†三章†2
俺たちは相手の能力に嵌まっている状態だ。普通には勝てない。このままだと敗北は必至。
だが、俺たちの【ウルトラミラクル】なら勝てる。完全に罠に嵌まったこの状況で、時間の猶予を作ることができればだが。
「ツキ、やれ!!!!!!」
「わかった! 【ウルトラミラクル】!」
【勝利条件:北条院アリスの太ももへ、可能な限り股間付近に正の字を書け】
「最低だな!!!!!!!」
「しょうがねえだろ命が掛かってるんだ!!!!!!!!」
「わかってるよ!!!!!!!!!」
早速アリスの太ももへ正の字を書かなければ。
「ああああ!!?? そういえば書くものがねえ!!!!」
「も、持ってます……」
アリスがマジックペンをくれた。
「なんで!!???」
ツキが騒がしい。
「アリス、勝つためにお前の太ももへ文字を書き込まなければならなくなった。協力を頼む!」
「どういうことですかーーー!!??」
しととねちゃんがビックリ仰天した。
「は、はい……わかりました」
「わかっちゃだめですよーー!!!???」
「書かないとここで全員死ぬぞ!!!!」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……あとでKILLを覚悟してください!」
しととねちゃんは分かってくれたようだ。
アリスは顔を赤くして恥ずかしがり、足をもじもじさせてひらひらとしたスカートをたくし上げた。
「書くぜ!!!」
マジックペンのキャップを開け、正の字の一画目を書く。身を任せるアリス。くすぐったそうだ。
俺は背中を引き裂かれた。敵の狼型召喚獣だ。
「ぐぅぅ! これしきのことで!!!」
「これもうどっちが悪かわかんないよ!!!!!!!」
「俺が正義だ!!!!!」
「わかってるよ!!!!!!!」
また狼の切り裂き攻撃が襲い来る。
「きゃあぁっっ!?」
ツキが俺を庇い肩に喰らった。服が裂かれ白い肌から血が滴っている。
「わかってるから、ご主人様だけにダメージ受けさせないよ!!!」
「助かる!!! だが無理するな!!」
「しととねちゃん……」
「アリスちゃん大丈夫ですか? 頑張れますか? この男には、あとで感謝してお礼して、あと腐れなくなった時期にボコボコにしましょうね。あとイチモツをちょん切りましょう」
「大丈夫……だけど、ボコボコは駄目……切る? のも駄目……助けようとしてくれてるから……それより、時間稼ぎをして……大海さんを護って……」
「……アリスちゃんを護る結果になりますからね。やります。やるしかありません。今、"使えるようにもなりましたからね"」
俺とツキは既に何度も爪に裂かれ、ボロボロの血だらけだった。マジックペンを握る手が震える。
「ちく、しょう……」
「まだ、やれるよ……」
このままでは、アリスの太ももに正の字を書く前に死んでしまう。
社平権蔵がほくそ笑む。
「さあ、いたぶるのはこれぐらいにしておこうか。止めだ!!!!」
狼がまた姿を現し、全力の爪攻撃を確実に命中させようとしてくる。
「【ハッピークロニクル】!」
しととねちゃんが叫んだ瞬間、狼の爪はしととねちゃんを切り裂いた。
だが、しととねちゃんは大したダメージを負っていなかった!!
「なにぃ!!!!???」
社平権蔵は驚愕と共に呻いた。
「あたしの《サモンアビリティ》、【ハッピークロニクル】は、"溜め時間"を必要としますが、『あり得ない幸運を起こしてくれる能力』です。そう、狼の攻撃はあたしに"偶然"狙いを移しました。敵の"気まぐれ"です。そして、爪はあたしに命中しましたが、"当たりどころが良くて"敵の爪がある程度受け流されたため、大したダメージを受けずに僅かな裂傷と打撲程度で済みました」
これで、僅かな時間が稼がれた。そして、その僅かな時間さえあれば、できることがある!!!!
「今です! アリスちゃんを助けてください!!!!」
「だらあああああああああああああああああああ!!!!!」
俺の持つマジックペンの先がアリスの柔らかい太ももを走り、正の字を描いた!!!!
【条件達成:勝利確定】
【ウルトラミラクル:超動】
「よし! 条件は達成された!!」
「よし、だけどよしじゃないんだよ!!!!! でも助けるためだしあああああああああああもう!!!!! よし!!!!!!!」
俺の体が黄金のオーラに包まれ、敵の召喚者が目の前に現れた。
「お前か……クソ野郎……」
スーツを着た会社員風の男が、今まで俺たちを苦しめていた輩だったらしい。
「馬鹿な……私がこんなところでェ……!!??」
連続で無数のパンチを叩き込む。
「ウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウルウル!!!!!」
「ぐあああああああ、人間人間人間人間人間!!! 動物こそが最高なんだァあああああああ!!! 下等な人間どもがあああああああ!!!!!」
「人間も動物だ!!!!!! ウルトラァ!!!!!!!!!!」
黄金の右ストレートが顔面を殴り抜いた。
「ほげええええええええええええええええええええ!!!????」
スーツを着た召喚者はぶっとび、転がり、倒れ伏す。
そして奴はもう、【ウルトラミラクル】の能力により誰かを襲うことも襲われることもない。
「これが俺の――HAPPY FIGHT END」
俺とツキは血だらけで、立っているのも辛いが、勝てた。
†――またまた勝ったね。頑張ったね、お兄ちゃん――†
またまた、夕奈の声が聞こえた気がした。
敵が創り出した世界は崩壊し、俺たちは元の、俺の家のリビングに帰還する。
「疲れた……」
俺は倒れる。
流石に血を流し過ぎた。
「「大海さん……!?」」
アリスとしととねちゃんが慌てて寄ってくる。
「あわわわわっ病院、病院呼びませんとっ!」
「病院はいいよ。ご主人様、回復するよ……」
ツキが這って来る。
そして、俺の体にツキが触れると、俺たちは一体化した。
「これで、休眠モードに入ったから。こうすると、召喚者と召喚獣は回復できるんだ。病院より確実だよ」
ツキの言葉を聞きながら、俺の意識はブラックアウトした。
目を覚ますと、アリスとしととねちゃんがいた。
俺は自室のベッドに寝ていて、そのかたわらに二人が座っている形である。
「あ、起きました」
「…………」
「俺はどのくらい寝てた?」
「戦いが終わってから、丸一日ですよ」
窓を見れば、朝の陽が差している。
「ふいー。よく寝たー」
ツキが俺の体から出て伸びをしだす。もう全回復したのか、傷一つないらしい。
「もう体は大丈夫なんですか?」
しととねちゃんが訊いてくる。
「ああ、全く痛くない」
「よかった……」
アリスが心底安堵したように呟いた。
「これからお前らはどうする? 何ならここに住むか?」
「はい……」
アリスが即答した。
「しととねちゃん、いいでしょ……もう、帰る場所なんてないんだから」
「え!? う、う~ん……アリスちゃんがそうしたいなら、いいですけど」
両親がいなく身寄りもないアリスは、ここに居たいと思ってくれたようだ。
「え、ええ?? そんなに簡単にいいの? お金とかは? ご主人様のお父さんが帰ってきた時どうするの?」
「親父なら大歓迎するだろう。金なら親父がかなり稼いでるから問題ない」
「豪快過ぎる! まあいいけど。アリスちゃん、これからよろしくね。ご主人様がアリスちゃんに結構酷いことしたけど大丈夫? でもご主人様も結構頑張ったからできれば許してあげてほしいな」
「あんなに痛そうだったのに、それでもアリスを護ろうとしてくれた。すごく優しくてかっこいい人…………」
アリスが俺に抱きついて来た。
「助けてくれてありがとう……」
アリスは笑顔だ。初めて見た。
「あたしからもありがとうございます。あと、アリスちゃんにセクハラしたのでいつか殴ります」
「助けるためだったから許せ」
「許してますよ。けど殴ります」
そんなこんなで、四人で暮らすことになった。