プロローグ 邪神の気まぐれで転生したみたいだ
カツン、カツンと靴音が響く。長く薄暗い廊下に点々と配置されている仄かな灯りが廊下を照らす。奥には荘厳とした金属の重々しい巨大な扉があり、兵士が立っている。こちらに気づいた兵士が扉を開き、そのまま部屋の中に入る。
中はとても広く、壁には国旗が等間隔に並べられている。扉からはレッドカーペットが奥の玉座がある台座まで敷かれており、カーペットの両脇には跪いている貴族や大臣、宰相など、国の重鎮である様々な姿かたちをした魔族たちが並んでいる。ゆっくりと台座に向かい、玉座に腰掛け言葉を発する。
「みなのもの、表を上げよ」
妾の一言で全員が顔を上げる。今となってはしっかりと魔王らしい態度をとることができていると思うのじゃ。
そういえばこの世界に来た頃は魔王の演技なんて下手だったと思うのう、そう最初の方は・・・
* * *
ん、んー・・・なんだここは、真っ暗の水の中?てか手足の以前に体の感覚がなく、息をしている気もしない。なんか変なものでも食べたっけ?
いやそれよりも夢だな、これは。うん、夢だ夢。だって俺自分の部屋で寝てたはずだからな。
そんなとき頭?に声が響く、直接脳内にってやつだ。
『よくぞ目覚めた、新たなる魔王よ』
うわ、変にエコーかかってる感じがして気持ち悪。
・・・とりあえず人違いです。あと誰?
『どうして人間はどいつもこいつもせっかちなのだ。まあいい、我が名は邪神オプスキュリテ、この世界の主神の一角である』
あ、はい。俺は、
『貴様のことはどうでもいい。それより我の話の方が重要だ』
何だこの邪神。てか俺は今どうなっているの?
『そうだな、それも含めて話そう。貴様は今霊体、所謂魂だけの状態だ」
え、じゃあ体は?
『食った、もう貴様には必要ないものだからな』
食った!?え、食ったって。てか必要大有りだろ、俺まだ生きてるんだし。
『そんなことより話を続けるぞ』
聞けよ。
『貴様をこれから魔族の王として転生させる』
えっと、転生ってあの転生?
『どの転生なのかは知らんが、その転生だ。ところで貴様はどのような容姿の娘が好みだ?』
銀髪腰ロングの蒼と金のオッドアイで白い肌の合法ロリ。身長は低めで顔つきとかはクール系だけどキリッとしすぎてない感じで、体型は幼児体型よりもスレンダーの方がいい。声もクール系で、高すぎず低すぎずそれでいて大人びているような感じが理想だね。性格はクーデレがいいな。クーデレってわかる?普段は人前とかだと気取ってたり、適切な距離を保ったりしてるんだけど、2人っきりとかになると甘えてきたり、寄り添って来たりする感じなんだけどさ。あと、さびしがり屋で暗闇とかホラー系が苦手だったらグッとくるね。まあそんな子が現実に居たら速攻手を出してしまうね、うん。
てか今俺の好みとか関係なくね?
『ふむふむ、関係ないとか言いながらしっかりと言っておるな。ちなみに我は貧乳より巨乳派だ。でかければでかいほどいい。胸には男のロマンが詰まっているからな。さて世間話はここまでとして転生させよう。何か欲しい力や武器はあるか?』
互いの好みの話しって世間話でいいのか、せめてもう少し親しくなってからじゃ。あ、ちなみに欲しい力は魔法がある世界ならならどんな魔法でも使えるようにしてくれ。装備は守備力が高い服がいい、なるべくかっこいいやつな。武器は自分の背の倍ぐらいはありそうな大剣の魔剣がいいな、ロマンがあるし。それと死にたくないからできるなら不老不死と再生能力も欲しいな。
『なるほど、了解した。では最後に何か聞いておくことはあるか?』
何か意外と親切なんだな邪神なのに。
『邪神といっても一部の下界のものどもに呼ばれてるだけで、我はこの世界の主神の一神だ。そこら辺の低級どもと比べるな』
あ、はい。えっと、他の神様ってのは。
『基本的に主神については気にするな。この世界に直接干渉はできんからな。せいぜい恩恵や祝福、啓示を特定の人物に与えるぐらいだ。知りたいのなら転生してから調べるといい』
わかった、それで今さらだけどなんで俺が魔王にならないといけないの?
『今さらだな。まあ理由は特にないが、強いて言えば魔族どもが我に祈りを捧げたからだな』
つまり俺は魔族への恩恵みたいなものか。
『そのようなものだ。ではそろそろいいか』
あ、最後に世界の常識とかって。
『転生してから下僕に聞け。異世界出身とでもいえばわかるはずだ』
あー、その世界って勇者召喚とかあるんですねー。
『その通りだ。では貴様を転生させるぞ』
あ、はい。
『ではさらばだ。最後に、キャラ付けは大事だとだけ伝えておこう』
え?それってどういう・・・
* * *
邪神との話が終わり、急に眩しさを感じて目を開ける。すると目の前には跪いた状態で祈りをささげている豪華な服装に身を包んだ初老くらいの男性とローブ姿の人?が数人いた。人?なのはなんか角とか尻尾とかが見えてるからだったりする。
部屋は壁には燭台があり、床には魔法陣。いかにも召喚の部屋って感じだ。
キョロキョロと部屋を眺めていると、男性に話かけられた。
「おお、異世界より参られし我らが王よ。どうか我らが仇敵、勇者を撃ち滅ぼさんと我らをお導きくださいませ」
「あー、えっと、ちょっと待って。まず順を追って色々説明がほしいんだけど」
「ああ、そうですな。ですがその前にお召し物を着られた方がよろしいかと」
「え?」
男に言われて自分の状態を確認する。まず、裸で床に座っている。次に床に伸びる綺麗な白銀色の髪。そして最後に、男としてのアレがない。えっと、もしかしなくても俺は女になっているのだろう。それも邪神に話した好みに近い姿に。別に悪くはないけどさ、それならわざわざ好みなんて・・・あれか、どんな姿になりたい?とか聞いたら女にならないからとかの理由か。あの邪神ならありえそうだ。
自分の姿を認識したら次第に恥ずかしくなり、胸とかを直ぐに隠す。その際、自分から可愛い声が出たのには少し驚いたが。
俺が自分の身体を隠すと、後ろにいたローブの人が服を渡してくる。
渡されたのはデザインが制服とか軍服っぽいコスプレ衣装で、よくアイドルとかが着るような感じのやつより少し布面積が大きいやつだった。なんか飾りいっぱいあるし如何にもアイドルって感じがする。
俺が服を着て、落ち着いたのを確認したのか男性が話始めた。
「それでは我らが王よ、改めてお話をさせていただきます」
「あ、うん。どうぞ」
「まず私はこの国の宰相をやらせていただいております、トライゾン・セバスチャンと申します。どうぞセバスと及びください」
「えっと、俺は・・・」
あ、名前どうしようか、前世のでもいい気がするけど、せっかくだし適当に考えるか。・・・なんか邪神もキャラ設定がどうとか言ってたし、一人称も変えるか。・・・・・よし。
「妾はルーナじゃ。よろしくたのむぞセバス」
「はっ」
「それでじゃ、妾を呼んだのには何があるのじゃ?」
「はい、実は今、この世界は・・・」
セバスの話を簡単にまとめるとこんな感じ。
一、近い将来、人間たちの国の方では勇者が召喚され、大規模な他種族の戦争が起きる。そのため各地でバラバラになっている魔族をまとめ上げる代表者、つまり王が必要だということ。
そのため一番大きな魔族の国であるこの国が邪神に祈りを捧げて、王を異世界から連れてきてもらおうとしたので俺がこの世界に来たということ。
ニ、基本的に俺がすることは全体的な方針決めや将軍などの重役を任命するようなものばかりだそうだ、詳しい事とかはセバスさんや任命された人が決めるそうだ。なんでも魔族は個人主義だけどもそういう仕事も得意としているものが多いそうだ。あれか、派閥がすごく多い貴族って感じか。
とりあえず大まかななのはその二つで、あとは外交が~とか、俺の力が~とか、魔族についてや俺と敵対する者が~とかだったし、長くて途中から全然頭に入って来なかった。
まあ、とりあえずはこの世界について知ることが先決だな。あと俺の力とかの確認もしないといけないと思う。
「とりあえずは大体分かったのじゃ」
「そうですか。それではルーナ様この後は臣下との顔合わせを兼ねた演説をしていただきたく思います」
「うむ、わかったのじゃ」
「では、こちらへ」
そう言いセバスに連れられ大広間に連れて行かれた。大広間は天井が高く、奥に玉座が置かれた台座があり、入口から玉座までまっすぐレットカーペットが敷かれている。部屋には背中に大きなコウモリ羽がある人、頭に山羊の角がある人、見た目が狼男の人、よくある悪魔のような人だったりデュラハンだったりと多種多様な魔族が雑談していた。
そして俺はセバスに押されるように玉座へと歩かされ、玉座の前まで来るとセバスが小声で「何か王としての宣言をしてください」と言ってきた。いやいや、王としてとか言われても・・・。俺が戸惑っているとセバスが大声を上げる。
「我らが王のお言葉である!」
セバスの言葉で全員一斉にこっちを見てくる。こちらを見定めるような、舐め回すような視線が刺さる。目が無いどころか頭すら無いやつもいるけど。
とにかく、ああもう、自棄だ、魔王の演技をすればいいんだろ!
俺は頭をフル回転させ、言葉を絞り出す。
「妾が魔王ルーナじゃ!おぬしら魔族たちの祈りを聞いた邪神によってこの地へ送り出された。妾が王となる以上は妾にしたがってもらう、のじゃ」
魔族の反応は様々、敬意や畏怖、怒りや憎悪、好奇心や無関心。セバス曰く、魔族は種類によっては一匹狼だったり、上下関係があったり、犬猿の仲だったり、何よりも実力主義が根強く残っているらしい。そのため誰もが他の魔族よりも上と考える人が多く、互いに牽制してたらしい。まあそれは今日から俺が頂点として変わることになるんだけどね。とりあえずは、
「妾は豊かで平和な強き国になることを望んでいる、他のどの国よりも。それにはおぬしら個々の力が必要じゃ。もしおぬしらも志を同じとするなら妾に忠誠を誓い、力を預けよ。さすれば魔族の繁栄を約束しよう!なのじゃ」
反応はさっきよりはマシって感じかな。あと語尾を忘れかけるのは何とかしないとな。
その後セバスが少しの間演説した後、俺のお披露目はお開きになり、俺は城の中を軽く案内され、最後に自室に案内された。
部屋はキングサイズの天蓋付きベッドが部屋の奥側中央にあり、手前には豪華なソファとテーブルが置かれている。廊下側にはタンスやクローゼットがあり、壁や空いたスペースには高そうな絵画や装飾品が飾られている。
「それではルーナ様、また明日になりましたらやっていただきたいことがございますのでどうぞごゆっくりお休みください」
「あ、う、うむ。わかった」
「では、失礼します」
そう言い、セバスが部屋から出ていく。
「はぁ~、疲れた・・・休むか、なんか色々ありすぎたし今日は寝るか。明日からまたこんなことがあると思うと気疲れしそうだし」
俺はベッドに横になり、近くの窓から外を見る。夜空にはたくさんの星があり、青い満月が浮かんでいる。空はあまり元の世界と変わらないのか。いや、月が青いのは違うが。
さて、明日からは忙しくなるだろうから早く寝ることにしよう。
深く息を吸い、俺は眠りについた。