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銀ブラ

 晴れた日曜の午後。

蝶子と光の君は街へ繰り出した。

街には様々な商店が並び、人々で賑わいをみせていた。

今日の予定は新しくできたカフェーに行ってみよう、というものだった。

蝶子も光の君も、カフェーに行くのは初めてだった。


「いつも外見だけは見ていたけれど、中はどうなっているのかしらね」


蝶子は初めて行くカフェーという場所に不安と期待をのぞかせた。


「才蔵の話だと、洋食のメニューがたくさんあって、大変綺麗な店だそうだよ」


光の君は兄を呼び捨てにしながらにっこりと答えた。


「兄君は大学生だったかしら。なかなか流行に敏感なのね」

「学生の間で友人とカフェーに行くのが流行っているらしい。あと女給さんに美人が多いとかなんとか」


蝶子は光の君の最後の言葉にしらけた顔をした。


「なによ、それじゃまるで女給さん目当てで通ってるみたいじゃない」

「ま、そういう輩もいるってことさ。男なんて皆単純だから」


光の君はあっけらかんとした様子でそう答えた。


「浪漫がないわね、全く」


憤慨した顔をしてみせると、光の君はあはは、と笑った。

蝶子と光の君はそんなたわいもない話をしながら人通りの多い街を並んで歩いてゆく。

蝶子はお気に入りの柄の着物を着てきたが、光の君は相変わらず男袴をはいていた。

二人を知らない者は彼女達が恋人同士だと勘違いするのだろう。

道行く人はちらちらとこちらを見てくるが、それももう慣れっこになっていた。


 やがて二人はお目当てのカフェーにたどり着いた。

外見は日本建築とは異なる石造りの建物だ。

ただし扉は木製で大きなガラスがはめこまれており、中が見えるようになっている。

蝶子はその扉の取っ手に手をかけると、そろりと開けた。

扉に取り付けれれたベルがちりん、と鳴る。

すると中から「いらっしゃいませ」という声がした。

そこには着物の上にフリルがついた白いエプロン姿の女性が立っていた。


「こちらへどうぞ」


慣れた様子で蝶子と光の君を席へと案内する。

中はこじんまりとしていたが天井は高く、洋風のテーブルと椅子が並んでいた。

客の入りもよく、満席状態だったが、その顔ぶれは大人や大学生くらいの青年ばかり。

蝶子は少し場違いな気がして気遅れしていた。

さすがの光の君もキョロキョロとあたりを見回し落ち着かない様子だ。


「ご注文が決まる頃にお伺いいたします」


そう言うと、女性はにっこりと美しく笑って席を離れた。

才蔵の話はあながち間違いでもないらしかった。


 二人はコーヒーと、お目当てだった「シベリア」を注文した。

「シベリア」とはカステラの間に餡、または羊羹をはさんだ和洋折衷の菓子だ。

巷で非常に流行っており、二人もまたその流行に乗ろうとしていたのだった。

注文の品が席に運ばれてくると、コーヒーのほろ苦い香りが鼻をくすぐった。

蝶子はそのまま一口、コーヒーをすすると、眉間に皺をよせた。


「……すごく苦いわ」


それを見た光の君がぷっと吹き出す。

「そのままじゃ苦いよ。ほら、そこに砂糖とミルクがあるだろ。それを入れればいいんだよ」

「ああ、そういうことなのね…」


蝶子は少し恥ずかしそうに頬を染めた。


「シベリアも食べてみようよ。こっちは私も初めてだ」

「そうね。どんな味がするのかしら」


フォークで切り分け、そっと口へ運ぶ。


「……甘くて、おいしいわ!」


蝶子は感激して目を輝かせた。


「うん、外側の生地がふわっとして、中の餡はしっとりしてる。絶妙な組み合わせだ」


光の君も感慨深げにその菓子を味わっている。


「月曜日には皆にカフェーでシベリアを食べた、って言ったら自慢できるわね」


光の君もそうだね、と笑顔で答えた。

二人は大満足で店を後にしたのだった。

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