†最終章†2
突如としてオレの視界は変貌した。
目の前には、全身どす黒い緑色をした人型の【貪食】。頭部には口だけがある。
【第三貪食】《グール》
そんな名が頭に浮かんできやがった。
「ほう? なんだかよくわからねーガ、オレはこいつと戦えばいいんだなァ?」
この場は、【貪食】に蹂躙された更地同然の自然公園。ほとんど荒野と化している。
「いいバトルフィールドじゃねえかァ」
《グール》が武術の構えを取った。やる気満々ってか。
上等だァ。
「いけェドリルゴン!!!!」
頭部にドリルのような角がついたオレの相棒ドラゴンが飛行突貫していく。
《グール》も地を蹴り、ドリルゴンと正面からぶつかり合う。
そして極限の格闘戦が始まった!!!!!!!!
角、爪、牙、尻尾、そして拳と足技が応酬される。それはどちらも、卓越した武人の如き体捌きだ。
ドリルゴンの格闘術は、救世主に負けてから修行しかやれることがなかった結果、格段に上がっているのだァ!!!!!!
ドリルゴンと《グール》の激戦が繰り広げられていく。
ああ……。
「こういうバトルを待ってたんだよォ! 楽しい! 楽しいぜェ!!」
オレは今、最高のエモーションを感じていた。
強力な一と一のぶつかり合い!!!!! 正面からのせめぎ合い!!!!!!! これがいいんだァ!!!!!!
テンションが振り切れた状態で、数十分の時が流れた。
オレは、もう我慢できなくなったアァ!!!!!!!
「オレも混ぜやがれえええええええええええええええええええええェェェ!!!!!!」
ドリルゴンと《グール》がやりあってるバトルフィールドの中央へ突っ込む。
オレとドリルゴンが交差し、すれ違い、オレが《グール》の目の前に躍り出た時。
オレのテンションは、最高潮へと達したッ!
刹那、運命に導かれるように、ドリルゴン、第二の《サモンアビリティ》が覚醒!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
まずドリルゴンの体が硬質化し、分離してパーツに分かれる。
ドリルゴンパーツがオレの体に装着されていく。それは鎧となる。
両腕にドリルゴンの角型パイルバンカーが付き、兜がフェイスを覆ったところで、灰色の装甲騎兵が完成した。
【フルアーマードリルゴン】
それが、第二の《サモンアビリティ》の銘。
オレが全力で暴れ回る為の《サモンアビリティ》。
この鎧装着までの時間、僅か0,01秒。
「暴れまくるぜえええええええええええええええええ!!!!!!!!!」
《グール》と殴り合う。
「楽しいぜえええええええええええええええ!!!!!」
右腕のパイルバンカーを射出する。杭の突先と《グール》のどす黒い緑色の拳が衝突。お互いの衝撃と力を喰らい合い狂う。
「過去最高に、充足!!!!!!!!!!!!!!!!!」
†
「な、なにが起きたんですか!? どういうことですか!? 一面緑! 草原! なんで??!!??!!」
アリスたちは、どこかもわからない草原にいた。
「わからないけど……今は戦うしかなさそう……【貪食】の気配が、する気がする……」
「たしかにあたしもなんかやばい気がします!」
しととねちゃんが【ハッピークロニクル】を発動する。
どこからかものすごい速さで飛んで来た攻撃が、すぐそばの草が生えた地面を破壊して抉った。
危機一髪。【ハッピークロニクル】を発動していなかったら、今この攻撃がアリスかしととねちゃんの頭をふっ飛ばしてたと思う。
【第四貪食】《イート》
そんな名前が思い浮かんだ。今攻撃してきた貪食の名前だ。
場所も、目視できた。
ちょっと遠いけど、目視できる範囲にいた。草原だから、遮蔽物がなくてなんとか見える程度だけど。
四つん這いでどす黒い緑色の、ゲームで見たことがあるスナイパーライフルみたいな見た目。それかナナフシ。銃口の部分は、大きな口だけがあった。さっきは、あの口が飛ばされたのかな……。
「ひええええええええ! スナイパーって! このフィールドでスナイパーって! 頭おかしいんじゃないですか!!!!!!」
遮蔽物が一切ないから、身を隠せない。
《イート》が、狙撃した。口が物凄い速さで射出される。それは避けるなんて絶対できない速度。
【ハッピークロニクル】が発動して、近くの地面をまた口が抉ってから、狙撃されたと気づいた。
「あれ、これ【ハッピークロニクル】のストック切れたら詰みでは?」
決戦の前に、【ハッピークロニクル】の発動回数は満タンにしておいたけど、それでも足りるかどうか……。
「どうしましょうアリスちゃん!?」
「……とりあえず……【ハッピークロニクル】で耐えながら倒すか、みんなと合流する手段を見つけるしかない……」
苦しい戦いが始まる…………!
「それはそうと、あの【貪食】ちんこに似てませんか? ちょん切りたい……」
「えぇ……病気……?」
†
我は、なぜか瓦礫がいっぱいある場所に、いた。
でも、それよりも。
ここに移動させられる前に、見えてしまった光景の方が重要だった。
「お母さんとお父さんを護ってくれてた人……死んじゃった……?」
食べられるところを、目の前で見た。
「もう、会えない、の……?」
絶望。
「ふえ……」
じわりと、涙が溢れて来る。
突然シュバルツェスツインドライブに抱え上げられた。我の召喚獣はすかさず飛び退る。
今まで立っていた場所になにかが落ちてきて、爆発した。
空を仰ぐと、【貪食】が飛んでた。
【第五貪食】《マンジャーレ》
そんな名が魂から理解からされた。
どす黒い緑色の口に羽が四枚付いている怪物だ。
「戦わなくては……戦うって、自分で決めたのだから」
泣きそうになる自分に言い聞かせる。奮い立たないと、駄目だ。
「まだ、完全に会えないと決まったわけではないっ!」
そうだ!!!!!!!!!
「方法を探せばいいのだ!!!!!!!!!」
とにかく今は、泣く前に戦う。
《マンジャーレ》が口から口を落としてきた。
シュバルツェスツインドライブに抱えられながら移動して避ける。
地面に落ちた口は爆発して、極小の大量の口をばら撒いて破壊を振り撒く。手榴弾のような原理だ。
何度も口爆弾を投下されて、何度も避けていく。
降ろしてもらった方がシュバルツェスツインドライブは全力を出せるが、その場合我が狙われたら終わりだ。この空域を支配する相手に隙は晒せない。
「我、飛ぶ相手とばかり戦ってる気がする……」
ししょーとか、ししょーとか。あれ、二回目だった?
どうやって、遠い空に居座るあいつを倒そうか。
ししょーがツキちゃんと一緒に飛んでいる時よりも、遥かに高い位置を《マンジャーレ》は飛行している。
「これ絶対届かない……」
我を抱えるのを止めてシュバルツェスツインドライブに全力で飛んでもらっても、届かないと思う。
――倒す方法が、ない。
「あれ、これ、勝てない……?」
怖くなってきた。
涙が、また……。
でも、勝たないと。
戦うって、決めたんだから。
「こいつを倒して、我は強くなる!!!!!」




