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なにを信じたらいいんだ?―アラン―

  神なんて信じてはいなかったけどさ、世界の根底を覆されるような話を聞かされて、弟のように思っていた幼馴染みが神様だとか言われて……

 ここに来てからヴィーはずっと俺にくっついてるし。

 ヴィーをこれ以上不安にさせるわけにいかないから強がってはいるけど、俺の体はどうなったんだよ?

 それにマリアは?

 無事だよな?

 アシュリーがあんなことをするなんて……

 神がどうとかよりもそれが一番信じられねえ。

 目の前で起こったことなんだけどさ、そんなことがあるなんて思わねえよ。

 父様は父様で泣き喚いてヴィンセントに殴られてるし、あの水の塊はなんだよ?

 ヴィンセントはいるし、この見覚えのあるこの場所はレイディエストの城でいいんだよな?

 あの玉座のそばに落ちてるウサギのぬいぐるみは俺たちが子供の頃に遊んでいたものだ。

 なんで謁見の間に落ちてんだよ。


 俺たちはなにと戦っていたんだ?

 なんのために?

 

「アラン、ヴィクトリア大丈夫か?」


 レオが心配そうに様子を伺ってくる。

 この状態で大丈夫なわけないだろう。

 もうなにがなんだかわからないんだ。


「……レオの世界に行った時よりも混乱してるよ」


 俺の言葉にレオは苦笑いを浮かべ俺の頭に手を置いた。

 レオの後ろを動物の耳が通りすぎたけど、あれは見間違いだよな。

 だって、獣人は金色の魔王に滅ぼされたんじゃなかったのか?

 ヴィンセントと話をしているのはどう見ても獣人だ。


「レオ、あの方は……?」 


 レオは俺たちの目線の先にいる獣人を見つけ


「獣人だな」


 なんでそんなあっさりしてんだよ。

 レオたちは神の持ち込んだ異物だっけ? 獣人らが嫌だったんだじゃないんか?


「ああ、悪い。説明が足りなかったな」


 気まずそうに話し始める。


「俺は神のことは嫌いだ。だけど、あいつの持ち込んだ亜人種に対してはなんとも思ってないんだ。

 あのもふもふした尻尾とか、綺麗な顔つきや、手先の器用さなんか凄いだろう」


 まあ、それは俺たち人間にはない亜人らの特徴だな。

 その特徴のせいで人間との対立も激しかったって聞いた。

 でも、それだってずっと昔のことだ。

 確執がなくなったとは言わないが、亜人と人間の戦争なんてもう何十年となかったはずだ。 


「神だって侵略じゃなければ……俺たちは、ロールは受け入れたよ」


 あの自分勝手な父様が?


「亜人種がいつまでも異物のままってわけにいかないからこの世界に馴染ませてこの世界の一部にしたいんだ。それがこの世界の成長に繋がる」


 馴染ませるってなんだよ?

 世界の成長ってなんだ?


「乱暴だったのは否めないけどな」


 話を聞いてもわからない。

 なにを理解したらいいんだよ?

 わからないのは俺が……この様子じゃヴィーもわかってないな。

 

 ――――爆発音が響いた。


 ヴィーが俺にしがみつく。

 今の爆発音の衝撃に城が揺れたように思うが、世界でも屈指の技巧が凝らされるこの城が揺れる衝撃ってなんだよ?

 俺が知っている歴史の中でこの城が落ちたことなんてないし、王都の住民を全て受け入れることもできる城なんだ。

 それが揺れるなんてことあるかよ。


「レオ様のそのお姿、封印が解かれましたか」


 ベルフェゴールは欠伸をしながら


「神が攻めて参りました。憤怒と強欲が相手をしておりますが持ちますでしょうか?」


 神って、アシュリーが来たってことだよな?


「マリアは? マリアはいましたか?」


 ベルフェゴールは首を傾げ


「寵愛のマリアの姿はありませんでしたよ」


 ヴィーの顔が青ざめる。

 俺だって自分の血の気が引いていくのがわかる。

 アシュリーが来たっていうんだ。

 一緒に来たと思うだろう?

 無事だと確信したいんだ。


「まだ、死んだと決まったわけじゃないんだ。しっかりしろ!」

 

 レオは俺たちに激昂を浴びせ、父様の入っている水の塊に黒い焔を投げ込む。

 水の塊は破裂し、父様を水溜まりの中に現した。

 へたり込んでいた父様は金色の輝きを放ち、水溜まりは消え、びしょ濡れだった父様はすかっり乾いていた。

 父様は俺たちに向き直り、その青い目を真っ直ぐに向けてくる。


「この戦いを最後にしたい。お前達二人を巻き込むことになったことは本当にすまなかった」


 ああ、これが俺たちの父様だ。

 いつだって自信に溢れている憧れだった。


「相手は神だ。何度も負けてきた。これ以上負け続けるわけにはいかない」


 俺たちは本当にアシュリーと戦わなくてはいけないのか?


「シラユキがいないことが気がかりだが、アランとヴィクトリアがいる。レオがいる。そして俺もいる」


 金色の輝きにここにいるもの達が魅了されているように見えた。


「さあ、世界を取り戻そう!」


 レオの言葉に唸り声が響く。

 ここにいる人数なんて大したことないんだ。

 俺たちとレオ、傲慢、暴食、怠惰、色欲、ヴィンセントと数人がいる程度だ。

 それにも関わらずこの唸り声……


 俺が向かう先になにがあるんだ?

 そこに、アシュリーは……

 ヴィーはいいるんだよな?

 俺たち双子はいつも一緒だった。

 これからも……

 なあ、アシュリーも一緒にいるんだよな?


「僕に勝てると思っているの?」


 無邪気な声だ。

 その声に謁見の間への出入り口へ視線が集まる。

 

 なにも知らない子供が勝ちを確信している無邪気さがそこにあった。

 この場に滾っていた闘志が根こそぎ奪われていく狂気を含み、先程までの唸り声は水を打ったように消えていく。

 この広い謁見の間にアシュリーが悠然と歩いてくる。

 あんなに堂々としたアシュリーははじめて見た。

 ヴィーが小さな悲鳴を飲み込む。

 ずるずると赤黒い血の跡を残しながら両手に引きずるのは……


「サタン……マモン……?」


 父様の声が震えている。

 あれは本当にアシュリーなのか?

 姿形はアシュリーだよ。

 あの声だってアシュリーだよ。

 だけど、あんな話し方だったか?

 俺の知っているアシュリーとは違う……


 ――あれは誰だ?


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