†二章†2
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ふと、わたしが見たご主人様の横顔が、初めて弱さを見せていた。
余裕そうに見えて、焦っているのが分かった。
ご主人様の役に立ちたい。ご主人様を勝たせるのが、わたしの役目なんだ。
でも、どうすれば?
――いや、一つだけあるかもしれない。
これは賭けだ。
でも、賭けに出る価値はあると思う。
「よ~し! ご主人様、いくよ!」
【条件破棄:再設定】
わたしの【ウルトラミラクル】は、勝利条件を再設定できるんだよ! やろうと思えば何度でも!
本来ならこのリセマラは、あまり意味はないんだけど。
条件を再設定しても、同レベルに困難な条件が設定されるだけ。通常時ならリセマラする時間を浪費するだけなの。
だけど今の状況では、起死回生のために、賭けに出る価値はある。
ライライ君に近づくのは、あまりにも難しい。ご主人様が負傷した今、なおさらだ。
でも、別の勝利条件なら、同じレベルの難しさだとしても可能性はあるはず!
「ご主人様、こっからだよ!(`・ω・´)」
†
【勝利条件:三丁目の田中くん家にある冷蔵庫のマヨネーズをマヨチュッチュせよ】
「えぇ……」
「ツキ、でかした!! どうしてげんなりする!」
「いやだって……」
「この一手を打ってくれたのはお前だろう! 誇れ!」
「確かにそうなんだけど、この勝利条件は萎えるよ……さっきまでテンション上がってた自分が馬鹿みたいだよ」
「だがどうやって、三丁目の田中くん家まで行くかだ……」
速さはあちらの方が上だというのに。
「切り替えよう……切り替えよう……(・。・;」
田中くんちの位置は、【ウルトラミラクル】の条件が決定した瞬間に「解っている」が。
どうするか。
まあ、一つ手はある。
賭けになってしまうが、一つ。
「ツキ、一発だけ奴の突進を耐えられるか?」
「耐えられ……る、かも、しれない、けど……戦闘不能になる可能性もあるかな」
「何か一つでも盾になれば別か?」
「それなら、まあ」
「よし、行くぞ」
「なんだぁ? 諦めがついたかぁ? じゃあ、死ねィ!!!」
【ピンポイントファイナル】が放たれる! 超速回転し超速のドリルを命中させるべく!!
「気張ってええ!!」
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
ツキは俺に抱きつき翼で包む。
だがそれだけではツキは無理だと言った。だから俺は、路地裏に打ち捨てられていた自転車を引っ掴んで楯にした。
自転車と一対の翼を楯にして、ドリルゴンを正面から受けた。
「んんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!」
「ぐぅぅぅぅううううううううう!!!!」
自転車が拉げ壊れツキの翼が軋む!
重い!
だが、この重い一撃を、利用する!!
俺たちは衝突の勢いを利用して、ふっ飛ばされたのだ! 高く高く、今、空を飛んでいる!
そして軌道は、田中くんちの方角を向いている!!!
「なに!!?? 逃げるつもりか!!!!!」
馬鹿が。勝利への逃走だよ。
途中からツキが翼で飛び姿勢を制御し、田中くんちの前に無事着陸した。よく見る二階建ての木造建築だ。
ライライたちが追ってきている様子はない。
「それで、どうやってマヨネーズ貰うの?」
「正面から行くしかねえだろ」
「確かに、そうだよね」
田中くんちのインターホンを鳴らした。
「はい。どなたですか?」
ドアを開けて、田中くんの母親らしき人が出てくる。
「すみません! マヨネーズを頂きに来ました!!!!!!」
俺はその人を優しく押し退けて家に入っていく。
「正面からって、頼むんじゃないの!!???」
「そんな時間はない!!! いつ奴が来るかわからんだろ!!!」
「またこんなのばっかり~!!!;;」
「ちょ、ちょっと! あなたたち勝手に家に入らないで!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!!!」
台所まで行く。
「ありやがった! マヨネーズ!」
田中くんだろう小学生っぽい子供がマヨネーズをサラダにかけようとしていた。
早くマヨチュッチュしなければ。
「すまない! 埋め合わせはする! だからよこせ!」
田中少年からマヨネーズを引ったくる。
「ごめんね田中くん。マヨネーズこのお兄ちゃんが盗っちゃって……」
呆然とする少年にツキが平謝りする。そのうえ子供に大人気のカードゲームのキラカードを握らせていた。いつそんなの手に入れたんだ?
ともかくこれで、俺の勝ちだ。
バリーン!!!!!!!!!!
窓が割れる音!!!!!!!!!!!
窓を割ってライライが不法侵入してきた!!!
「見つけたぜェ……救世主ゥ……」
「キョカクチョエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
ガラスを踏みにじり、ライライとドリルゴンが執念深く並び立つ。
「お前! 不法侵入だぞ!」
「どの口が言うの!!」
「俺は! 窓を! 割っていない!」
「どっこいどっこいだよ!!」
「貴様はなぜここに来た! 何をするつもりだ!! ――そう聞きたいところだが、頭の良いオレは感付いちまったぜェ」
いやらしく笑い、自分の頭を指でトントン叩くライライ。
「なんだか知らねえが、そのマヨネーズが目的みてえだな。嫌な予感がするから、頂かせてもらうぜ」
ドリルゴンが向かって来る。速過ぎて対応が追いつけねえ! 俺の手からマヨネーズを、あまりにも容易く取られた。
絶体絶命!!
「俺がすべて飲んでやるよ!!!」
奴はドリルゴンから渡されたマヨネーズに蓋を開けて口を近づける。
そこで、ライライはなぜか止まった。
「オレ、今飴舐めてんだった……」
そう、ライライの口内には、まだ飴が残っている!!
「ああ、ちくしょう! 口から出さねえと、飴とマヨネーズが混ざって変な味になっちまうじゃねえか! オレは変な味は嫌なんだよ!」
「そこは我慢してよ!!!!!!」
「よし、今だ。勝機は今しかない!!」
ライライが飴を取り出して手間取っているその隙に、俺はマヨネーズを引ったくった。
そして、マヨチュッチュする!
チュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥっっ。チュポンッ。
「俺の、勝ちだ」
【条件達成:勝利確定】
【ウルトラミラクル:超動】
黄金のオーラが俺の周囲に顕現する。無敵が今、現実に降りた。
「ウルウルウルウルウルウルウルウル!!!!!!!!」
刹那の間にライライの正面へと移動し、無数のパンチを叩き込む。
「ウルトラァッッッッッッッ!!!!!」
「ハウグァァァァァァァァアアアアアアア!!!!?????」
ライライはぶっ飛び、倒れ伏す。
「もう、お前は、戦うな。勝負がしたいなら、この††Summoned Beast Battle Royal††が終わったら俺がいくらでもしてやらあ。だから、誰も傷つけんな」
「くっそおおおおおおおおお!!! ざっけんなああああああああああああ…………」
「これが俺の――HAPPY FIGHT END」
これで奴の、戦闘の権限は無くなった。【ウルトラミラクル】の能力で、ライライは誰かを傷つけることはできなくなった。
「今回も勝ったな」
「うん……疲れたよ……」
「ああ、強敵だったな……」
「それはそうだったけど! そういう意味じゃないんだよ~;;」
†――お兄ちゃん、今回もかっこよかったよ――†
妹の、夕奈の声が、また聞こえた気がした。