3話 土台固め
かなり遅れて申し訳ありません。
実生活が少々忙しかったもので…(銃口を向けられながら)
統一歴1913年:帝国軍宮廷親衛騎士団第七騎兵師団駐屯地
『拝啓、お父様、お母様。
お元気でしょうか。私が軍に入ってから早くも一年が経ちました。
こちらは毎日訓練に勤しみ、宮廷親衛騎士団の名に恥じぬよう、日々精進しております。
さて、今日はお二人に報告を行うため手紙を一筆致しました。
私、ゼーゼリアス・レーリンは1913年6月2日をもって大尉へ昇進、第七騎兵師団第六大隊の大隊長に着任いたしました。
先のバレンタイン蜂起事件から続いた一連のレジスタンス掃討の任務での活躍と、前任者の戦線離脱に伴い、昇進が認められたようです。
これらもすべて、お父様とお母様の日頃の支えがあってのこと。
これからも、レーリン家の名に恥じぬ活躍をお見せいたしますので、どうぞご期待ください。敬具。』
手紙を書き終え一息つく。手元には副官が入れたコーヒーが置かれていた。息抜きに、と飲み始める。美味い。
配属されてから3年という速さで、私は大尉に昇格した。
度重なる戦争の出費が国民、特に平民階級への増税という形でのしかかってきた帝国では、前の戦争が終結した時点からストライキやデモが多発していた。そんな中、今年の2月14日、これまでにない規模でのストライキが勃発した。これに対し王室は、蜂起した労働者に対して軍隊を派遣することを決定。バレンタイン蜂起事件(労働者側ではバレンタイン闘争)が始まった。
3か月続いたこの争いは、軍部の一部をも巻き込んだ準内戦となって激化した。結局、皇室が労働者側の要求の一部を受け入れるという妥協案が成立したことで事態は収拾に向かった。
その時、私は中尉だったのだが、当時の大隊長が労働者側が投げた火炎瓶で全身大火傷を負い、何とか一命は取り留めたものの、最早前線には立てないような状態にまで弱っていた。
入院中の大隊長に面会した私は、熱心に頼み込み、当時副官だったこともあって簡単に大隊長の後任の推薦を貰えた。
「お手紙、書き終えましたか?」
「パブリチェンコ中尉。ああ、終わったとも。いいコーヒーだった。やはりコーヒーは貴官に入れてもらうべきだな。」
リリーヤ・パブリチェンコ中尉。彼女が私の副官だ。神学校の一代前であり、私が少尉だった頃からのバディだ。
「ありがとうございます。ところで、お聞きしたいことがあるのですが…」
彼女が若干戸惑った表情で聞いてくる。
「何を聞きたいのかは知らんが…時間もある。別にいいぞ。」
「ありがとうございます。では、その…何故大尉殿は事件の時、蜂起した人々を撃つのに消極的だったんですか?」
「スパイだとでも言いたいのかね?」
「いえ!そんなことは…」
「仕方がない。皇帝陛下の命に反すようなことをしたんだ。」
私は淡々と語り続ける。
「だが、たとえ陛下の命だとしても、同胞を、自国民を殺すようなことなど、私はしたくない。」
「大尉殿…」
彼女に近づき、耳元で囁く。
「私が言えるのはこれだけだ。私は、皇帝陛下を好かぬ。誰にも言うなよ。」
そう言って、その場を去った。
その日の夜:部隊宿舎
星がきれいな夜。時間を持て余した私は窓から星を眺めていた。何とも言えない不安に駆られながら。
その不安は、部下が持って来た『二重帝国皇太子が暗殺、犯人は協商連合寄りの君主国の青年。』という見出しの新聞によって、現実のものであると認識させられた。
この『君主国』という国は、セルビアをモチーフにしています。で、バレンタイン蜂起もかの有名な血のバレンタインをモチーフにしてたりします。