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世界の守護者 ―アラン―

 ベルゼブブとルシファーの襲撃で倒れている間になにがあったんだ?

 ヴィーにはなんだかものすげー心配をかけたみたいだし、あの男はレオでいいんだよな?

 いつもより大人なだし、なによりもあの自信に満ち、頼りたいとすがり付きなる雰囲気はなんだ?

 レオってもっと子供っぽかったと思うんだ。

 

 で、なんで俺たちはこんな場末の教会で、しかも魔王の給事で茶会をしているんだ?

 こんな細工の細かい菓子なんてはじめて見たよ。

 どこの宮廷菓子だってんだ。

 出された茶だって高級品だとわかる。

 飲めればなんでもいいと思っていたが、こんな旨いんじゃ他のものなんてもう飲めねえよ。

 子供の頃だってこんなすげーもんなかったと思うんだ。

 魔王達って……金色の魔王ってこんな贅沢してんのか?

 ヴィーは菓子が好きだもんな。

 今の状況なんてそっちのけで旨そうに食って……なあ、俺が倒れている間になにがあったんだよ?


「さあ、まずはなにから話そうかしら?」

 

 白い女は首を傾げ白い髪が揺れ……この真っ黒な肌はなんだ?

 墨のように真っ黒で表情が分かりにくいな。

 見たこともないこの服は動きにくそうに見えるんだが、気にしている素振りはない。

 レヴィアタンを簡単に倒してしまうようなやつを前に誰も警戒しないのか?


「自己紹介も必要よね? わたしはシラユキ。『白の魔女』と呼ばれるこの世界の守護者。『金色の竜』……今は金色の魔王とよばれるロールの守護者ね。ロールは今クリストファーと名乗っていたわね」


 世界の守護者? あぁ、これはヴィーもわかってないな。

 理解できてないのは俺だけじゃない。


「は? 俺も自己紹介するの?」


 シラユキと名乗る女に促されレオは俺たちに向く。

 レオの自己紹介とか今更だよ。

 また、チュウ……なんだっけ、よくわからないこと言うのか。


「今更って感じだが、俺はレオ。シラユキと同じ世界の守護者だ」


 ……それだけ?

 他にも話すことがあるんじゃないのか?

 言葉が足りないのは相変わらずか。


「その、世界の守護者とはなんですの?」


 金色の魔王の守護者とか、レオ達は俺たちの敵なのか?

 俺たちは知らずに、白の書を父様に渡された時から金色の魔王の為に動いていたってことなのか?

 俺たち双子はやっぱり、石を投げられても仕方がないのか?

 なあ、俺はともかくヴィーは違うんだ。

 ヴィーは俺に振り回されているだけで……


「アラン。ちゃんと説明するから泣くなよ」


 やめろ! 俺の頭に乗せたレオの手を払う。

 なんだよ、その子供扱いした顔は。

 この歳で子供扱いされるとは思わなかったし、泣いてねえ。


 レオは茶を一気に飲み干し、目の前の菓子をヴィーの前に置いた。


「なにから話したらいいのか迷うんだが、この世界は『金色の竜』なんだ」


 それはなんだ?

 当たり前のように話すそれが意味わかんねえ。


「この世界を構成するものが竜なんだ。そのわからないって顔されても、そういうもんだと思ってくれ。

 この時が止まった世界で、今はまだそれを説明できるだけの、理解ができる言葉がないんだ。


 竜は大まかに分けて5種いた。

 『金色の竜』ロール。原初の竜ともいう竜の長だ。

 他にいたのは『火竜』アウルム。『水竜』ヴラメーナ。『風竜』クリューソス。『地竜』ザハブ。


 ヴィクトリア、そうだよ、天使だ。

 竜は天使なんだよ、可哀想に……順を追って話すな」


 ベルフェゴールの言っていた可哀想な神の奴隷って、レオも同じ解釈ってことか?


「ロールは世界そのものであり、他の竜はそれを支える大陸といえば解りやすいか?

 で、それを守るのが俺とシラユキだ」


 その悔しそうな、哀しそうな顔はなんだよ。

 俺なんかよりレオの方がよっぽど泣きそうな顔してるじゃないか。


「神は何処からともなく現れ、気がついたらいたんだ。

 俺たちが気がついた時には竜は天使となって神に仕えて……使役されていた。

 神は我が物顔でこの世界にいたんだ。

 あの時は怖かったよ。

 見たこともない亜人種も神と一緒にこの世界にもともといたんだいうように、生活していたし、人々が信仰していたものが悪として排除されていったんだ」


 レオはシラユキに視線を移す。

 この話は神話なのか? それとも創世記? こんな話聞いたことがない。

 

「俺とシラユキがどうにか助けられたのはロールだけだった。

 ロールだけでも助けられなければこの世界は無くなってしまうから……最悪の事態だけは避けられたけど、それでもな。

 神が現れる前まで人々が信仰していたものが幾つもあったんだが、あの時点で7つしか残っていなかった。

 7つの信仰を守る為にロールの眷族として力を与えた。

 それが7体の魔王、傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲」


 ベルゼブブとルシファーが仰々しく頭をさげる。

 信仰ってこいつらただの悪いものって訳じゃないのか。


「――忍耐と勤勉に励み、純潔を守り、謙譲を美徳とし、慈愛を与え、節制のもとに救恤せよ――」


 これって、創世記の最初か最後を締める一文だ。

 どんな子供向けの絵本になっていようが、必ずついてくる。

 意味なんか知らなくても誰でも知って……

 なあ、レオは俺たちを子供扱いしているよな?

 レオのその笑顔ははイタズラが子供に見つかったと嬉しそうに笑う大人と同じじゃないか。


「コレ、聞いたことはあるだろう?

 ロールが守った7つの信仰、7体の魔王がこれなんだ」


 レオの笑顔はすぐに曇る。


「俺たちは神から世界を取り戻す戦いを挑み何度も負けた。

 なにをやっても勝てなくて……何度目かの戦いで神を追い込むまでいったんだ」


 言葉を詰まらせるレオからシラユキが話し出す。


「神を封じることは出来たんです。

 この世界を我が物顔で蹂躙する侵略者たる神。

 この世界を面白おかしく引っ掻き回す独裁者たる神。

 ですが、その為の犠牲も大きく、レオは異世界に飛ばされ、わたしは力を使い果たし、ロールは眠りにつきました。

 レオの記憶を封じたのは異世界で孤独を耐えるのに記憶が邪魔かと思って……力さえ戻ればレオをこちらに呼び戻せますからね」


 レオは腑に落ちない顔してんじゃん。

 それってシラユキが勝手に記憶を奪ったんじゃないか。


「ロールを起こすため、神を倒すため7体の魔王は頑張ってくれましたわ。

 ですが、神もただ封じられただけでなく、魔王を排除するために勇者を作っていたんです。

 全快といかなくても何度か7体の魔王と共に戦ったんですが、あの勇者というものは曲者でしたわ。

 お陰で何度と勇者に辛酸を舐めるはめになったこか……」


 俺たちが信じていた世界が崩れていくような……

 レオの話を信じていのだろうか。

 こんな話、他で話して信じてもらえるようなもでもないし、神が侵略者だの、独裁者だの、いいのかよ。


「勇者アリスはずっとお父様の側にいましたわ。それはやっぱり金色の魔王を倒すためでしたの?」


 子供の頃からずっと側にいたはずだ。

 あの二人は主従関係よりも兄弟に近いものがあると思っていたんだ。


「彼女は他の勇者とは違った。アリスは全てを悟った上で我が王にその身を捧げた」


 全てを悟る?

 ベルゼブブの言葉をそのまま受け止めればアリスは竜や、神の本質を知っていたってことか。

 それを父様は受け入れた? ……狂ってる。


 シラユキが俺の手を取り、俺の手を咥える。

 なにをしているんだ?

 レオが慌ててシラユキの肩を引く。


「シラユキ、なにをする気だ?」


 レオはなにをそんに慌ているんだ?


「双子の竜化を促さなくては。竜の力が必要なのはレオもわかって……」


「駄目だ!」


 そんな怒鳴るようなことなのか?

 まず、その竜化ってなんだよ。

 俺たちに説明するんだろう。

 二人でわかったように話を進めるなよ。 


「シラユキはアランになにをするおつもりですか? 事によっては」


 俺もだけど、ヴィーは俺のためならなんでもやるからな。

 だけど、シラユキは俺を傷つけようとしているようには感じない。

 空いている手でヴィーの手を取る。


「アランの中にある竜の力を解放するだけ。アランの次はあなたよ」


「駄目だ!!」


 レオの出す音に驚いた。

 レオが激しくテーブルを叩くせいでテーブルの上にあった茶器が落ちた。


「そんなことをすればシラユキが……」


 レオは今にも泣きそうだけど、シラユキはなにか危険を侵そうとしているのか?

 なあ、目の前で誰かが泣くのは嫌なんだが……


「幾度負ければいいの? もう、嫌なのよ。この世界は神のものなんかじゃない!」


 なんてまっすぐ迷いのない目をするんだ。 


「シラユキがいない世界なんて……」


 ……俺たちはこのまま流れに身を任せてもいいのか?

 本当に神はレオ達のいうようなものなのか?


「自分の役割を忘れないで」


「痛ッ!?」


 なにをするんだよ?

 噛み付かれた手の感覚が鈍くなっていく。

 目の前が霞み……体の奥になにかあるようなこの感覚はなんだろう?


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