ダンプボアのステーキ
繁殖するための家が欲しいから方針決めたよ。そのあとはテニス(意味深)してました。
「腹減った……」
体のあちこちが軋む。でもラケットは折れてない。まだまだだね。
今何時だ? と思ったけど時計が無いから分からない。入り口のフレイムベア暖簾からこぼれる光は白い。たぶん朝だな。早朝だ。なんかここにいると昼とか朝とか夜とか関係無いな。食っちゃ寝て、食っちゃ繁ってるよ。
「んん……」
「むう……」
そして両隣には昨日の対戦相手。この先の対戦相手。毎日何セットも試合してるから段々癖とか分かってきたよ。なめるなよ。舐めるけど。
「はー、時間を気にしない生活って最高だな」
思わずそんなことを口にしてしまう。
でもその通りだよね?
前の世界ではいつでも時間を気にしていた。朝決まった時間に起きて、無理やりヨーグルト食べる。出勤時刻に間に合うために駅の乗り継ぎの時間を計算、動かない電車にいらいらする時間。仕事の期限、プロジェクトの進捗管理、お昼休みをどれだけ取れるか。
くたくたになって帰っても、自由な時間を確保するために全部逆算する。そして得られた自由な時間も結局時間。それすら何すればいいか分からなくてボーッと過ごして、明日何時に起きればいいか考えながら寝る。何時間寝れるかなって。はは、僕は時間が好きで嫌いで縛られて縛ってた。
うんざりだったなぁ。
でも、今はどうだろうか。
目覚めたら朝。隣に良い匂いのする女の子がいて、おもむろに撫でる。気が向いたらそのままスローに繁って、腹が減ったら食べてる。何食べたっていい。ステーキ食べたっていい。食べなくてもいい。
そして楽しいことを考えて、過ごして、今度は激しい挨拶をする。また眠くなったら寝て、食べて、元気になったら子孫繁栄のために行動する。そして寝る。夜とか朝は関係ない。
充実だ。
今僕は自由だ。
他人の時間じゃなくて、僕の時間に沿って生きることができる。幸福だ。
まだ寝ている二人を起こさないように朝食を作ることにした。せっかくだからダンプボア使ってみようか。ブラッドサーペントはちょっと癖ありそうなんだよな。おいおい試すけど。昼に回そう。
今日は開拓してみるか。所詮真似事だけど、なに、どうせやるなら面倒くさくてもやればいいのさ。なるようになる。
浄化したダンプボアは思ったよりもずっと黒く、脂はフレイムベアより少ない。つんつんと石の上のボアを触ると、なかなかの弾力。これはけっこう硬いかもな。こうやって比較するとけっこう違うね。
フレイムベアは二足歩行気味で、横の動きも必要だからある程度肉が柔らかいのかもしれない。逆にダンプボアはたぶん直線的な動きが多いだろうし、その分硬くて頑丈な筋肉なのかもね。
あー、でも、もの○け姫で口移しで硬い肉あげるシーンあったじゃん? あれでかったい猪の肉に憧れてたんだよね。やってもらうのもいいかも。そういうの抵抗ないし。
うーん、とりあえず普通に焼いてみよう。
ダンプボアからラードを抽出する。変な臭みとかは無さそうだな。よかった。香ばしい豚系の薫りだ。ちょっとスモーキーなのが良い。木の実が主食だからかな? もし草食なら肉にも期待できる。
「よし、とりあえず簡単なダンプボアステーキ完成だ」
出来上がったステーキは300gくらい。けっこう黒いのが不安だ。血の色だろうか。うーむ。ガリガンはまず使わないで作った。
これでも今の僕はぺろっと食べてしまう。亜人に生活合わせると身体がどんどん野生化していく気がする。
一口。
さくっ。じゅわっ。
「うわうんまぁ」
思わずため息を吐く。何この優しい味。これはうまい。フレイムベアとは全然違うな。
フレイムベアは脂がけっこう多く肉質もダンプボアより柔らかいから、こってりした印象だった。
でもダンプボアは見た目に反してかなりあっさりしている。脂も多くない。肉質も適度な歯応えを残しながらサクサクと歯切れ良い。何より味わいが優しい。何て言うんだろう、バランスの良いんだよな。上品だ。最後微かに血の味がするのが野性味あってまた良い。うーん、いくらでもいけるぞ。
「いい匂いがするわね」
「いつもと違うな。もしかして」
目敏く? 鼻敏く? ダンプボアステーキの匂いで起床するお二人。もちろん、人数分作ってあるよ。
「そうだよ。新作のダンプボアステーキ」
「ありがとう。楽しみだわ」
「シャッ」
プテュエラが拳をぐっと握って小さくガッツポーズした。僕は大人だから何も言わずスルーするよ。ベステルタも大人だね。釘付けだけど。どうぞ、召し上がれ。
「これは……食べやすいわね。フレイムベアと明らかに違うわ。わたしはけっこう好きよ」
「私は正直物足りないが旨いとは思う。歯応えは好きだ。もうパンチがあってもいい。ニンニク? は使わないのか?」
おっ、少し好みが分かれて面白い。
ベステルタはあっさりも好きなんだね。プテュエラはこってりが好きなんだね。すっかりニンニク先生の虜だ。
「最初は好みがわからないから使わなかったんだ。次からは使うよ。ベステルタは?」
「うーん、少しだけでいいわ。ダンプボアの風味が損なわれちゃう気がするの」
「私はこの歯応えにこそニンニクの強い味が活きると思う」
二人ともグルメ回答だね。好みがはっきりしている方がこっちも作りやすいよ。
そのあとたっぷり精をつけた僕たちは爽やかな朝の空気を纏って、ゆっくり繁った。
ちなみに歯磨きや風呂については浄化スキルで対応している。浄化使えばお口スッキリ、身体もスッキリでほんとありがたい。口臭は不仲の元だからね。気を付けたい。ミントみたいなハーブがあればもっといいんだけど。
「ふむ……風呂か」
「どうしたのケイ。そんなに改まっちゃって」
「シュレアみたいな顔してるぞ」
シュレアさんってこんな感じなの? ちょっと不安なんだけど。
まあそれはどうでもよくて、気にしているのは風呂のことだ。浄化で清潔にできるとはいえ、風呂には入りたい。亜人たちにもお風呂の良さを知ってほしいし、あとお風呂でしかできないこともあるからね。ぐへへ。
「二人とも水とかお湯ってどれくらい出せる?」
「わたしはコス茶十杯分くらいね。水系統は少し苦手なの」
「私は二十杯くらいだな」
やっぱりいくら亜人とはいえ、得意不得意はあるんだね。それだけ出せれば十分だと思うけど。
僕も生活魔法は使えるけど、一辺にたくさんの水は出せない。魔力も増えてきたけどさすがに非効率だ。
「この近くに川ある?」
「うーん川は無いけど湧き水ならあるわね……変な色してて美味しくないわよ?」
「ああ、あんまり飲みたいものじゃないな」
うぇー、って顔をして顔をしかめる。ぺろぺろしたい。
「いや、いいんだ。ちょっと思い付いたことがあってさ」
「ふぅん? なんだか楽しそうね。わたしもついて行きたいけどシュレア探しに行ってくるからプテュエラに見てもらいなさい」
「任せろ」
あっ、探しに行ってくれるんだね。助かるよ。なんか計画通りに動いてくれるのって嬉しいね。
「じゃあベステルタはシュレアさん探し宜しくね。プテュエラは一緒に湧き水に行こう。一応、今やろうとしていることは亜人の未来にも関わってくることだからね」
「なら手は抜けないな。任せておけ。お前を脅かすものは私が殲滅してやろう」
キリッと仕事モードの二人。うーん、かっこいい。ずっと甘えて困らせていたい。会社の先輩がこんな人ならブラックでもやる気でるのに。まあ今更だけどね。
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