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金色の福音―アラン―

 気がつけば俺は格子に囲まれ、自由を奪われていた。

 それだけならまだしも、目の前でレオが雷に打たれ悲鳴を上げる間もなく倒れた。

 倒れたんだ。

 あっという間だった。

 なにが起こっているのか理解するまで時間がかかった。

 いや、俺はこれを理解出来ているのか?

 隣の鳥籠の中にいるヴィーは茫然自失といった表情でレオに視線を向けている。


「またかよ!」


 苛立ちををぶつけるようにアシュリーはレオを蹴り上げた。

 俺の知っているアシュリーはあんなことをするような奴じゃなかった。

 レオと仲良くしていたじゃないか。

 それなのになんでだ?

 力なく転がるレオにアシュリーは容赦なく雷を放つ。


 もう……見ていられねえ。

 見たくない。


「ねえ、お姫様」


 ヴィーは体をびくつかせ、小さく後ずさる。


「ロールがどこに逃げたか知らない?」


 アシュリーが鳥籠に触れる前に鳥籠は消える。


「知っているわけないよね。だってお姫様だもん」


 ヴィーの前髪を掴み


「ロールと同じ青い目はやっぱり綺麗だ。だけど、ロールとは違う」


 何をする気だ?


「やめろ……」


 ヴィーに手を出すな。

 魔術が、炎が出ない。

 なんでだよ!?

 どんなに格子を揺さぶったところで格子が外れるわけがないとわかってはいるんだ。

 それでもこのまま何もしないってわけにはいかない。


「大事な俺の片割れに手を出すな」


 幾らアシュリーでもそれは許せない。

 俺にはなんの興味もないのか、アシュリーはヴィーの顔を無理矢理上げさせると唇を奪う。

 振り上げられたヴィーの手を掴み、心底楽しそうに笑うんだ。


「お姫様も美味しいけど、王子様ほどじゃないや」


 なにを言っていってるんだ?


「お姫様は着飾ってそこに飾って置く方がいいかな」


 ヴィーが氷をアシュリーに向けるもアシュリーに当たることもなく解け消えた。

 怒りに歪んだような顔を垣間見せ、雷を放つ。

 ヴィーが慌てて飛び退き避ける。


「きゃああぁぁぁぁ!」


 予測していたのかヴィーの避けた先に雷は放たれていた。

 ヴィーの悲鳴なんか聞いてられねえよ……

 この格子どうにかならないのかよ!

 幾ら俺が弱くたって双子の片割れ一人くらい守れなくてどうするんだよ!

 魔術が使えないなら力任せにいくしかないんだけど、体当たりしたってビクともしない。


「あはははっ! 王子様そんなことしたって無駄だよ」


 それでも、俺はヴィーは守らなきゃいけない。

 俺は男の子だから、女の子のヴィーは俺が守らなきゃいけないんだ。

 幼い頃からずっとそうだった。

 これからだって……

 弟のように思っていたアシュリーでもヴィーに手を上げるやつは許さない。


「その籠はこの神が作ったんだ。竜の子じゃ破れるわけがない」


 だからなんだよ。

 そんなことどうだっていい。

 神? 竜の子? 知るかよ……


「こんなモノに閉じ込めて、そんなに俺が怖いのか?」


 そんなに驚くなよ。

 俺は思ったまま口にしただけだ。


「僕が怖がるわけないだろう」


 簡単な挑発に引っかかってくれる。


「怖いんだろう? だってアシュリーはいつだって俺には敵わなかったもんな」


 ヴィーに放たれていた雷が止んだ。

 雷撃に無理矢理起こされていたのか、ヴィーは支えを失った人形のように床に転がって……


「うわぁぁぁ!」


 何だよこれ……

 体中が痛い。

 力が抜ける。

 息が吸えない。


 これがアシュリーの雷?

 こんなモノを、ヴィーに向けたのか。

 ふざけるな……


 力の入らない手を無理矢理持ち上げ格子に手を掛ける。


「なにを……ビビってるんだよ? 神様なんだろ?」


 この格子から出なきゃなにも出来やしない。

 俺の中の竜の力ってヤツは解放されたんだろ?

 今この力を使わなきゃ、いつ使うんだよ?

 あ? 使い方なんて知らねえよ。

 そんなものどうだっていいんだよ。

 俺はアシュリーを殴る。

 そこのいけ好かない神ってヤツを倒すんだよ。


「シラユキ……レオ! 俺は竜の力ってやつが使えるようになったんだろ!?」


 二人に声が届いてなんかないだろうけれど、問わずにはいられなかった。

 だって、だってさ、他に聞く相手なんかいねえんだもん。


 白い花びらと雪の結晶ががこの鳥籠のような格子の中一杯に広がる。

 黒い焔が格子を燃やす。


 驚いた表情のアシュリーが倒れているレオを確認するように首を振る。


「ロール……」


 姿を消していた父様が横たわるレオの体を支えていた。

 金色の光に包まれるレオは眠っているように見える。


 格子の外に出られたって、体の痺れが抜けた訳じゃない。

 実は立っているだけで精一杯なんだ。

 アシュリーのあんな苦々しい顔ははじめてみる。

 アシュリーはもっと無邪気な、男に言われて嬉しいものじゃないだろうけど笑顔がかわいい奴だった。

 こんな怒りに顔を歪めるような奴じゃなかった。


「なあ、もう終わりにしないか? 俺は神がこの世界を気に入ってくれたことは嬉しいと思っているんだよ」


 父様はアシュリーに諭すように静かに語りかける。


「ちょっとやり方が酷かっただけでさ、俺は」


「レオ達は僕を許さないだろう?」


 俺だって、今のアシュリーは許せそうにない。


「許しを請う気もないけどね」


 アシュリーから放たれた雷に俺は体を強張らせるも、金色の光に包まれ雷に打たれることはなかった。

 父様は小さく息を吐き俺たち双子の名を呼ぶ。


 ――光 輝き 煌めき 金色の名を持つは我――


 俺の体が金色の光に包まれる。

 なにが起こっているんだ?


 ――闇を照らし 闇を包み 黒と白を内包する――


「ロール何をしている?」


 アシュリーは雷を放つも金色の光に相殺された。


 ――我が滅びは全ての終焉 新生より金色を生み出すも我――


 背中が痒い。

 肩甲骨のあたりがこそばゆくて、手が届かない。


 ――我は金色の名を行使する 我が竜の子に金色の福音を――


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