プロローグ0
ー何も守れなかったー
目の前には昨日まで一緒に遊び、笑い、時には喧嘩して、それでもまた笑いながら共に時間を過ごした人だった物。
背中から鋼鉄の槍を何本も生えている。
血に塗れた顔はこちらを見て、笑ったまま時が止まっている。
目から涙が出て、思わず下を向くと、漆黒の刀と紅蓮の刀が血に濡れて転がっている。
周りは炎に包まれ、この寺の至る所が焼け落ち、崩れ、ただの炭となっていく。
寺の外には、何人もの軍服を着た者たちがそれぞれ大小の刀傷を刻み、命を失っていた。
「何の...何のために、こんな、寺一つ、好きなやつ一人も、守れないで...なにが、神さまの力だよ!
...俺は弱い」
寺のある山の外は火の雨が降り、血の海となり、銃の音や破砕音、悲鳴が鳴り止まない地獄となっていた。
地獄となった町の海岸には多くの大型戦艦が並んでおり、次々と火の玉を空に打ち上げている。
耳の中では、繰り返し繰り返しただ一つの言葉が巡っていた。
『夏希。あなたが救って。みんなを救ってね』
もう聞くことが出来ないその人の言葉に体を無理矢理奮い立たせ、応える。
「当たり前だ。俺が、俺が全て!
どんなやつも、どんな不幸からも!救ってみせる。
だから...観ててくれよ..」
床に転がっている二本の刀を拾い上げ、寺を後にする。
山を駆け下り、火の中を掻い潜る。
軍服が見えるとそれを斬った。
斬って斬って斬った。
途中からなにを斬っているのか分からなくなっていたが、とりあえず斬った。
人の形をしたものを片っ端からなにもかもを。
途中飛んできた全ての物を。
ずっと切っていると、大きくて切れないものが目の前に現れた。
意識を向けると、いつのまにか海岸までたどり着いていたようで、漆黒の刀はその船体に刺さっていた。
「ここの物全て壊すから手伝って」
そう口にすると、二本の刀がその刀身の色と同じ色の物を吐き出す。漆黒の刀からは真っ黒な影が伸び船を覆い、体積を少しずつ小さくさせ、ただの黒い球体になる。
もう片方の紅蓮の刀からは炎が上がり、球体となった戦艦以外の戦艦を包み、溶かし、消滅させていく。
全てを消滅させると、前のめりに倒れ、刀を落とす。
意識がなくなると同時に刀もそこには最初から何も無かったかのように消えた。
ーーーーー
日の国西部の港町七月七日、七夕のこの日。
外国からの突如とした進軍は、最初に侵攻対象に選ばれた町を破壊し、地獄へと変えたが、十もの戦艦が一夜にして消え去った。
町には生存者はただ一人を残しておらず、幸運にも生き残ったとされるまだ十歳程の男の子は親が寺に子供を預けていて、親は無事と分かり、男の子は親の元へ帰された。
ただ不可解だったのは、全ての残っていた兵士の死体には刀傷があったこと。
更に、倒壊によって下敷きになり、その状態で生存していた外国の兵士は「子供に、子供に全て斬り殺された」という言葉を言い残し、亡くなってしまった。