嫌がらせ―レオ―
くそっ……
神の嫌がらせにロールはすっかり参ってしまっている。
魔王たちに対する仕打ちなんて嫌がらせ以外のなにものでもない。
ロールに魔王の悲鳴を、絶望した姿を見せることが目的だろう。
そうじゃなきゃわざわざ魔王を引きずってくることもないはずだ。
ヴィクトリアなんてガタガタに震えてるじゃないか。
このままここに置いて大丈夫だろうか?
離脱させた方がいい気する。
避難を……
「死にました」
は? 神は今なんて……ロール!?
金色の輝きだす。
もう、涙もでないのか。
ロールにとってマリアは本当に大事な人間だったんだな。
どうして神はロールから大事なものを奪っていくんだよ。
ヴィンセントがうちひしがれるロールの背に手を当てる。
ヴィンセントにロールは小さく微笑む。
それにしてもアランのやつ、無茶をする。
アレはもうアシュリーじゃないっていうのに。
見事に絡め捕られているじゃないか。
ヴィクトリアの氷も全く届かないとか、やっぱりヴィクトリアは離脱させた方がいいな。
このままじゃヴィクトリアが壊れてしまう。
ベルフェゴールにヴィクトリアを任せ、あの無茶をするアランをどうにかしないとな。
黒い焔を打ち込むも神はアランを捕らえたまま全てを右へ左へと簡単に避けた。
アランの首筋に唇を這わせ恍惚そうな表情を浮かべる。
「ほら、王子様は本当に美味しいな。ずっとロールはどんな味がするんだろうと思っていたけど、よく似た王子様がこんだけ美味しいんだから……」
もがくアランなど気にする様子もなく、神はアランの首筋にに歯を立てた。
「うがわぎゃぁぁぁぁ!!」
アランが苦痛に体を捩り、もがく。
肉が咬み千切られようと構わないといった様子もがき、拘束から逃れた。
アランの様子を確認に近づこうとするも、神から放たれる稲妻に阻まれる。
ルシファーが攻撃にベルゼブブがアランの元に行こうとする。
ルシファーに放たれた稲妻をベルゼブブが虚空に落とし、ルシファーの剣が神を捉えた。
援護をと黒い焔をルシファーの剣に乗せる。
ルシファーがうまく神の気を引いてくれるおかげで怪我に踞るアランに近づけた。
「アラン! 大丈夫か?」
首筋の怪我なんて大したことはない。
そりゃ見た目はもう酷いよ。
咬み千切られたんだ。
ナイフなんかの傷とは違いぐちゃぐちゃだし、血は溢れるように出るんだ。
痛いに、苦しいに決まってる。
それよりも……神はなんてことをしてくれたんだ。
アランの魔力……いやこれは魂に食い付きやがった。
俺の力で治せるのか?
黒い焔にアランを包んだところで苦しそうなのは変わらない。
首筋の傷はきれいになった。
だけど、魂の方はちっとも……
「レオ様……」
ベルゼブブにレオを託す
俺は神をどうにかしないと。
ああ……ルシファーが吹き飛ばされる。
金色の光がルシファーを包んだ。
その光はそのまま槍となり神を狙う。
「やった!」
光の槍は神を貫いた。
これで世界は元通り俺たちの、ロールが苦しむことがない。
光の槍を胸に受けた神はじっとしていた。
じっと胸に受けた光の槍を見ている。
なんだ? なぜ消えない?
なんで倒れないんだ?
神は胸にある光の槍に手を乗せた。
闇に溶けるように光は消え、神は何事もなかったようにそこに立っている。
「この世界は僕のものなんだよ」
神は俯いていた顔を
「なんで神の僕に逆らうかなあ?」
もたげるように上げ
「ロールいい加減に戻っておいで」
ロールに一歩一歩と歩を進め
「ロールの大事な子供を守りたいでしょう?」
両手を広げ
「ロールのその友人を守りたいでしょう?」
雷をロールに放った。
「ロールの大事なレオを死なせたくないでしょう?」
神の歪んだ笑顔が俺に向いたと思うと目の前にあった。
襟ぐりを捕まれ、頭突ききを受ける。
気の遠くなるよな衝撃に怯んだ。
攻撃にも、防御にも回る間もなく神の雷を浴びせられ……俺を嬲るつもりか。
こんな雷……わざと威力の小さいものを俺に浴びせてロールに嫌がらせをしていやがる。
ふざけんな。
黒い焔で身を守り、剣を横に薙ぐ。
いとも簡単に避けてくれるな。
飛び退くように避け、稲妻を向けてくる。
避雷針代わりにナイフを放って……
ナイフに集まった稲妻は俺に真っ直ぐに向かってきた。
あんなの避けられるかよ!
直撃を受け、転がる。
体が電撃に痺れてうまく動けない。
このままじゃまずい……
動けない俺を神は一瞥すると、剣を投げてつけてくる。
避けられない俺は甘んじてその剣を体に通すしかなかった。
ロールが俺を心配する声が聞こえる。
床に縫い付けられた俺に神の足音はやけに響くんだ。
ベルフェゴールとベルゼブブは子供達をちゃんと守れるだろうか?
……こんなとこに倒れている俺が心配など失礼だな。
体の痺れさえどうにかなれば……
「ねえ、ロールは僕のとこに戻ってこないの? どうしても嫌ならさぁ」
アランとヴィクトリアがそれぞれ別の鳥籠のような格子に入れられた。
ベルフェゴールとベルゼブブは雷に撃ちつけられている。
ロールの前にたつヴィンセントは一閃のうちに吹き飛ばされた。
動けよ……このままじゃ駄目だ。
ロールが神の手に落ちることだけは避けなくては。
痺れる体に黒い焔を無理矢理生成し、落とす。
焼かれる体の苦痛なんてどうでもいいんだ。
焔の熱に剣は溶け消え、からだの痺れは抜けた。
動き出す俺に驚きの顔を向ける神に黒い焔を投げつける。
黒い焔は神に届く前にかき消された。
向かって来る稲妻を黒い焔で払う。
恐怖に、怒りに青い目が滲む。
どんなに金色の輝きを放とうとも神にはなにも通じていない。
俺たちはまた……
シラユキ、ごめん。
ありったけの黒い焔をロールに向ける。
ロールの青い目が俺を睨む。
睨むなよ。
俺だって……もうこうするするしかないんだ。
お前を奪われることだけは避けなくては。
黒い焔はロールを包み込み、収束していく。
神は慌ててその焔を手にしようとするが間に合わない。
神になんかにロールを触らせるかよ。
消えた焔に神は雷を放つ。
怒りに任せて放たれたそれは残っていた魔王を、俺を裂いた。