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†四章†2




 YO! YO! YO! YO!


 ラップが、聞こえた。


 夜の街に繰り出したENJOYイキリラッパー達が闊歩していたのだ!!!!!


 俺たちが戦闘している近くの道を歌いながら、(うた)いながらステップを踏み行進している。


 この状況に、過剰反応した者が二人いる。

「なんでだよ!!!!???」

「ぐがああああああああああああああああああ!!!!!?????」


 ツキとフードの男だ。


 ツキはいつも通りとして、フードの男は何故苦鳴を悲鳴を上げたのか。


「ラップを止めろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!! くそがああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


「……まさか奴、ラップが苦手なのか?」


 フードの男は圧倒的な優位に立っているにもかかわらず、戦闘を中断し逃走していった。幼女の腕を引っ張り逃げていく。シュバルツェスツインドライブはそれを追いかけた。


 ラッパー集団も次第に遠のいて行き、夜のストリートを静寂が支配する。


「た、助かったのか……?」

 フードの男が、ラップが苦手だったから。

「意味不明な感じに助かっちゃったよ!!!!!!」

「奴の弱点はラップなのか」

「なに冷静に分析してんの!!!!!」


「それより、あの男を見た時のアリスとしととねちゃんの反応が気になる」

「そりゃそうかもしれないけど! 順応早ない? もっとおかしいと思わないの!?」

「起こったことが全てだ!!!!」

「言い切った!!!!!」

 事実を受け止めろ。


「それで、アリス、しととねちゃん、あの男について何か知っているのか?」

「あいつは…………」

 アリスがフリフリのスカートをぎゅっと握って震えている。

 しととねちゃんが黙ってしまったアリスの言葉を継いだ。

 

「あいつは、アリスちゃんの両親を殺した男なんです……」


「……シット…………ッ」


 運命は、因果は、縁は、数奇なものだ。



 それから、俺たちの地獄のラップ修行が始まった。

 二人の幼い少女を酷く傷つけたあの男には、絶対に勝たなければならない。

 フード男の弱点がラップならば、【ウルトラミラクル】を使用不可にされる俺たちに取れる選択肢は一つだ。


 家に帰り、ツキと一体化して戦闘の負傷を癒した後、親父が以前使っていたラジカセと机の奥に眠っていたグラサンを引っ張り出した。

 ラップの神器と言ったら、やはりこれだろう。


 俺は自室でグラサンをつけ、ラジカセに親父が持ってた適当なCDを入れ再生し、抱え、ラップを刻む。


「あれだ。それだ。それだぜ。YO!YO!YO!」

 言葉があまり浮かばなかった。

「くそっまだまだだ」

「そういうレベルじゃないよ!!!!!」

 ツキが割り込んできた。

「あとYO!YO!ばかり言ってればラップになると思ってない? それ偏見で、実際は歌詞を考える上で、ここにもう一つ何か単語を入れるだけでラップがスムーズになるような場合に、HeyやYOなどの単語を入れる場合があるらしいよ。あと、ラップ的音楽の中で「雰囲気」とか「空気感」を担っていた部分があるって意見もあるね」

「なんでそんなこと知ってんだ」

「ネット」

「やはり真実はネットに眠っていたか」

「どうしよう。わたしのご主人様壺買わされそう。ネットのデマに惑わされて道化のように踊りそう」

「あん?」

「まあ、ネットで歌詞の作り方とか調べるのはいいと思うけど」


 PCを起動し、歌詞の作り方を調べながら思考錯誤していく。ツキとあーだこーだ言い合いながらも、少しずつ完成へと近づけていった。



 

 大海代悟の家、一階リビングにて。

 アリスとしととねちゃんが、ソファに並んで座っていた。


「しととねちゃん……アリス、やっぱり戦うよ……」

 静かなリビングに、決意の言葉が放たれた。

「え……いいんですか? 戦うのって怖いですよ? 死んじゃうかもしれませんよ? いえもしそうなってしまったらあたしが絶対に護りますし死なせませんけど。でも、すごく怖いんですよ?」

 しととねちゃんはアリスが心配で、できることなら戦わせたくなかった。

「うん。わかってる……。この前の戦いのときも、こわかった……」

「それなら」

「でも、ずっと逃げてばかりじゃだめだと思う……それに、お父様とお母様の仇、取りたい……そうしないと、ずっと前に進めない気がする……」

 しととねちゃんは一つ息をついて、少し考える。そして口を開いた。

「アリスちゃんはちゃんと考えてるんですね。考えた上で、決めたんですね」

「うん……」

「なら、あたしはアリスちゃんと一緒に戦うだけです」

「ありがとう……いつも、頼りにしてる。しととねちゃんだけが、ずっといてくれる友達……」

「えへへ」

 しととねちゃんは本懐だというように、笑った。

 主が戦うと決めたのなら、共に戦い勝利を与えるのが、召喚獣なのだから。




「だからここの歌詞は"正義"の二文字を入れるんだよ!!!!!!」

「いや正義ってもう何十個も歌詞に入れてるじゃん!!!!! むしろもっと減らして!!!!!」

 俺はツキと殴り合いながら四苦八苦歌詞を考えていた。 


 そんな時、部屋の扉を開く音。


「アリスも……一緒に戦わせてください……!」


 アリスが決意の瞳を(たた)えてそう言った。

 仇と再びまみえたことで思うところがあったのだろうか。

 だが、アリスを戦わせていいのか? 

 このような小さな少女の悲壮な決意を、肯定するべきなのか?

 戦いから遠ざけるべきなのか?

 それとも、意思を尊重するべきなのか?

 

「しととねちゃんは、それでいいのか」

「はい。二人でちゃんと話して、決めたことです」

「そうか……」


 ならば、俺が口出しすることではないのかもしれない。

 いや、どうなんだ……?

 ええい!


 悩むのめんどくせええええええええええええ!!!!!!


 俺が守るからいい!!!!! 好きにさせる!!!!!


 そうだ!!!! そうするぜ!!!!!!


 問題が起こったらとか考えねえ!!! 問題は起こさせねえ!! むしろいつも問題だけが起きている!!!!!!


「よし、共に戦おう。戦友よ!」

 俺は手を差し出す。

「うん……!」

 アリスが俺の手を握る。

 その小さな手は、戦意に満ち満ちていた。



 それから、ラップの歌詞も四人用に考え直すことになった。


 アリスがとりあえず最初に考えてみたラップを披露してくれる。

「お菓子 ぬいぐるみ お母様お父様、奪った。許せない。戦う。倒す。きるゆー」

「アリスちゃん随分攻撃的だね!?」

「拙いラップだが、思いが籠っていていいと思うぞ」

「いいですよいいですよアリスちゃん、その調子!」

「ご主人様、拙いとか人のこと言えないと思うよ」

「なんだとこら」

 また殴り合った。

 俺とツキの右ストレートがお互いの頬に突き刺さる。


 四人でラップ修行を続けていると、陽が沈んできた。


「くそっ、ラップが上手くならない。どうすれば……」

「わたしとご主人様二人で殴り合ってただけじゃん!」

 そう、最初に少し進んで以降、ラップの歌詞を考えてる時間や歌う練習をする時間より、意見をぶつかり合わせ殴り合っている時間が多かった。8割がた殴り合っていたのだ。

「馬鹿か!」

「ご主人様が馬鹿だよ!」

「お二人とも馬鹿だと思うんですが」

 しととねちゃんが言った。

「しととねちゃんわかってたなら止めてよ~!」

「いえ、放っておいた方が面白そうかなと思いまして」

「なんだよそれ~;;」

 アリスはずっと真剣にラップを口ずさんでいた。


「ええい! とにかくラップ修行をしっかりとやるぞ!」

「もう一朝一夕で劇的に上手くなるってのは無理だと思うから、思いのたけをぶつければいいんじゃないかな?」

「思いのたけ……」

 アリスのラップも思いが籠っているしな。


 それから俺たちは、ラップ修行をさらに続けた。

 死に物狂いで何とか形を整えていく。

 そして、俺たちのラップは、どうにかこうにか、完成したのだった!!!!!!




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