プロローグ
私は優秀だ。
自分で言うのもなんだが、成績は良く、顔もいい方だと思う。
今日もこの後の全校集会で表彰を受ける。
いつも通り同じクラスの女子たちに囲まれながら、体育館に向かう。
クラスの女子たちに囲まれ、話の中身なんて無いどうでもいい話をする。受け答えを半ば適当に返していると、後ろから呼び止められた。
見ると、歳は私より一つぐらい下の女子だった。おそらく会ったことは無い。黒髪に私より背が低く、可愛い印象を受ける。うちの制服を着ている生徒だ。
ただ、その子が出す異様な雰囲気に周りの目がその少女のもとに集まる。
「あの。ちょっと良いですか?
出来れば二人で話したいのですが」
それは少しまずいのではないか。
周りを見るとやはり大変なことになっている。
クラスの女子たちが、その女子を今にも噛みつきそうなほど、睨みつけている。
が、少女の方はあまり気にした様子はなく、私の返事を待っている。
体育館に行く前に少し話すくらいなら問題ないだろう。
「分かったわ。みんな、ごめんね。先に行ってて」
みんな少し不安そうだったが渋々といった感じで了承し、体育館に向かって行った。
「それじゃ、行こっか」
「ありがとうございます」
二人で体育館から反対の方に歩いていく。
階段を少し上がり、 鍵がかかっている屋上のドアの前まで来た。
ここまで来れば誰にも聞かれないだろう。
前を歩いていた少女が振り向く。
「それで何の御用でしょうか?」
「中西 茜さん。突然ですが、すみません。少しの間寝ていて下さいね」
「えっ…」
少女がいきなり目の前から消えてしまった。
驚く暇もなく、私の意識はなくなった。
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「よーし、第一作戦終了。これより第二作戦に移行する」
少女は、否。
姿を変えた少年は、ポケットから出した機械を耳につけて、機械に向かって告げると、先程気絶させた女子を担ぎ上げ、屋上に出ていった。
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体育館では既に全校生徒が揃っており、集会が始まる前の喧騒が続いている。
教師たちが右の方に整列している。
司会の教師が話し始め、喧騒が遠のいていく。
「では、表彰式を開始します。姿勢、礼…では理事長、登壇して下さい。」
この学校の理事長である、鈴木 楽天が表彰状を持ち、登壇する。教師たちは端に整列して司会の教師以外は少し下を向いている。
「では、表彰される者。三年二組中西 茜」
司会の教師から呼ばれ、一時の間が過ぎると、しっかりとした返事が返ってくる。
返事をした後、少女はきっちり背筋を伸ばし、壇上に上がっていく。
楽天の前までくると、表彰状が読まれていく。
次は受け渡しだ。
両手を添え、受け取り、お辞儀する。
一切乱れがなく、その立ち振る舞いは綺麗と言えるほどだった。
表彰状を受け取り、一礼して一歩下がると司会から予定になかったであろうことが語られる。
「理事長先生。日頃の感謝の意を表して、教師一同から贈り物が有ります。
どうぞお受け取り下さい」
楽天も予想外のことだったようだ。
驚きが顔に出てしまっている。
そしてにこやかな表情の校長が壇上に上がり、少し距離があるところで立ち止まる。
「今まで本当にありがとうございました。
それではどうぞ……
死んで下さい!」
下を向いて整列していた教師たちが糸で引っ張られるように銃を取り出し構える。花束が校長の手から落ち、手には魔法銃が握られ楽天に銃口を向けていた。
どうやら花束で隠していたようだ。
「何の真似ですかな?これは」
先程より何故か冷静さを取り戻している楽天は校長に問う。この人はこういう事に慣れているようだな。
「あなたが一番ご存知のはず。
まぁ、死んで下さい」
校長は銃の引き金を引く。
が、弾は発射されなかった。
正確には、引く前に吹き飛ばされたのだ。
次の瞬間、出入り口に人影が現れる。
「特殊魔装部隊だ!武器を捨てて、投降しろ!」
片方の出入り口を抑えた男性が叫ぶ。
教師達は糸が切れたように倒れこむ。
やはり校長に操られていたようだ。
校長だけとなったが、投降するそぶりも無く行動を取っていた。
「動くな、動くと生徒たちを撃つ。
これは脅しじゃないからなぁ!
いいか!私が出るまで全員動くな!」
生徒たちの方へ銃を向ける。
校長はこれで自分に手が出せないと思ったのだろう。少し気を緩めていた。
まぁ気をつけていたとしても、いきなり目の前の少女が自分の銃を持っている腕ごと刀で斬られる事は回避できなかったであろう。
腕の切り口からは、血が滝のように出ている。
かなり動揺した様子で自分の肘から先が無い腕、そして彼女を見る。
「なっ、何をした!
いや、なっ何故...そんな物を持っている?!」
声が震えてしまっている。
そんな校長の質問に少女は笑顔で答える。
「すいません校長先生。
貴方のようなクズに教える義理、ございません」
少女の笑顔が蜃気楼のようにゆらゆらと揺れ、薄くなり、少年の姿になっていく。
「なっ!」
校長の顔の前に刀を突き出す。
「特殊魔装部隊の者だ」
これで終わっただろうか。
しかし、こちらの希望も虚しく動き出す。
「ま、まだだ!」
今度は腰から実弾銃を取り出す。
「きっ、貴様ら!武器を捨てろ!
生徒が死ぬ事になるぞ!」
そう言いながらも、顔を青くして、小刻みに震えてしまっている。
あたりまえだ。腕を切ったのだ。未だに血は収まる気配がない。
というか、一様は教師なのだから、生徒に向かって銃を向けるとは、教師の風上にも置けないやつだな。その行動に意味が無いとしても。
少年は大きなため息をつき、校長を見る。
「気づかないのか?
お前はもう終わっているんだよ」
校長は何を言っているのかわからないと言った様子だったが、周りを見てその違和感に気づいた。
「何故…生徒が…」
一見何も変わらないように見えるが、普通は銃を出したところを見たり、ましてや向けられたりすれば何か反応があっても良いものだがずっと微動だにしない。
すると、まるで夢でも見ていたかのように生徒たちが消えた。
「こ、これは…」
青い顔にさらに動揺を浮かべ、少年の方を見る。
「これは幻影だよ。生徒なんかとっくに避難させたさ」
校長は脱力し、持っていた銃を落とす。
「これで、チェックメイトだ、校長!」
今回が初投稿です!
まだまだ続きますので続きも読んでいただけると嬉しいです!