。申し訳無い。
「ベス、まあ待て。昨夜は満足してすぐに寝てしまったじゃないか」
「それはそうだけど」
プテュエラが助け舟を出してくれる。うう、ありがてえありがてえ。
「普段から接していると忘れるが、ケイは人間だぞ。我慢できなくなる時なんてたくさんあるさ」
「うーん」
プテュエラが説得しにかかり、ベステルタが何やら考え込む。
「ケイは私達のために頑張って繁殖してくれている。あんまり拘束するもんじゃない。それに人が人とするのは何もおかしなかことじゃないと思わないか?」
「分かった、分かったわよ。わたしが悪かったわ。プテュエラの言う通り。わたしも少し拘束してたかも。ごめんなさいね」
ベステルタが謝った。
おお、プテュエラがとうとう説き伏せたよ。すごい。
「一つ確認させて? ケイはその、亜人がきらいなった?」
「そんなわけ無いでしょ」
心配そうなベステルタ。申し訳無さで一杯だ。
ちゃんと言っておこう。
「僕は亜人が大好きだ。それ以上にベステルタ、プテュエラ、シュレアが大好きだよ。心配させてごめんね」
「そう、ならいいの」
ぎゅっ、優しく抱き締めるベステルタ。このもふもふ良い匂いするよな……。
「もうそこら辺のことでケイを拘束したりしないわ。ただ、一言あると嬉しいか、な」
気恥ずかしそうに言った。ちょっと雰囲気違う。くっ、今すぐにでも行動で示したい。
「カリン以外の人間とすることはないよ」
「どうだかな。私は絶対無理だと思っている。その場しのぎの約束はやめておけ」
プテュエラからやや厳しいご指摘。どうやら僕以上に僕のことを分かってくれているようだ。うう、情けない。
「分かった。そこはお言葉に甘えるよ。でも、亜人好きだって態度で示したいんだ。今日、お昼を食べたら遠吠え亭で、どうかな」
今日やることと言えばシルビアさんの荷物受け取ってゴドーさんに筋トレ器具の打診するくらいだし。あと時間があれば商業ギルドか冒険者ギルドに顔出すくらいだ。
「ふふ。確かに最近はソフトだったしね。望むところよ」
「いいな。私も昨夜は発散してないから溜まり気味なんだ。覚悟しておけ」
怪しい笑顔の二人。
よーし、頑張るぞ。頑健スキル先輩に頼るとしよう。
…………
カリンがまだ寝ている(起きれない)ので、朝食は必然的に僕が作ることになった。
「カリンはー」
「せんせいだいじょうぶ?」
「てつだう?」
起きてきた子供達はカリンがいないことを不安がったが、ベステルタとプテュエラがうまく相手してくれたので安心したようだった。言葉が通じないのにすごいよね。亜人ってのは母性の塊なのだろうか。僕には無理だ。保育士さんには頭が下がるよ。カリンはさらに教師やったり、もちろんシスターもしているからオーバーワークな気がする。ゆっくり休んで貰おう。
朝食はサラダと孤児院にあったパンに肉を挟んだサンドイッチだ。みんな昨日あんなに食べたのに、朝からガッツリ食べていた。子供のエネルギー消費半端ない。
朝食用意するときに貯蔵庫を見たけど、食糧事情は厳しそうだった。肉はほとんどなく不揃いの野菜と固いパンくらい。調味料も塩がほんの少し。思わず泣きそうになった。冷蔵庫あれば寄付して、毎日みんながお腹いっぱい食べられる肉、野菜、穀物を詰め込もう。塩や香辛料も充実させなきゃ。カリンにも……体力つけて欲しい。けっこう細かったから。よし、冷蔵庫に関してはシルビアさんか商業ギルドに訊いてみよう。
「それじゃ行ってくるよ。昼くらいに一度戻るね」
孤児院の食糧が心許ないので補充したいのと、ちょっと気まずいけどカリンとも話したいし。
「それならわたしが残るわ。カリンとも話したいしね。話せないけど、何とかやってみるわ。プテュエラ、ケイのことお願いね」
「ああ」
ベステルタとカリンか。言葉が通じないのに何を話すんだろう。
「ししょー、ひーん!」
ザルドが仲間を連れてやってくる。
「師匠、今日はどんな訓練をしていればいいですか?」
おっ、そうか。師匠になったんだった。
うーん、本格的な筋トレは器具が無いからな……。
「ザルドたちは何て言ってるの?」
「訓練何すればいいかって」
するとベステルタは楽しそうに答えた。
「ならわたしが見てあげるわ。稽古つけてあげるって言ってちょうだい」
おいおい、大丈夫か。まあこの上ない人選だけどさ。
「ザルド、みんな、お昼までベステルタが訓練の相手するよ。言葉は分からないだろうけど、言うことをよく聞いてね」
「ひ、ひん! ベステルタ様がですか! 頑張ります!」
「がんばるぜ!」
「ベステルタお姉様も……良い」
みんな気合い入ったようだ。これなら安心だな。ベステルタには基本的な身体の動かし方などを教えてあげるように指示した。ただ、まだ子供だし遊びの延長を意識してやって欲しいな。
「いってきまーす」
「「「しとさま、いってらっしゃいませ!」」」
子供達がぶんぶん手を振って送ってくれる。それを守るようにベステルタが柔和に微笑む。幸せすぎる光景だ。前の世界じゃ望むべくもなかった。あっ、やばい、いいなこれ。ベステルタ、プテュエラ、シュレアと、この光景を再現したい。いや、作りたい。頑張ろうと思える。もしかして父性か? なるほどな……。
「ケイ、昼までどうする?」
「まずはゴドーさんに進捗の確認と頼み事をしに行くよ」
「了解だ」
その後はシルビアさん。食糧と冷蔵庫問題解決しなきゃな。その後は……使命に励むぜ。
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