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強制召喚―レオ―

 なにが起こっているんだ?

 血に染まったアランさんが倒れていて、自殺するんじゃないかとヴィクトリアさんにはビックリさせられてさ。

 なによりも驚いたのは雪村さんだよ。

 これって、雪村さんもこっちの世界に召喚されてきたってことでしょ?

 アランさんを知っていた時点でこっちの世界の関係者だとは思っていたけどね。


「強制召喚!? ベルゼブブあなた……」


 睨み付けるようにベルゼブブと呼ぶ男に視線を向ける。

 雪村さんがあんなに怖い表情を浮かべることがあるのかと驚いた。

 だって、学校での雪村さんってなにも喋らないけど、いつも柔和な表情を浮かべている、そんな印象があった。


「アラン? あなたたちアランの……」


 声が震えている?

 え? 俺なにもしていないよ?

 刺すような視線を俺に向け


「レオ! 記憶が戻らないことは仕方がないけど、わたしを呼ぶためにアランを犠牲にするなんて」


 えっと、待って。

 それって俺に怒ってる?

 俺がここに召喚されたときにはもう、アランさんは……

 

「雪村さん? あの、待って俺だって状況が掴めてないんだ」


 なにが可笑しいんだ?

 慌てる俺を尻目にルシファーは笑いだした。

 傲慢は傲慢らしく高笑いをあげ


「レオ様、シラユキ様。お久し振りにございます」


 挨拶をしながらヴィクトリアさんの前にアランさんを横たえる。

 アランさんの静かな寝息にヴィクトリアさんが大粒の涙を流し、抱きつく。

 ヴィクトリアさんにはアランさんしかいないんだ。

 アシュリーとかマリアさんじゃ駄目なんだ。

 だって、この双子を見ていればわかるだろう。

 いつだって二人で差さえあっている。


「王子と姫から血はお借り致しましたがそれだけ。シラユキ様に叱られるようなことはなにもしてはおりません」


 ベルゼブブの言い訳を雪村さんは黙って聞いていた。

 ヴィクトリアさんの血を吸った白の書が雪村さんになるなんて俺もビックリしたよ。

 これから毎度あの方法で召喚となるとヴィクトリアさんの体が心配になる……もしかして、俺の召喚もそうやって?


「その強制召喚が問題です。これじゃあわたしたちは力を取り戻せない」


 力? それって、やっぱ雪村さんはこっちの世界のことに詳しいのか?

 俺なんかなんにもわからないままこっちの世界に召喚されているんだ。

 あの黒い焔だって俺の力だと理解はしても使い方もわからない。

 どうして二人はこんな俺を召喚していたんだよ。

 この世界を知っている雪村さんの方が適任じゃないか。


「もう、時間がないのです。今やらなければこれまで通り……」


 時間? なあ俺にもわかるように話してくれよ。


「それじゃあ神が?」


 神? それって前に雪村さんが俺に聞いてきた神様のこと?

 一体なんの話なんだよ。

 ヴィクトリアさんはアランにしがみついて泣くばかりで話が出来そうにないし、雪村さんたち三人は三人だけの話をしてさ。

 俺はどうしたらいいの?

 本当にこの状況はなんだよ。


「強制召喚のためにわたしはこの人形の姿のままだし、レオなんて記憶すら戻っていないわ」


 なんだよ? だから記憶って、俺が思い出さなきゃいけないことってなんだよ。


「このままじゃ神に対抗なんてできない……」


 雪村さんのアランさんとヴィクトリアさんの双子に向ける視線は優しい。

 なんというのか、幼い子供に向けるような微笑ましく愛しそうな視線だ。


「せめて二人の竜化は待ちたかった」


 俺に期待できないって……その小さな呟き聞こえてるよ?

 俺と目が合った彼女は


「わたしたちの力よりもこの二人の力の方が強力なのよ。わたしたちは何度も神に負けているしね」


 自嘲気味に笑う雪村さんは寂しそうに見えた。

 わたしたちってことはそれに俺も含まれているんだよな?

 記憶が、思い出せば俺はこの蚊帳の外な状況をだっせるのか。

 雪村さんにそんな顔をさせているのは俺なんだよな。


「俺、どうしたら思い出せるんだ? このままじゃずっと、雪村さんにそんな顔をさせたまま……」 


 俺の中の黒いライオンが寂しそうにしている。

 なあ、お前と俺がこうして別々の感情になっているのも俺が思い出せないからなんだろう。


 雪村さんはじっと俺を見つめ


「レオの記憶を封じたのはわたしなの」


 なんの為に?

 えっと、記憶って封印できるものなの?

 え……なんか余計に混乱するんだけど。


「ごめんなさい。記憶を封じたせいで余計なことを悩ませてしまったわね」


 なんか、顔が近いんですけど。

  

「今、それを解くわね」


 え…………?

 まさかさ、こんなことされるとは思わなかった。

 だって……ねえ?

 こういうことに俺はまだまだ縁がないと思っていたんだ。

 こっちの世界の関係者とか関係なく、雪村さんは学校で話題の美少女だし。

 やっぱ俺も男だから俺からするものだと思って……いや、されて嬉しいんだけど。

 初めてのキスに男が幻想を抱いていたって別にいいだろう。


 ――黒いライオンが咆哮をあげる。

 

 あ……

 これって、これは……溢れてくるこれは俺の


 俺は『黒焔の獅子』この世界の守護者だ。


 『白の魔女』と呼ばれるシラユキと一緒にこの世界を守る役目があるんだ。


 『金色の竜』は、ロールは今どこにいるんだ?

 ロールを守らなきゃこの世界は無くなってしまう。


 神のせいで俺たちは――


 俺の黒い焔と雪村さ……シラユキの白い花びらと雪の結晶が混じり合うように俺たち二人を包み込む。

 離れようとするシラユキを抱き留める。

 もう離したくない。

 だってやっと……俺は向こうの世界でずっと一人だったんだ。

 ロールを守れなかった俺はもうこの世界に必要とされてないんだと、あの世界で一人朽ちて逝くのだと思っていたんだ。

 シラユキの封印を受け入れたのだって最近だったんだよ。

 だって大事なものを忘れたくはないだろう。

 俺なんか必要ないとずっと拒んでいた封印を、さ。

 俺、弱いから……

 

「ごめん。シラユキ」


 キツく抱き締めるとシラユキも俺に応え、抱き締め返す。

 首を横に振り、俺に顔を埋めて……泣いているのか?

 そうだ。

 こんな人形の姿はシラユキ本来の姿じゃない。

 シラユキはもっと美しいんだ。

 黒い焔でシラユキを包む。

 人形の表層が燃えていく。

 黒い焔の中でシラユキは泣いている。

 もう泣かないでくれ。

 俺はシラユキの涙をもう見たくない。

 焔のが消え、シラユキの花と雪が消える。


 俺たちは本来の姿に戻った。


 俺はそんなに変わらないんだけど、この黒い目も黒い短い髪もさ、変わったといえばなんだ?

 この着なれた格好は懐かしくもあり動きやすい。

 向こうの世界で高校を選ぶ基準が学ランだったのもこの昔からの格好を忘れられなかったんだな。

 なんだか気恥ずかしいや……


 シラユキは、やっぱりこっちの方が断然美しい。

 名の通りに真っ白な穢れのない長い髪、優しく照らす月のような灰碧の瞳、この真っ白な振袖を着こなせるのはシラユキしかいないよ。

 他の誰であろうと白が似合うのはシラユキだけだ。

 対比のように真っ黒な肌を引き立てるのもこの白い振袖だけだ。

 

「シラユキ、ごめん。俺が弱いばかりに……」


「それはお互い様よ。わたしはレオが弱いなんて思ったことないわ。ずっと一人にしてごめんなさい」


 あとはロールに会って……ベルゼブブとルシファーは畏まったように膝をついていた。

 ああ、こいつらだ。

 今までよくやってくれた。

 この世界と関わりを持てなくなっていた俺の代わりに『金色の竜』を守ってくれていたんだ。

 労るだけじゃ足りないよな。


「レオ様におかれましては我ら7体、数々のご無礼大変失礼致しました」


 いや、俺そんな無礼なんて感じてないしさ、寧ろこっちが謝らなきゃいけないんじゃないか?

 落ち着きを取り戻しつつあるヴィクトリアもこっちの様子にビックリしているみたいだし。

 俺としては


「なにが、起こってますの……?」


 状況の整理が必要じゃないかと思うんだ。


 アランの様子も心配だ。

 幾ら血が必要だかと首を切るやつがいるかよ。

 これは血が足りないというより魔力切れを起こしているな。

 だけど、アランが魔力切れを起こすか?

 俺の召喚に必要な魔力なんて微々たるものだし、アランが使う魔術なんて殆ど初歩の域を出ない簡単なものだったはず。

 

「なあ、ヴィクトリア。ここ最近で大量に魔力を使うようなことあったか?」


 首を横に振り答え……って、俺の変化に戸惑っているのか。

 俺は俺に変わりはないんだが……

 そんなに驚いた顔をするなよ。

 俺にとってアランとヴィクトリアは子供みたいなものなんだ。

 親戚のおじさんにでもなった気分ってやつ?

 とりあえずアランを燃やして


「レオ!! なにをなさいますの!?」


 ヴィクトリアはいい反応をするな。

 記憶が曖昧だったにも関わらず俺の焔はヴィクトリアの傷をちゃんと癒せていただろう。

 黒い焔がアランの中に収束していく。


「趣味が悪いわ……」


 シラユキさん、それちゃんと聞こえてるからね。

 これはシラユキがやってもいいことなんだからね?


「アラン! アラン!」


 ヴィクトリアの声にアランが反応を示した。

 これなら大丈夫だ。

 だけど、なんでアランの魔力か枯渇寸前までいくんだ?

 魔力をきらしたら最悪死ぬことだってあるんだ。


「ヴィー……?」


 まだ、寝足りそうな顔をしているが、これだけ

ヴィクトリアが泣いているんだ。

 もう寝ているわけにはいかないだろう。

 泣き付くヴィクトリアをしっかりと支えられているようだし、体の方はなんともなさそうだ。


「アラン。俺はやっと自分のこと、アランの聞きたかったことを話せるよ」


 俺の様子が変わった事か、俺たちがここにいる事かわからないが、そんなに驚くなよ。

 ヴィクトリアに聞いても無駄だ。

 泣いてばかりで状況を理解していないのは同じだ。


 起きたばかりで悪いんだが、俺も今を整理したいんだ。

 思い出したといってもまだ、ぼーっとしている部分がある。


 ルシファーに促された先を見れば、どこから出したのか、テーブルセットが用意されていた。

 人数分の椅子に人数分の茶器、ご丁寧にテーブルの上にはどこぞの貴族だよと言いたくなるような華やかな菓子が並べられている。

 もう、見てるだけで気持ち悪くなりそうだ。

 そんなに甘そうなもので揃えなくてもいいじゃないか。

 煎餅に緑茶じゃ駄目なのかよ。


 いつの間にやらシラユキはそこでベルゼブブに給事をさせている。

 またそれが絵になっているんだ。

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