†六章†1
「つまり、そういうことなの」
異世界から帰って来て、寝て休んだ次の日の朝。
アリスたちへの、今までの経緯の説明をツキが終えたところだ。
我が家の女たちは非難囂々だった。
「もうどこにも出かけさせない……」
「ししょーは我とかっこよさを追求してればいいんだ!」
「アリスちゃんと雫ちゃんが悲しむことをするならあたしにも考えがあります」
「どうせちょん切るんだろ!」
「いえじわじわと切り刻みます」
「より残虐になっただけじゃねえか!!!」
「待って待って! ご主人様も頑張ってたからあんまり責めないで上げて」
「異世界に飛ばされなけりゃメリルの思いを受け取ることもできなかった。後悔はしていない」
「確かに大海さんは頑張った……メールがきて確かめに行った選択をすべて否定するわけじゃない……異世界に行くなんて大変なことになっても、帰ってきてくれて嬉しい……でも、こっちだっていっぱい心配した。めちゃくちゃ探し回った……」
アリスが真剣な表情で言った。
「ああ、すまねえ。そこは謝る」
「アリスちゃんと雫ちゃんと町中駆け回りましたよ。疲れました、あたしの肩揉んでください」
しととねちゃんの戯言は無視するとして。
「それで」
まだアリスは俺になにか言いたいことがあるようだ。
「またどこか行こうとしてるの……?」
「……なんでそんなことがわかる?」
「なんとなく……。一緒に過ごしている内に大海さんの様子でわかるようになっちゃった……」
確かに俺は、オールグールを倒しに行こうとしている。
オールグール相手はさすがに危険度がこれまでと段違いだと判断し、アリスたちは置いていくつもりだった。
「共に戦おうって、戦友って言ってくれたのは嘘だったの……?」
「嘘じゃねえ……俺が守ればいい話だと思ってたのも本当だ」
だが、ラスボス戦に幼い少女を連れて行くのは、違うだろう
極限の死地だ。そんなところに子供を連れてはいけない。
流石にその程度の良識は弁えてる
「え? ご主人様に良識なんてあったの?」
「はったおすぞ」
俺は死なねえつもりだし死なせねえつもりだ。しかし、人間死ぬときは死んじまう。俺がそうなるならそれまでだし、死にたくねえけどしょうがねえと思う。
だけど、それを子供にも課させるのは外道だ。
「だから、逃げる!!!!!!!」
「走って逃げたあああああああああああ……!!??」
「やばいですアリスちゃんがショックでキャラ崩壊してます!!!」
「アリスちゃん口あんぐり目ぱっかーんだ!?」
「なんか一緒に逃げちゃったけどどうすんのさあああああああああああああ」
「ツキ、飛べ!」
俺は家の前で叫ぶ。
純白の翼を現出させたツキに後ろから抱えてもらい飛翔する。
玄関からみんなが出て来た。
「待って……!」
「ししょー逃げるなああああああああああ!!」
「許しませんよ必ず縛り上げてイチモツ切らせていただきます!!!!!」
「逃がさーーーーーーーーーーーーーーーん!!! シュバルツェスツインドライブ!!!!!!」
シュバルツェスツインドライブが巨大化し、家よりも高い漆黒の人型が跳躍してくる。
「ツキ避けろお!!!!」
「無理ぃぃ!!;;」
まだそこまで高く飛べていなかった俺たちは、シュバルツェスツインドライブの巨大な手に掴まれた。
「いくらししょーとはいえ二度同じ手は喰わない!」
俺たちは地面に怪我しない程度にべちゃっと落とされた。
「ぐえっ!」
「ぎゃふっ!」
「確保です!!!!!!!!!」
しととねちゃんが何故か持っていた縄で俺たち二人は一緒くたにぐるぐると縛り上げられた。
「一緒に戦わせてくれるまで、ほどいてあげないよ……」
アリスが、俺を見下ろしていた。
「ししょー」
縋るような瞳で、雫は見つめている。
しととねちゃんは無言で鋏を取り出していた。
「アリスは、もう仇とっただろ。無理して戦う理由なんてあるか?」
「……そうだけど……もうここまで来たら最後まで一緒に戦いたい……大海さんは……もうアリスの大切に入ってるから……」
…………。
「お前らの熱意には負けたぜ……」
「なら」
「ああ、一緒に戦おうぜ。そして全員で生き残るんだ」
「うん、共に戦おう、戦友よ……」
アリスは俺が以前言った言葉を返してきた。
「やったー! ししょーと一緒だ!」
雫がバンザイ。
「最初からそう言えばいいんです」
しととねちゃんが鋏をしまった。
天を仰ぐ。白い雲が浮かび、太陽燦々と、清々しい色の空。
まあこの様子だと逃げたところでどこまでも追って来そうで危なっかしいから、そばに置いて守るしかないよな。
「よし、じゃあ一緒にオールグール狩りに行くか」
「その前にほどいて~><」
縄をほどいてもらった。
「じゃあ、いこ……」
アリスが、立ち上がった俺の袖をつまんでそう言った。
「と、いうわけで」
俺は巡り合った召喚者の男二人を前に言った。
「戦ってくれるか? 引野、ライライ」
俺たち6名はそのままオールグールに直行せず、決戦に行く仲間を募ることにした。
流石にできる限りの最大の準備をせずにラスボスに挑むのは迂闊だとわかる。
本当は、アリスたちには声をかけずに、この二人だけにかけるつもりだった。
声をかけたのは、味方になってくれそうな、今まで会ったことのある召喚者の二人だ。俺が最初に戦った眼鏡を掛けた男、引野章太郎。二度目に戦った金髪で黒のジャケットを着た男、雷同無頼。召喚者同士は引かれあうから、会うのは割と容易だった。
「貴様が戦えなくしたくせによく言うよなァ? 救世主よォ?」」
「グチャキョエ」
ライライこと雷同無頼の召喚獣ドリルゴンが同調するように啼いた。
「ぼくはもう危険なことには関わりたくないんだけど」
「アタシはマスターがどんな選択をしようと尻込みしないように背中を叩くだけだ」
引野の召喚獣レッダーは赤いポニーテールを揺らしながら腕を組む。
「ここから先は最大危険地帯だ。死ぬかもしれない。だから、来たくなければ来なくてもいい。俺たちだけでも倒すつもりだ」
「行くに決まってんだろ。オレはバトルがしたいんだ。貴様に制限かけられて日々イライラなんだよ。そのイライラを格ゲーのネット対戦で屈伸煽りして消化させてんだよ!!!!」
「アカBANされろ」
「でもストレスの捌け口があるのはいいよね。人を襲うよりはずっと平和なんじゃないかな・。・」
「ぼくは、戦いたくない……」
「そうか。それでもいい」
「でも、そのオールグールって奴を倒さないと、世界が滅ぶんだよね?」
「ああ、そうらしいぜ」
「つまりぼくの幸せな日常が壊されるってことか……ここで逃げても、君たちが倒してくれることを怯えながら祈ることしかできない、か……それで負けたら。なにもできないまま理不尽に滅びを許容しなくちゃならない…………」
引野はぶつぶつと呟きながら迷っている様子だ。
「俺たちは負けないけどな。で、どうする?」
引野はアリスと雫を見て、躊躇うようにゆっくりと、しかし決意を込めて口を開いた。
「こんな小さな女の子も戦うんだ。ぼくだって、大切な人との日常を守るために戦うよ。……怖いけど」
「気張れ! アタシも一緒だ!」
レッダーが引野の背中をバンと叩いた。
「うん……」
「よし!!!!!! これで召喚者と召喚獣、会わせて5組のパーティーだぜ!!!!!!!!」
「RPGのパーティーとしては、バランスがいいね。そのオールグールとかいうやつ相手に盤石かどうかはわからないけど」
引野が眼鏡をクイッと中指で押し上げながら言った。
「御託はいい! いいからバトルだ! さっさと行くぞ! クチャクチャ」
「ガムをクチャクチャするな! クチャラーは死ね!」
「なんだとゴラァ!?!?」
ライライとボコボコに殴り合った。
「うわぁ……」
その光景を見てしととねちゃんが引いていた。
「男同士の友情、いい! 燃える! 羨ましい!」
雫が瞳を輝かせ。
「ゆうじょう……?」
アリスが疑問に首を傾げていた。




