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風呂作り

ダンプボアのステーキはあっさり上品でおいしかったよ。近くに湧き水があるらしいから連れてってもらう。風呂入りたいし。

「じゃあ行ってくるわね」


 ダンッ! 


 うわっ、なんだこの土煙!


 げほげほっ。あれ、ベステルタがいない。……あっ、あの空にいる紫の物体が彼女か。マジか一瞬であそこまでジャンプしたのか。どんな脚力だよ。一度スクワットとデッドリフトやらせてみたいな。この世界にも筋トレあるのかな?


「では私達も行くか」


 仕事モードのプテュエラ。スーツ着てくれないかな。いや、プテュエラさん。先輩はフレイムベアだからね。そこは譲れない。


「そういえば湧き水ってどこにあるの?」


 銀のプテュエラの背にー乗ってー。

 僕は気になって尋ねた。


「大した距離じゃない。時間にしたらそうだな、私達が本気になってケイからいろいろ絞り出すくらいの時間だな」


 10分くらい? 今はもう少しましになったから30分くらいかな。

 いや、ていうか僕のプライベートな下半身事情を時間換算するの止めてよね。さらっと無自覚にセクハラしないでよ。うーん、でも許す。


「ならあっという間だね」


「ふふ、そうだな。お、見えてきたぞ」


 話しているうちに目的地に着いたみたいだ。へー、窪地になっているんだねを上から見ると良く分かる。その中心に向かって進んでいく。


「やっぱり魔獣どもがいるな。やれやれ、掃除するか」

 

 そんなもの全然見えないんですが。彼女目にはサーモグラフィーでも搭載されているのだろうか。ありそう。


 やれやれ、僕は掃除した。と言わんばかりに気だるげな表情で、エグい風の玉を作り出す。小さい竜巻みたいな渦が五本くらいプテュエラの頭上に集まってどんどん大きくなって、唐突に弾けた。うっわ、この前より多い。一直線に眼下の森に向かっていき、音も立てず消えた。あれだけエネルギー集めてたのに、弾着が無音だと不気味すぎるよ。見てこれ鳥肌立ってる。ていうかプテュエラの帽子なんで飛ばないんだろう。


「よし、終わったな。降りるぞ」


 降りるに連れ、深い森の中にキラキラした光の反射が見てとれた。想像よりは大きかった。直径は5メートルくらいありそうだ。湧き水っていうより池に近いかな。


 降り立つと……うっ、魔獣たちのバラバラ死体が散乱してるよ。あのホーミングミサイルエグすぎるよ。音もなく追尾して対象を一撃で殺傷なんて。魔獣に少し同情する。


 湧き水はたぶん窪地の真ん中にあった。近くで見ると小さく感じるな。あとここら一体は砂利や大小の石がすごく多い。なんか素人目に見ても地形的な特徴があると分かる。


 ただ水の色なんだけど……、それはもうどす黒い。タールみたいにどろどろしていて、とろどころボコッと泡が立っている。ベステルタこれ飲んだことあるの? ちょっとどうかと思う。


「それでどうするんだ?」


「うーん、予想よりひどかったけど一応想定内かな」


 強がったけど、想像よりひどい。うまくいかなかったらどうしよう。まあなるようになるか。


「ほう。それで、何をするのかそろそろおしえてくれないか?」


「うん。ちょっとこの湧き水を浄化しようと思ってね」


「……それだけか?」


「それだけだけど、まあ見ててよ」


 プテュエラが豆鉄砲喰らったような顔をしている。クール美人のあっけにとられた表情は面白い。この表情をお風呂でもっと蕩けさせてやるぜ。


 勇ましく言ったものの、僕は浄化を発動させ、おっかなびっくり手を池に突っ込む。するとじわじわと水が澄んでいった。


「おお! すごいな。これなら飲めるかもしれない。でもそれだけか?」


「いや、まだだよ。やれるところまでやるつもり」


 僕としては完全に池の水ぜんぶ浄化するつもりでいた。いちいちお風呂の水を確保するのに浄化するのめんどくさいしね。それに水が綺麗になれば美味しい普通の野菜もできるかもしれない。


 それから僕はじっくり浄化していった。時間がかかるかもしれないな。ちょっとプテュエラとお話しようかな。


「プテュエラは風呂ってわかる?」


「ふろ? いや、聞いたことはないな。新しい料理か?」


「違うよ」


 プテュエラが美食に目覚めてきたのはうれしいけど、残念感も増してきているのは少し罪悪感がある。うーん、なんて説明したもんかな。


「水浴びはしたことあるよね?」


「もちろんだ。ただ、ここは綺麗な水があまりないからいつもはできないが。む、もしかして水浴びの水源を確保してくれているのか?」


「半分正解だよ。プテュエラやベステルタの毛並みは今のままでも綺麗なんだけど、あった方がいいでしょ?」


「う……。当たり前だ。嬉しいに決まっている。私達のために動いてくれたんだな。ありがとうケイ。お前は優しいな」


 ぎゅっ、ふわっ。

 後ろから優しく柔らかい羽で包み込んでくれる。いい匂い……。声を大きくして言えないけど、ちょいくさなのが最高です。


「泣いているのか?」


「そんなわけないでしょ。ぜんぶ自分のためだよ。君たちが綺麗になったら僕も嬉しいなってだけ」


「ふふ」


 くるるる、とプテュエラが喉を鳴らす。これ愛情表現かな。そういうストレートなことされたことないから、なんだかむず痒いや。


「それにしても澄み切らないな」


「ね。ほとんど綺麗になったんだけど、中央の涌き出ているところだけしつこいんだよね」


 僕たちはしばらくぴったりくっついて他愛の話をして、時間を潰していた。時折プテュエラが頭を首に擦り付けてどぎまぎした。


「魔法の出力はもっと強くならないのか?」


「できるけど、最大まであげたことないから少し怖いんだよね……」


「ふーむ。スキルは神の祝福だし、持ち主に害を与えるものじゃないはずだ」


 初耳だ。神の祝福なんだ。ということは知らない神様が祝福してくれたのかな。そっか。勝手にいきなり連れてこられて、少し複雑だけど、一応いまは幸福だからありがたくその祝福を受け取ろうかな。


「わかった。やってみる」


「やり方はわかるか?」


「たぶん。フレイムベア先輩で練習したからね」


「せんぱい?」


「気にしないで」


 心の声が漏れ出てしまった。いやまあ別に聞かれてもいいんだけど。


 僕はぐーっと力を込める。なんか胸の奥に重いボタンと言うかレバーというか、蓋みたいのがあって、それを動かす感覚だ。すると、どんどん浄化の力が強まっていくのが分かる。


 あっ、いきなり疲れてきたな。体が重い。少し頭が痛い。大丈夫かなこれ。


「おっ、いいぞ。中心の汚れが薄くなっている」


「ほんとだ」


 湧き水の中心はスキルを強くする前より、半分くらいの大きさになっていた。ほんとに頑固だな。あそこに何かあるのか? 魔力溜まりってやつ?


「プテュエラ、水の中に魔獣いないよね?」


「いないな。いたとしてもお前が気付く前に殲滅するさ」

 

 ヒューッ。 かっこいいぜ。

 僕はちゃぷちゃぷと湧き水の中に入っていく。ちべたっ。でも、これもお風呂のためだ。豊かな悦楽のため。僕が楽しむため。


 中心の黒い水に直接手を当てて浄化する。押し潰すように力を加えていくと、抵抗がどんどん少なくなっていった。


 うーん、頭も痛い。耐えられない程じゃないけど。何かを消費しているのだろうか? 生命力とか? そしたら笑えないけど。


「うん?」


「どうした? 大丈夫か?」


 少し心配げに訊いてくるプテュエラ。


「いや、なんか押し戻すような抵抗があったから変だなって、ふんっ!」


 めんどくさくなってきたから一気に力を加える。えいっ。


 ボコッ!


 ん? なんか押し潰したような感覚だな。なんだこれ。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。


 あ、あれ。その下からなんかすごい勢いで上がってくるぞ。地響きしてない?


「ケイ!」


 プテュエラが慌てて僕を掴んで湧き水から引き離す。


「な、なんか変な感触が」


「早く離れるぞ!」


 ボコッ!ボコッ!ぼこぼこっ!


 そうこうしている間に、あんなに静かだった湧き水の周辺の土が盛り上がり、水が染みだしている。あ。これはあかん。


「プテュエラ!」


「掴まれ!」


 ぐぅぅーん!

 と小さくない重力が身体にかかる。ぐっ、内蔵の位置が変わりそうだ。

   

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ、ゴボゴボゴボボボ!


 ボゴォッ!


 ブッシャアアアアアアアァァァ!


 僕たちが慌てて空中に逃げた途端、湧き水が吹き飛んだ。かなりの勢いだったようで、土やら水やらが空にいる僕たちにもかかる。あつっ! あっつ! なにこれ! お湯?

 お湯!? 違うこれは。


「お、おんせんだ」


「オーセンだと!? 狂神の仕業かっ!」


 誰だよそれ。知らない人だよ。


「違うよプテュエラ。これは温泉。温かい川みたいなものさ。身体にとってもいいんだ」


「そ、そうか。ならよかった」


 そのオーセン某についても訊きたいところだけど、今はこの圧倒的な光景に二人。目を奪われることしかできなかった。


 何十メートルもの水の柱が至るところから、何十本も吹き上がっている。これ、湧き水とか川とかそんなレベルじゃない。湖になっちゃうよ。


「さながら神の噴水と行ったところか……」


 プテュエラの詩的な表現を指摘できない。だってほんとにそうなんだもん。


「どうしたもんかな……」


 僕の目論みはオーバーオーバーな形で果たされてしまった。いや、ほんとどうすっかな。

ブクマ、評価、読んで下さりありがとうございます。主流なジャンルでも無いのにこんなに読んでくださるとは思ってませんでした。今後とも宜しくお願いいたします。

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