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蝶子と光の君

 「だーかーらぁ、出るんだってさ」


 晴れた日の午後。

草むらで女学生二人がのんびりと昼食を取っている。


「何がそんなに出るんです、ひかるきみ


蝶子はハルさんが作ってくれた弁当をつつきながら聞き返した。

光の君と呼ばれるのは藤堂光子とうどうみつこだ。

長身で男子のように短い髪に男袴といういでたち。

涼しげな面立ちもあり、年頃の女子ばかりの女学校では憧れの的だ。

女子から恋文をもらうのは日常茶飯事。

子供のころからそんな風だった彼女は、いつからか光の君、というあだ名が定着していた。

橘蝶子はそんな彼女となぜか馬が合った。

二人は尋常小学校時代からの幼馴染だ。


光の君は神妙な面持ちでこちらを見つめる。


「吸血鬼だよ、吸血鬼。若い女性が血を吸われて死ぬ事件が多発しているんだって」

「へえ……そんな事件がおきているのね……」


蝶子はあからさまに他人事という反応を示した。

光の君はその態度にますます声を大きくした。


「君みたいな奴が一番狙われるんだぞ。何かあっても知らないからな」


ふんと鼻息を吐き出す光の君に蝶子はにっこりと笑いかけた。


「大丈夫よ。そんなか弱い婦女子ばかり狙う輩は私が返り討ちにするわ」


自信ありげな蝶子を見て、光子はあきれた顔をする。


「君は見た目は蝶のように可憐だけど、中身は案外じゃじゃ馬だからな……また縁談の話、蹴ったんだって?」

「私は結婚したくないわけじゃないの。ただ、なよなよした男は嫌いなだけ」


少女は言い訳をしたものの、縁談を蹴ったくだりは否定しなかった。


「しょうがないだろ。父君は橘医院を継いでくれる婿養子が欲しいんだから」


蝶子は長い睫を伏せてはあ、とため息をついた。


「わかってるわ……しょせん私に選ぶ権利なんてないってこと。でも、女学校を卒業するまでは待ってほしいと思ってるの」


蝶子はぼんやりと木造の校舎を眺めて言った。

彼女は16歳。

まだ、恋を知らない。




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