†五章†2
スカジャン男が発生させた穴の吸い込まれた俺たち。
変な穴に入って、感覚が撹拌され、身体をもみくちゃにされ、出たという感覚を得ると、地面に落ちた。
「いってえなあ!!!!!」
顔を上げると、視界がやべえかった。
悪い意味で、今まで見たこともない景色が広がっていた。
「なんだ!!!???!!!!???? ここはぁ!!!???!!?????????」
見えるものが何もかも、色々と可笑しい。
上を見上げると、どす黒さを秘めた緑色の空が広がっていた。
黒い靄のようなものが見えたり消えたり、山が向こう側に見えたと思ったら、その山が見えた場所に砂漠が広がっていたり、景色が唐突に変わる。
空気も、美味くない。
「正に邪悪ってるぜッ!!!!!!!!
俺たちは、どうやらよくわからない場所に放り込まれたらしい!!!!!!」
「まんまと罠にかかった感想をどうぞ」
「フ ァ ッ ク !!!!!!」
蠢く黒。渦巻く黒。延々と飛び跳ねる黒。変わる景色。変わる地形。まずい空気!!!!!!
「まるで地獄みたいだぁ……(・・:」
ツキが呆けるのと慄くのを同時にした
「とにかくここから出るぞ。ここがあのスカジャン男が創った特殊な世界なら、【ウルトラミラクル】でこの世界に対して勝利条件を設定すればいい」
この世界がなんなのかはわからねえが、あのスカジャン男の手から出て来た穴に吸い込まれて来たのだから、奴の《サモンアビリティ》である可能性が高いはずだ。
「よし、【ウルトラミラクル】発動! この世界から出られないという事象に関して勝利条件設定するよ!」
【勝利条件:――――――――――――――
「ん? あれ? いつもみたいに勝利条件でない?????」
†勝利条件破棄†
†††この世界から出ることは不可能†††
「「な!!!???」」
そんな文言が、頭に浮かんだ。まるで叩き付けられるように認識させられた。
「【ウルトラミラクル】が効かないだと!?」
「また!? わたしたちの力無効化され過ぎじゃない!!!??」
「しかし、完全に別の世界に放り出されたってわけか……そして帰る方法もない、と……」
「大ピンチだよ~><;;」
「だが、それでも帰らねえとな……」
「どうするの?」
「とにかく進むしかねえ。行くぞ」
そうして俺たちは、わけの分からねえ世界で歩き出した。
ヘンテコな光景を彷徨っていると。
突然、俺たちの周りに複数の黒い球体が現出した。
その球体たちには口が一つだけついていた。それ以外はついていない。目も鼻も耳もない。
「なにこいつら!?」
「新手の召喚獣かァ!!???」
「いや、多分違うよ。召喚獣だったら感覚で解るもん」
「なら、こいつらは……」
召喚獣ではない。
なら、なんだ?
俺は非日常の存在を召喚獣しか知らねえ。だから別世界の召喚獣ではない生物は、得体が知れなさすぎる。
わからねえ。
わからねえが、一つだけわかることがある。
「こいつらは存在してはならねえ存在だって、魂の奥底から感じるぜ」
「わたしも今回はご主人様に全面同意だよ。召喚獣として――じゃなくて、生き物として、この黒いのは存在を許しちゃ駄目だってすごく思う」
黒い球体が殺意――とは違った意思を向けてくる。
このひりつくような、殺意とは違うものはなんだ。
「不気味で邪悪な塊ってか……」
とにかく、戦うだけだ。
「確実に、ぶっ潰していく!!!!」
俺は手を前に翳し、最強のパートナーを呼ばわる。
「ツキ!」
「うん!」
【ウルトラミラクル】発動。
【勝利条件:ゲッツを二十回せよ】
「ゲッツゲッツゲッツゲッツゲッツゲッツゲッツゲッツゲッツゲッツゲッツ」
黒い球体たちが大口を開けながら飛行してくるのを避けながら、両手の形を変化させ何度もポーズを取り続ける。
「ゲッツゲッツゲッツゲッツゲッツゲッツゲッツゲッツゲッツ」
【条件達成:勝利確定】
【ウルトラミラクル:超動】
「まず一体!!!!!」
黄金に光り輝く拳を、放った。
「ウルァ!!!!!!」
――――――。
――――。
――。
「次ぃ!!!」
【勝利条件:ウルトラ怪獣の真似を三つせよ】
「ゼットーーン。ピポポポポポ」
物真似に集中を割かれながら、俺は黒い球体の噛みつきを避ける。
「ウルトラマンタロウをくちばしで滅多刺しにするバードンの真似」
俺は首を前後に降る。その動きで頭を噛み千切ろうとしてきた攻撃を躱す。
「ウルトラマンタロウの首を繰り飛ばす、えんま怪獣エンマーゴの真似」
モノマネの手刀で突撃してきた黒いのの突進力を逸らす。
【条件達成:勝利確定】
【ウルトラミラクル:超動】
黄金色のパンチを打つ!
「ウルァッ!!!」
また一体、黒い球体が消し飛んだ。
「はぁ……! はぁ……!」
結構、倒した。
あれから何体倒しただろう。
倒して、移動しては、倒すの繰り返し。
「きりがないね……・。・;」
ツキも汗だくで疲弊している。
とりあえず邪悪な黒い球体が多い場所を選んで滅しながら進んでいったが、腹が減った。いやそれよりも、喉が渇いた。
だが、食料も水もどれだけ歩こうが見当たらない。
「み、水うぅ…………」
「わたしは召喚獣だから飲まなくて大丈夫だけど、ご主人様がんばって! きっと助かるから」
「お前はいいよな。この渇きを感じないんだろ」
「ご主人様が死んだらわたしも死んじゃうけどね」
「オアシスよ、俺の前に顕現してくれぇ……」
「最悪の場合、わたしの体液飲む……? 多分水分取れると思うけど……」
「どの体液だ」
「え!? 汗とか、唾液とか……」
ツキはもにょもにょと言いながら顔を赤くしている。
「それで水分取れるのか? 一つ言うの避けてねえか」
「じゃあおしっこ飲む!?!?!?」
「飲まねえよ」
「ならなんで言わせた!!!!!!! んがあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
「暴れんな。こちとら満身創痍なんだ」
ツキが降り回したツインテールが後頭部に当たった、だからかどうかはわからないが、
「あ」
俺は躓き倒れた。
倒れて投げだした手に、硬い感触。
「なんだ……? これは……??」
その硬い感触に目を向けると、石碑があった。地面に埋まって表面だけが顔を覗かせている。その表面も砂塗れだ。
「石碑? なんでこんなところに?」
「重要な気がするぜ。読まねえと」
石碑の砂を手で払って、掘られた内容を見る。
そこには、邪悪な絵と文言が描かれていた。
すべてを喰らうもの、顕現する時、世界が喰らい尽される。その邪悪、目の前に現れたなら、最後まで――
「これは、なんだ……。とてつもなく良くない「戦慄」を感じるぜ!! しかも途切れていて最後まで読めない!!!!!」
そして、「理解」が魂に染み込んでいく。
この石碑は、昔「奴」と戦った人間が残したもの。
「もしかしたらこれは、もしかするんじゃないか。これは、この馬鹿げた殺し合いを、††Summoned Beast Battle Royal††をしかけた黒幕についての記述だ!!」
「どうしてわかるの?」
「俺の魂がそういってんだよ!!」
恐らくこの石碑は、召喚者だけには解るように創られた石碑だ。黒幕と戦う同志を得るために。
召喚獣にまでわからないようになっているのは、技術的に召喚者に解るようにするだけで精一杯だったのかもしれない。
とにかくその黒幕を倒さなければ、世界が喰らい尽されるということは間違いない。
そしてこの世界は、あのスカジャン男が能力で創った世界ではなく、俺たちの世界とは、また別に存在する世界だということ。
この世界は、††Summoned Beast Battle Royal††を始めた黒幕が滅ぼしたのだ。
しかしだ、やることは今までと何も変わらねえ。
元々††Summoned Beast Battle Royal††をしかけた奴はぶっ倒すつもりだったし、この戦いに巻き込まれた人たちを救うことも変わらない。
だが、さらに危機が明確になったことは確かだ。なんとしても早く元の世界に戻らなければ。
「だが、どうすれば……。体力も、既に限界近い……」
喉の渇きと飢えが精神をも苛む。
「どうすれば、この狂った異世界から出られるんだ…………」




