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魔法学園の魔装使い  作者: 出雲真
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「この度の作戦、(まこと)にご苦労だった。特殊魔装部隊隊長とくしゅまそうぶたいたいちょう、黒川 夏希」


 通った声が室内に(ひび)く。


 目の前の男、桜坂 大介(さくらざか だいすけ)はこの組織、国家魔装部隊(こっかまそうぶたい)のトップにあたる人物だ。


 魔装部隊の任務(にんむ)(おも)に、テロなど普通の警察が出ることが出来ない事件などを取り()まる組織だ。


 そのほとんどは魔法犯罪(まほうはんざい)が多い。


 魔法とは、()()()()誰でも使うことが出来る。

 その規模(きぼ)は才能の有無(うむ)で変わるが、便利な反面(はんめん)ほとんどが武器となりうる威力を持つ。


 その為、法律では厳重(げんじゅう)に取り締まっているが、それでも、魔法を悪用する者が出てきてしまう。

 魔法犯罪は警察の方でも取り締まってはいるが、実力が上で無いと、取り締まることが出来ない。


 よって、魔装を装備した部隊が魔法犯罪を取り締まることとなっている。

 そんな部隊の上に立つ者だ。

 大介の実力はこの組織の中でトップクラスだ。


 異例(いれい)の部隊を除いて。


 更に、そのような実力者で()りながらめちゃくちゃ若い。

 俺が今十五なのに対し、まだ二十歳を過ぎたぐらいに見える。

 というか(はた)から見るとイケメンの部類(ぶるい)だろうと思う。


 大介はその顔を笑顔に変え、口調(くちょう)を変える。


「いや〜助かったよ。あそこの学校の理事長の夏希君は本当に仕事が確実で助かるなー」


「そんなことよりだ」


 上司に向かってそんなことよりとはかなり失礼だが、そこは大介なので、気にせず続ける。


「どういう事だ?俺が学生ってのは」


 というのも、一昨日(おととい)帰ってくると見たことがない学生証と制服が部屋に置いてあった。


 俺は今、部隊専用の(りょう)に住んでいる。

 俺の部屋に勝手に入れるのは俺自身と目の前の男、大介だけだ。


「そうだったそうだった。次の任務が決まったよ」


 そんな事は分かっている。

 意味もなく学校に行かせたりしないだろう。


「内容は?」


 大介は手を組み、ニヒルに笑う。

 そして任務の内容を告げた。



  ーーー



 朝からため息が止まらない。


「はぁ...全くなんで俺なんだよ」


 確かに俺は特殊魔装部隊の隊長だから、一人限定の任務は向いているだろう。

 しかし、隊長というだけであって、何も特殊魔装部隊の隊員が遂行できない訳ではない。

 今回は、相手が相手なので、仕方ないと思うが。


 更に加えて、今回の任務は長過ぎる。

 任務の期間(きかん)は俺がこれまでこなしてきた任務の期間の中でも飛び抜けて長い。

 その期間なんと三年。どう考えても隊長の俺が三年の間、隊を抜けるのはどうなのだろうか。


 確かに大介は、

「代わりに副隊長の凪沙(なぎさ)さんに頼んでおくよ。

 それに手が足りない時は、ちゃんと夏希君を呼ぶからさ。

 だから安心して今回の任務に励んでくれたまえ〜」

 とは言っていたが。


 そこから入学試験を受けた。

 入学試験ぐらい何とかして欲しいものだ。

 世の中には『()()』という入学方法があるだろうに。


 入学試験の内容は、ペーパーテスト、魔法能力テスト、教師を相手にした実戦テストの三つでクラスを分けるようだ。

 魔法能力テストか..まあ恐らく大丈夫だと思いたい。

 今回の任務を遂行するにあたり、一番重要なことはクラス決めで一番上のAクラスに入ることだ。

 そして俺は...



 最低クラスのFクラスに入った。




 入学して数日が過ぎた。

 ちなみに目的となる人物は当然といった感じでAクラスに入っている。


 仕方なかったのだ。

 言い訳だが、あの試験はダメだと思う。

 確かに一般の人には普通の試験なのだが俺にはあってなかった。


 しかし入ってしまったものは仕方ない。

 後は目標(もくひょう)の人物が行動を起こすのを待つだけだ。


「おい。夏希!」


 と、そんなことを考えていると(となり)の席からお呼びがかかる。


「どうした?春樹」


 このいかにも体育会系の容姿をしている男子は中嶋 春樹(なかじま はるき)

 入学試験と入学式で会ったことで仲良くなった。


「聞いたかよ!Aクラスのお姫様の話!

 なんでもこの学園の生徒の中から自分の護衛を(つの)るみたいだぜ?」


 突然の目標の情報に(おどろ)いたが、顔には出さない。

 今回の任務の目標は、この国に在学中のスペリオ王国の王女、レイト・アン・アリスティア。


「えっとな、明日の放課後にアリーナで採用試験だとさ。

 採用試験を受ける者に制限は特にないらしいぞ?

 行くか?」


「もちろん」


 断る理由もなかった。

 明日の試験が本命(ほんめい)なのだから。




 次の日の放課後。


 アリーナには続々(ぞくぞく)と生徒が集まっていた。

 こんなに受けるなら競争率は高くなりそうだ。

 中には上級生もいる。

 周りを(なが)めていると、アナウンスが流れ始めた。


「この度は集まっていただき誠にありがとうございます。

 今回の試験官は、私自身と私の護衛である、スラルト・ノア・キールが試験官を務めます。

 まずは試験を見物に来た方は観客席の方へ移動をお願いします」


 ここ競技場(アリーナ)は、この光陽(こうよう)学園の施設(しせつ)の中でも有名だ。


 魔法使いを育てるうえで重要なことは対人スキルを身につけることだ。

 そのためには、戦う場所と戦う者の安全が確保しなければならない。


 それを確保したのががここ競技場(アリーナ)である。

 中央には、ある空間への転移装置(テレポート)があり、それぞれの空間にはそれぞれの環境(かんきょう)(そな)わっている。

 その空間は外に魔法が()れることがない。


 さらにその空間に入っている者を半仮想化(はんかそうか)してくれる。

 この中で攻撃を受けてしまって重症(じゅうしょう)()っても、この空間の外に出ると無かった事になる。

 流石(さすが)にここまでの機能を持つ場所はそう多くなく、この国で競技場(アリーナ)のような場所があるのはここを含めると十数カ所ほどだ。


 アナウンスが流れてしばらくするとフィールドからはほとんどの人が観客席に移動していた。

 ただ見に来ただけの人が多かっただけだったようだ。

 残ったのは、上級生を含む約五十人程。


 ちなみに俺のクラス、一年Fクラスは春樹と俺だけだった。


 アリーナの奥にある入り口から銀髪ロングの女生徒(じょせいと)が出てきた。

 観客席の喧騒(けんそう)が静まる。

 生徒たちの前まで歩いてくると、声を張り上げる。


「今日は集まっていただき(まこと)に感謝する!

 私は今回の試験官のスラルト・ノア・キールだ。

 では試験を受ける者はこちらの方にサインをしてくれ!」


 指示された通り、五十人程が列に並び、サインしていく。

 全員が書き終わると、キールはサインを確認し、こちらを向く。


「これで全員だな。もう締め切るぞ!では試験内容を発表する前に、この場で二人一組を作ってもらう。

 とりあえず二人一組を作ってくれ」


 二人一組となると、組む相手は決まっている。

 当然のように春樹の方へ歩いていく。

 しかし、春樹は上級生の人と一緒にいた。


「おい、春樹!

 一緒に組んでくれないのかよ」


「悪いな夏希。今回はお前とは敵同士だ」


 ということで俺はあぶれた。

 仕方なく周りに目を向けてみるが、ほとんどの人がパートナーを見つけ、二人一組を作っている。


 完全にぼっちというやつだ。

 と、ここで背中から声がかけられる。


「あの。君一年だよね?

 良かったら私と組まない?」


 どうやら上級生の女子のようだ。

 ここの制服は、学年によってタイの色が違うのだ。


「はい。喜んで」


 了承の返事をするとともに、キールが話し始める。

 どうやら俺たちで最後のようだ。


「試験内容は《護衛》だ。

 どちらか片方が護衛役をして、護衛対象であるパートナーを守れ。

 転移先のフィールドは密林(みつりん)だ。

 護衛対象に(わた)すこの玉を壊されると敗北となり、二人でこちらに戻される。

 ただし護衛対象役は武装(ぶそう)を禁止し、初級防御魔法以外の使用を禁止する。

 護衛役の者は武装しても、どの魔法の使用も許可する。

 最後の二チームが合格だ。では順番に転移させる」


 中央の空間の地面から魔力が(はっ)せられる。

 それでも転移は時間がかかるようだ。


「そういえば名前聞いてなかったね」


 隣の女子から声がかけられる。


「ああ、俺は夏希です。黒川 夏希。

 先輩、よろしくおねがいします」


「よろしく。あ...アリエッタだよ。

 君一年何組?」


「Fクラスです」


「...」


 一瞬、先輩の動きが止まる。


「え?あ、ああ。え...Aクラスって言ったのか。ごめん聞き間違えちゃった」


「...いや、Fクラスです」


「へ?」


 驚くのも無理ない。

 採用試験を受ける者にとってパートナーの力は重要になってくる。

 それが一年のしかも最低のFクラスなのだから残念に思うのも仕方ない。


「そっか。夏希君一年Fクラスなのか…まぁ、合格できるかわからないけど、がんばろ!」


 今度は俺が驚がされた。

 自分の合格がかかっているのに、パートナーが最低の一年Fクラス。

 この状態でまだ合格を諦めていないのかと。


「夏希君初級防御魔法使えるよね?

 だったら護衛対象訳して欲しいんだけど」


「いえ。使えませんね」


「へ?」


 またしても驚いている。

 当たり前だ。この試験を受ける時点で何かしら戦うすべがない者が合格するはずがない。


「夏希君。君ふざけてるの?

 合格する気、あるんだよね?」


 当然の疑問だ。その言葉には怒気もこもっていた。

 冷やかしで来たとでも思われてしまったようだ。

 その疑問に堂々と答える。


「はい」


「そう。何か考えがあるんだね」


「はい。えっと、申し上げにくいのですが護衛対象をやってくれないでしょうか」


「ええ。いいけど、君何の魔法が使えるの?」


「...何も」


 そう入学試験はペーパーテストと実戦、そして魔法能力テストだった。

 ここ光陽学園は、魔法があまり使えない者も入学を受け入れている。

 だからペーパーテストと実戦の点数が高い俺は合格はできたものの、魔法が使えないためFクラスに入ったのだった。


「え?でも何もって事あるの?」


 そう、この世には魔法を使えない人は存在しない。

 ...俺を除けばだが。


「俺は事情があって使えなくなりました」


「そうなんだ。でもそれだと逆に護衛対象をやった方がいいんじゃないの?」


「いえ、武装をすればマシになるので」


 と言いながら腰に手を当てる。

 そこには刀が帯刀されている。


「わかった。君に任せるよ」


「ありがとうございます」


 凄い人だと思った。

 危うい人だとも思った。

 人をそんなに簡単に信用できることが。

 この人と合格したいと思えた。

 当然、俺の目的は合格しないといけないんだが。


 下を見るとだんだん地面が明るくなってきていた。

 試験を受ける生徒の所を回っていた、キールが近づいてきた。


「これが試験で使う玉だ。

 君達、手を乗せてくれ」


 言われた通り、手を乗せる。

 玉が一瞬だけ光る。

 

「今ので二人の登録は完了した。

 後一分ほどで転移が始まるからな」


 そういうと、キールは競技場(アリーナ)の端にある扉の奥に消えていく。


「じゃ、よろしくね」


 そう言って、隣から手を差し出される。


「よろしくお願いします」


 手をしっかり握る。

 柔らかく、すぐに折れてしまいそうな手だ。


 地面の光が強くなる。


 手を離した後、自分の傷の(あと)だらけの手を見る。

 やはり俺とは違う世界で生きているのだな。


 そんなことを考えていると、俺達の体が光に包まれていった。

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