†一章†1
「うおう!!!!!!??????」
読んでいたラノベを手から落としてしまう。
俺は驚いた。これ以上ないほど驚いた。
なぜならば、突然自室が光り出したのだ。
何を言っているかわからねーと思うが、俺も何が起こっているかわからない。
俺はただ自室で、異能力バトルもののラノベを読んでいただけなのに、急に発光が目の前にドーンしてきたのだから。
「しかも、よく見るとただの光じゃない!!!!!」
俺は壁を指差す。
「変な文様が、部屋中にびっしーーって! 黄色の文様が、ぎっしーーーって! 張り巡らされている!」
すると、発光が目を開けていられないほど強まった。
「うわあ!?」
手で目を覆って防護する。
数秒待って、手を降ろして目を開けると、目の前に金髪ツインテール女の子が立っていた。
「なんだお前―!!!!!!」
「なんだって初対面から酷くない!? ご主人様の召喚獣だよ」
「召喚獣ってなんだ!!!!!??????」
「え、そこから説明しなきゃいけない感じだった?」
「そこからもなにも、なにもわかってないんだが」
「なら、とりあえずわたしについて話すね」
「そうしてもらえると助かる」
「わたしはご主人様の召喚獣なんだよ」
「だからその召喚獣ってのはなんなんだ。物語でよく見るやつという解釈でいいのか」
俺はラノベを呼んだりアニメを見たりと、そういう知識はそれなりにあるつもりだ。当然召喚獣についても、物語上ではいくらでも見てきている。
「多分、そういう解釈でいいと思う」
「なるほど」
いや何も今の状況に適応も納得もできていないけれど。
「そこから少し補足すれば、召喚獣は独立した一つの命であると同時に、ご主人様の分身でもあって、ご主人様自身の力なんだよ」
「そんな召喚獣がなんで今ここに現れたんだ?」
これがわからない。
「召喚の儀式が行われたからだよ。ご主人様が呼んだんじゃないの?」
「俺は何もしていない。突然部屋中に光る変な文様がびっしーーって張り巡らされたと思ったら、君が現れたんだ」
「そのびっしーーって張り巡らされた文様が召喚の儀式だよ。でも、ならご主人様が自主的に呼んだわけじゃないんだね」
「そういうことになる」
「うんうん」
「それはそうと、俺は未だに召喚獣とやらの実在を信じ切れていないというか、突然常識外のことが起こってもうわけがわからないというかなんというか狂ってるなこの世界!!!!!!!!!!」
俺は混乱していた。いやほんとわけわかんねえ。
「でも、召喚されたからには、受け入れてもらわないと困るよ。わたしはご主人様の召喚獣なんだから」
「受け入れろって……確かに妙な親しみみたいのはお前に感じはするが。むしろ兄妹とか親以上なものを感じはするんだがな」
「なら問題ないよね」
「そうだな。いや、そうか……?」
「わたしにはご主人様しかいないの! ご主人様に捨てられたら存在理由なくしちゃうんだよ!」
めっちゃ必死そうに顔を近づけて来る。瞳が綺麗だ。髪と同じ金色の瞳が綺麗だ。
「まあよくわからないけどわかった。それで、お前の目的はなんだ?」
「ご主人様のそばにいて、役に立ちたい!」
「なんでだ」
「わたしはご主人様の召喚獣だから、それが存在理由なんだよ」
「召喚「獣」なのに人だよなお前」
人オブザ人の姿をしている。どう見ても人の少女だ。
「人の姿でも、召喚獣なんだよ。そういうものなんだよ」
「そういうものなのか」
そういうものといわれてしまえば、そうなのだろうなと思うしかない。
「一応わたしは、翼も生やせるんだけどね」
ぶわあああっと、金髪ツインテール少女の背中から、天使のような一対の白い翼が生えた。服を通り抜けているのか、服が破れずに。
「すげえな!!!!!」
「えへへ」
金髪ツインテール少女は嬉しそうに笑った。主人に褒められるのが嬉しくて仕方がないという感情がなんとなくわかる。
なんだこいつ、ラノベのヒロインかよ。
こんなの、よくわからなくても受け入れたくなっちまう。
まあ、敵っぽい感じはしないし。本当に家族以上に繋がっている感じがするし、警戒なんてしなくてもいいのかもしれない。
この女の子は、俺の召喚獣なのだ。
自然と、信じられる。
それが召喚獣たる所以なのだろう。
「じゃあ、これからよろしくということで、お前の名前は何ていうんだ?」
「ないよ。召喚された時にご主人様からもらうものだから」
金髪ツインテール少女はニコニコしながら、ワクワクしている様子で、俺に名前をつけろと言わんばかりの顔を向けて来る。
「金髪ツインテール」
「は?」
「お前の名前だ」
一秒で考えた。
「適当過ぎるよ! いくらなんでもネーミングセンスなさすぎでしょ!」
「じゃあパツキン」
「じゃあってなに!? 変わらないよぉ!」
「ええー、じゃあ、金髪ツインテールから取って、ツインテールの「ツ」と、金髪の「キ」で、「ツキ」ってのはどうだ。金髪だし、夜の月ともかけてだな」
「そういうのでいいんだよ! 何で最初からそういうのにしなかったの!?」
「よし、今を以って、お前は「ツキ」だ! よろしく!!!!」
「……うん、よろしくね。ご主人様」
握手を交わした。白くて柔らかくて小さいおててだった。
「召喚獣は飯を食うのか?」
「食べるけど、必要ではないかな。なくてもご主人様が栄養取ってくれればわたしも元気になる感じ」
「ほんまに~?」
「ほんまだよ~」
「俺が目の前でステーキ食べてても耐えられるのか!」
「耐えられる! ……はずだよ」
「目を逸らしたな!」
「いやさすがにステーキは卑怯だよ!」
「ステーキ食べたことあんのか?」
「さっき生み出されたばかりだからないけど、ご主人様が体験した感覚が移ってて美味しいってことはわかるんだよ」
「風呂は入るのか」
「召喚獣はご主人様の意思で姿を出したり、消したりできるけど、そのときに身体を綺麗にできるから必要ないよ」
夜、就寝前になった。
「どこで寝る?」
「一旦消えてもいいけど、一緒に寝てくれると嬉しいな」
「ダメだ」
「えー」
渋い顔をするツキ。渋々過ぎて渋柿だ。
「じゃあ、一旦消えるね」
「おう」
ツキの姿は、あっという間に消えてしまった。
まるで今までのことが夢だったかのように。
静かになった自室で、一息を吐く。
「本当に夢じゃないだろうな……」
俺は自室の電気を消してベッドに寝転がる。
この家には、遠くに仕事に行くことが多い親父以外には俺しかいないから、ツキが一緒に住むことへ異論を唱える者がいないのは幸いだった。
俺の召喚獣、か。
「妹に、似てたな……」
さっきまでは平静を保つのに必死だった
「まじかぁ……」
目を覆った。涙が自然と溢れていた。
ここは公園。俺はジャングルジムの上にいる。俺はジャングルジムの王だ。
ジャングルジムの上で仁王立ちし、悦に入り浸っていた。
ふと見下ろすと、知らない男の子が俺の妹をいじめていた。
「おいおいおいここはおれが遊ぼうと思ってた砂場なんだよ。どけよ!」
「いやだよ……わたしが遊んでたんだもん……」
「ここはおれの砂場だ!」
「違うもん……!!」
妹は泣きそうになっていた。
「どけよ!」
「きゃっ」
妹はいじめっこに突き飛ばされて尻餅をついていた。
「夕奈になにしてんだぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!」
今、兄ちゃんが助ける!!
「ウルテァーメントガ!! とうっっ!!!!」
俺は土曜朝に放送している特撮ヒーロー、ウルテァーメントガのポーズを取ってジャングルジムの天辺から跳んだ。
「ゼペリゥンキック!!!」
ウルテァーメントガの必殺技、ゼペリゥンキックをいじめっこに放つ。
「いや、これは奴の頭に当たるコースだ!!!」
これでは大怪我をさせてしまう!!!
俺は体を捻った。その甲斐あって軌道は逸らすことに成功した。
俺の足がいじめっ子の肩を掠って、地面に落ちる
「ぎゃあああああああああああ!!!! 捻挫したぁ!!」
怪我をしたのは、俺だ。
「うわっ!? なんだこいつ!? やべぇ、逃げよ!」
だがいじめっ子は俺の勇姿にビビッて逃げていった! ざまあみろ!!
「お兄ちゃん、かっこいいっっ!!!!」
夕奈が目をキラキラさせて俺を見ていた。黒いツインテールがブンブン舞っている。
「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!!!!!」
その言葉を聞いて、夕奈の輝いた顔を見て、俺に大切な指針が芽生えた。
俺はその時から、ヒーローになってやるって思い続けてるんだ。
――俺の召喚獣、ツキは、妹に似ていた。
その妹は、もういない。
それから俺は、ツキと数日過ごした。
だがある日、それは起こった。
俺の部屋で、二人揃ってだらだらとラノベを読んでいた、夕食後辺りの時だ。
――……伝達する。……伝達する。
「なんだァ!!???」
突然、意味不明な声が、頭ん中に響きやがったんだ。
「え!? なになに!? これ!??」
ツキも戸惑ってキョロキョロしている。
だがこれは、誰かが近くから話しかけているとか、部屋の外から拡声器で叫ばれてるとかそういうのじゃねえ。
頭ん中に、直接届かせられてるんだ!
――ここに††Summoned Beast Battle Royal††の開始宣言をする。
「††Summoned Beast Battle Royal††…………だとぉ!!!!!?????」
魂が痺れるような響きを感じやがるぜ。そして、僅かな恐怖と戦慄を。
「なんか厨二っぽいね」
「野暮なこというなぶっ殺すぞ!!!!!」
「こっわ。ご主人様そんな剣幕で叫ばないでよ~(ーー;」
――††Summoned Beast Battle Royal††のルールを説明する。
――すべての召喚者は自らの召喚獣と共に、他の召喚者、召喚獣と戦わなければならない。
「おいおいおい、まじかよ」
「わかったこれバトルロイヤル系だ。っていうかBattle Royalて最初から言ってたわやばいよご主人様」
――召喚獣が死亡し消滅するか、召喚者が死亡することで敗北が確定する。
――【どちらにしろ、召喚獣とは二度と会えなくなることを理解せよ】
その言葉を、不可思議な声は妙に強調してきた。
そうして、恐怖と、なにがなんでも生き残る意思、その二つを煽る巧みな思考誘導なのだ。
失いたくない。俺は初めに、そう思った。
妹に似たツキを、失ってたまるか。
妹を二度と、失ってたまるか!!
――逃げることは推奨できない。
――戦うという意思を完全に放棄して一時間後、召喚獣は消滅する。
「な、なんだとッッッ!!??」
――召喚獣は消滅する――
その言葉が、酷く嫌な感覚を伴って頭に響いた。
「逃げることすら、許されないというのかッ!」
「ご主人様、これ本格的に、まずくない……?」
――召喚者、召喚獣同士は引き合う。近くに存在すれば召喚者であるかどうか、召喚獣であるかないか、理解できる。出会わないことなどないだろう。
――最後の一組になるまで、この戦いは続く。
――説明は以上。
――虚偽ではないことは召喚者なら理解できるようになっている。気のせいだなどと考えることは推奨しない。
――再度宣言する。――ここに††Summoned Beast Battle Royal††の開始宣言をする。
奴も言っていたように、今の声は、すべてが真実だと解っていた。理屈はわからないが、感覚で確信しちまう。
静寂が、俺の部屋に漂っていた。
俺とツキは、ラノベを開いて持ったまま、立ち尽くしている。
静寂を破ったのは、ツキだ。
「ねえ、どうするの? ご主人様……」
「どうするって……戦うしかねえだろうが……」
もう、妹を、失いたくない。
絶対に。
ぜってえに。
「そう…………覚悟できてるんだね。強いね。ご主人様は」
「お前も、戦えるだろ?」
「うん。ご主人様が戦うのに、一緒に戦わない召喚獣なんていないよ」
当然のようにツキは言った。
「だが、これだけは言っておく」
「なあに?」
「俺は誰かの死を許容するつもりは毛頭ねえからな!!!! 殺さずに解決する!!!!!」
これは俺の矜持、信念。絶対に曲げねえ俺としての生き方。
「だからといって俺も死にたくねえ!!!! だから俺も含めて誰も死なせずに終わらせる!!!!!」
宣言。最近見た、昔の夢を思い出しながら。
「ぜってえに!!!!!」
夕奈、俺は、ヒーローだからな。
「それでこそご主人様だよ」
ツキは、妹のように笑ってくれた。