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認めたくありませんわ―ヴィクトリア―

 わたくしたちは本当にアシュリーと戦わなくてはいけませんの?

 あの姿はアシュリーですけど……

 わたくしたちが戦う相手はアシュリーなのでしょうけど……

 ですが、まだ覚悟が決まりませんわ。

 だって! だって、わたくしはアシュリーがいい子だということを知っていますもの。

 わたくしたち双子が戦いに巻き込みましたわ。

 わたくしはアシュリーに助けてもらったんです。

 あの子笑顔に何度と救われたのでしょうか。

 あの子の涙をわたくしはまだ、助けられておりませんの。

 アランの表情もわたくしと同じような想いを持っているように思います。


「僕にこんな雑魚じゃ相手になるわけがないでしょ?」


 アシュリーは両の手を離し、サタンとマモンを落とします。

 そこに労りや優しさを一片も感じさせません。

 本当にあれはわたくしの知っているアシュリーなのでしょうか?


「アラン……あれは、アシュリーですのよね?」


 アランは黙ったまま答えてくださいません。

 なんと答えたらいいのか迷っているのでしょう。

 わたくしだってアランに同じ事を聞かれたら答えに詰まりますもの。

 あれがアシュリーだと確信を持てません。


「お姫様、酷いな。僕はアシュリーだよ」


 ええ、その笑顔は紛れもなくアシュリーですわ。


「さあ、ロール僕のとこに戻っておいでよ」


 マモンの苦痛に悶える声が響きます。

 倒れているマモンを踏みつけたのです。


「ロールがどうしても嫌だっていうなら……」


 サタンに剣を突き立て……見ていられません。

 手で顔を覆い背けてしまいましたわ。

 それでも、わたくしは逃げるわけに参りません。

 背けてはいけませんわ。


「王子様とお姫様でもいいよ」


 にこりと笑うアシュリーの姿に恐怖を覚えます。

 どうしてマモンとサタンにこんな酷い仕打ちをできるでしょう。

 あんなアシュリーをわたくしは知りません。


「天使……風竜クリューソス様はどうされたのですか?」


 場にそぐわないベルフェゴールの間延びした声に場の緊張が緩みます。


「天使?」


 しばらくの沈黙に緊張が張り巡らされ


「――――喰った。力を取り戻すには食事が大事だろう?」


 お父様が金色の輝きを放ちます。

 レオが必死に押さえ、アシュリーは本当に楽しそうに笑って……


「でも、アレよりも王子様の方が美味しかったよ」


 なにを言っているのでしょうか?


「つまみ食いのつもりが食べ過ぎちゃうくらいだもの」


 血の気が引いていきます。

 言葉を理解するよりも先に嫌悪感が押し寄せて参ります。


 飛び出していったアスモデウスに顔を向けることなく一閃のうちに弾き飛ばします。

 壁に激突する前にアスモデウスの足を掴み、地面へ叩きつけました。

 それも何度も何度も何度でも打ち付けるのです。

 床にひかれたタイルが剥がれ、抉られ、それでも何度も打ち付けて……

 意識をなくしたアスモデウスを引きずり、お父様の前へ投げます。


 レオの黒い焔がアシュリーに向かいます。

 アシュリーはそれを後方に飛び退き、サタンとマモンの元まで後退しました。


 わたくしはなにを見せられているのでしょうか?

 足がガクガクと震え、立っているのもやっとなんです。

 戦うことが怖いんじゃありません。

 今のこの状況が理解出来ないことが怖いんです。


 どうしたらいいのかとアランの腕を掴みます。

 わたくしの不安を拭うようにアランが手を重ねます。


「マリアは……」


 ちゃんと声が出ましたわ。


「マリアはどうしましたの……?」


 きょとんとした顔をしております。

 わたくしの言葉が聞こえなかったのでしょうか?

 ちゃんと声が出たと思っても、聞こえなくては意味がありませんもの。

 もう一度……


「死にました」


 あっさりとした一言が返ってまいりました。

 あまりにもあっさりと当たり前のように言うのです。

 死んだ――その意味がわかるまで時間が掛かりましたわ。

 お父様の慟哭のような金色の輝きがこの謁見の間一杯に広がります。

 優しさに満ちた光が生きているのか死んでいるのかわからない三人をつつみます。

 三人の姿は光に溶けるように消えました。

 足元を照らすような頼りになる光がわたくしの心に染み入り勇気づけてくださいます。

 刺激の強い光にアシュリーは眩しそうにしており


「アラン!」


 お父様の輝きと一緒にアランが殴りかかっていきます。

 振り払われた手を虚空に伸ばすことしかできません。


 アランの拳を手のひらで受け止め、そのまま後ろにに捻り上げます。


「どうして……マリアを」


 アランの声が震えているように感じます。


「マリア様があそこにいたから盾になってもらっただけですよ?」


 アシュリーがなにを言っているのか全くわかりません。

 気持ちが追い付かないんです。

 ただアランを離して欲しくて放った氷も届かなくて、捻り上げられて苦しそうにしているアランを見ているだけです。

 何もできない……

 苦しいんです!

 わからないんです!

 アシュリーを見ていられない!

 アレをアシュリーと認められない!

 認めたくありませんわ……

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