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ムッソリーニの幻

作者: monochroart

トムとボブ


 トムとボブは高校生。休日の今日は適当にぶらぶらして遊び、日も暮れてきたので、夜ご飯を食べるためにファミリーレストラン「ムッソリーニ」へやってきた。ウェイトレスに席へ案内され、トムとボブはメニューを広げた。

 「俺お子様ランチすげぇ注文したいんだよ。でも恥ずかしいよな高校生がさ、お子様ランチって。」

 どう思う?ボブが聞いてきたので、トムはボブの言いたい事がそれでなんとなくわかった。でも、まぁたしかに高校生がお子様ランチはちょい恥ずかしいよなと答えるしかなかった。それと同時に面白い考えが浮かんだ。

 「なぁボブ、お前のあの、小学生の弟も実は一緒についてきたってことにすればいいんじゃね?ほら、お前の弟の、名前なんて言ったっけ。」

 「健太?」

 「健太くん。健太くんも実は一緒にここに来ていて、今はトイレとかどっかに行っちゃってていないってことにするんだ。ほら、健太君ずっとムッソリーニに来たいって言ってたんだろ?それで健太くんの分の注文頼まないのもアレだからってことで、流れ的に不自然にならないようにこれでお子様ランチを頼める。これどうよ。」

 「トムお前天才だな。それ採用だ。健太もお子様ランチ最近食べてないからな。」

 二人は席へ案内してくれたときと同じウェイトレスにお子様ランチとミラノ風ドリアとサラダを注文した。ミラノ風ドリアはトムが食べるもので、お子様ランチは健太が食べる事になっていたのでボブはとりあえずサラダを頼んでおいた。

 ウェイトレスにはたぶんばれていないようだった。トムは「お子様ランチ」と言うときウェイトレスの目を見ずに、少し下を向きながら注文した。ウェイトレスの胸元についているネームプレートの「ジョアンナ」という文字がちょうど目に入った。


ジョアンナ


 何あれ。絶対おかしいわ。ジョアンナは厨房へさっき受けたオーダーを伝えた。お子様ランチとミラノ風ドリアとサラダ。

 高校生くらいの二人組みのオーダーだ。席まで案内したのもジョアンナなので、あの客が二人組みであるということは覚えていた。なのに注文を聞くと二人が突然変な事を言い出した。

 「あーあ健太トイレから戻ってこないね。しかたないから勝手に決めちゃおうか。健太はここのお子様ランチ大好きだから、今日もそれでいっか。」

 「いいんじゃない?とりあえずお子様ランチ頼んでおけば間違いないんでしょ。じゃぁ、俺はミラノ風ドリアね。ボブは?」

 「俺は今あんま腹減ってないから、サラダでいいや。」

 「そっか。んじゃ、これで、以上です。」

 何この流れ。健太くんって誰よ。そんな子いなかったじゃん。ジョアンナは思わずツッコミそうになったがそれを必死に我慢して、オーダーを復唱した。


トムとボブ


お子様ランチとミラノ風ドリアとサラダが到着した。トムとボブはいただきますと言って無心に食べ続けた。少し離れたところでそれを見たウェイトレスが絶句していたのだが、ふたりとも食事に夢中で気づかなかった。

 「お子様ランチすげーうまいわ。きっと今健太も横にいて、このお子様ランチを一緒に食べてるんだよな。」

 「そうだな。たぶん喜んでると思うぜ。」

 「だな。うまいか、健太。」

 お子様ランチとミラノ風ドリアとサラダを食べ終えた二人は少しの談笑の後、席を立ち会計へ向かった。

 先ほどのジョアンナというウェイトレスがレジのところにいた。ボブが伝票を渡し、まとめてお金を払ってさぁ帰ろうというときに、そのウェイトレスが二人には聞こえないような小さな声で何かを言った。

 「え?」

 トムが聞き返す。ボブも、今なんか言った?というような顔をしている。

 ウェイトレスは今度はトムとボブの顔をしっかりと見てはっきりとした声で言った。

 「健太くんはまだトイレにいるんですか?」


ジョアンナ


 さぁどう出る。ジョアンナは自分なりに目の前にいる二人組の考えを推理していた。その結果、きっと、健太くんなんてもともといなくて(当たり前だが)、ただ単にお子様ランチを高校生が頼むのは恥ずかしいからという理由で、健太くんという想像上の子供を勝手に作ってしまったのではないかという結論に達した。だってトイレに入っているはずの健太くんのためのお子様ランチを、テーブルに届いた途端に二人組の片方が待ってましたと言わんばかりにがっつきはじめたんだもの。まったく、開いた口がふさがらなかったわ。しかも私はずっと見ていたけれど、オーダーを受けてから今まで、トイレから健太くんらしき男の子が出てくることはなかったわ。まさか今もトイレの中にいるっていうの?ばかばかしい。

 でも今、開いた口がふさがらないのはレジの前にいる二人のほうね。トイレに行った健太くんのことなんて私が覚えていないとでも思ったのかしら。まぁこの二人組、私のこと無視して帰っちゃう可能性もあるけど、それはあなたたちの負けを意味するのよ。だってこの場に健太くんがいないのは明らかにおかしいもの。まぁ来るときに一緒じゃなかったことからしてそもそもおかしいけれどね。

 ジョアンナは勝ち誇った表情で客の反応を待っていた。


 数分後、ジョアンナは大粒の涙を流して泣いてしまうことになる。


トムとボブ


最初に口を開いたのはトムだった。

 「ばれちゃってたんですか。すいません。高校生がお子様ランチ頼むなんて恥ずかしいから、小学生になったばかりだったこいつの弟の健太くんも一緒に来ていることにしたんです。そうすればお子様ランチを頼みやすいかなと思って。」

 それを隣で聞いていたボブが続きを話しはじめた。

 「俺の弟、ここのお子様ランチが大好きだったんです。だから、せっかく「ムッソリーニ」に来たんだから、なんとなく、弟のためにお子様ランチを頼んでやろうと思って、そしたらトムがそれに気づいてくれて、そんでこいつ気を利かせてくれて、健太も一緒に来てるんだって言うんですよ。だから俺、ほんとに、健太と一緒にここに来ている気分でお子様ランチを食べることができたんです。一ヶ月前に事故で死んだ、健太がまるで本当にそこにいるようでした。」


ジョアンナ


 話し終えた二人は、軽くお辞儀をして歩き出した。ジョアンナは頭が混乱していた。音として残っている彼らの言った言葉が、少しずつ意味を持ち始めた。

 亡くなった健太くんと、もう一度一緒に食事をするために、健太くんの大好きだったお子様ランチを頼んだ。そしてそこに健太くんがいるように振舞った。ジョアンナはさっきまでなんて自分はつまらない事を考えていたのかと思った。また、あの二人とそこにいないけど確かにいた健太くんとの食事中のやり取りを想像すると自然と涙があふれた。

 「ありがとうございました。」

 ジョアンナは出口の扉を開けようとしている高校生風の二人組と、そこにはいない男の子に、しっかり聞こえるよう大きな声で言った。

 「またのご来店をお待ちしております。」


 店を出た後トムとボブがハイタッチをして笑い転げたことを、ジョアンナは知らない


 

おわり。


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