失踪
異変が起こったのはその日の夜だった。
蝶子は父恭介と一緒に夕食をとったあと、居間で飼い猫のビビと遊んでいた。
そのとき、玄関のチャイムがなった。
夕食の片付けをしていたハルさんが玄関に向かう。
しばらくすると、ハルさんはいそいそと居間まで二人を呼びに来た。
何事かと蝶子も父と一緒に玄関へむかう。
そこには恰幅のいい男性が一人、立っていた。
「あ……初めまして。藤堂光子の父、藤堂源太郎です。夜分遅くすみません」
蝶子の父も軽く挨拶をすると、どうかしましたか、と尋ねた。
「あー、実は今日蝶子さんと出かけると言ってから、光子のやつが帰ってこないもので。もしかしたらこちらにお邪魔しているんじゃないかと思ったのですが」
蝶子は急に血の気が引くのを感じた。
「いえ……こちらにはいませんが」
恭介はそう答えると、彼女の方を見た。
「光子ちゃん、何か言っていたか?」
「いえ。夕方には橋のところで別れましたから。光の君―――光子さんはちゃんと家の方に向かっていきました……」
蝶子は藤堂源太郎の目を見ながらそう答えた。
一言一句聞き逃すまいとするようにこちらを見ていた源太郎は、それを聞いて明らかに落胆したような顔をした。
「そうですか……いや、突然変なことを聞いて申し訳ありませんでした」
ではこれで、と家を出て行こうとする源太郎に恭介は、よければ私も一緒に探します、と言った。
源太郎は少しだけ迷った様子だったが、
「すみません。そうしていただけると助かります」
と言った。
蝶子はいても立ってもいられず、
「私も光子さんを探します」
と言ったが、恭介はそれを許さなかった。
「お前にまで何かあっては困る。ここでハルさんと待っていなさい」
「そんな……」
蝶子は不満をあらわにするが、蝶子の父はそれに耳を貸さなかった。
そして恭介はそばにいたハルさんに声をかけた。
「ハルさん、隼人くんを呼んでくれ。彼にも手伝ってもらいたい」
「はい、旦那様。隼人、隼人」
ハルさんが隼人を呼ぶと、彼はすぐに姿を現した。
「蝶子の友達の光子さんが行方不明なんだ。一緒に探してくれ」
隼人はそれを聞いてびっくりした顔をしたが、すぐにわかりました、と返事をした。
三人が出て行こうとするとき、蝶子は隼人を呼び止めた。
「隼人、必ず光の君を見つけて頂戴」
と真剣な目で隼人に訴えた。隼人は、
「はい。必ず」
と短いながらも力強く答えた。