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僕に任せて欲しい―アシュリー―

「あ――! 逃げられた!」


 くそっ……

 また、僕は負けたのか。

 今回は目の前で誰も死なせすに済んだと喜べと?

 あ――ムカつく!

 喜べるかよっ。

 こんなソファーにいくら剣を打ち込んでも気持ちは晴れない。

 晴れるわけがない。

 あのベルフェゴールに一度、大敗しているんだ。

 そう何度もまけられるかっ!

 僕は生きてんだよ。

 ベルフェゴールになんか殺されてないし。

 殺させれてたまるかよ。

 それこそ勇者として情けない。

 僕は勇者やってんだ。

 ここで倒せたら、せめて一矢報いれたらと思ったのに!

 やらなきゃいけなかったのに……

 逃げるとは思わなかった。

 絶対僕を殺しに掛かってくると思ったのに、なんでアイツ逃げるんだよ。

 あ――ムカつく!

 怠惰? そんなのこっちに関係ないんだ。

 僕は……

 なんなんだよアイツ、僕を殺したいはずだろう。

 殺せなくてもいいのかよ。

 僕が憎くて仕方ないはずなのに。

 意味わかんない。

 怖くて仕方がないと、いつまでも震えていられない。

 もう僕は父さんの庇護下にある子供じゃないんだ。

 勇者なんだよ。

 傀儡の……母さんの代わりじゃないんだ。

 僕は僕なんだ。

 僕が勇者なんだ。

 たかだか怠惰の魔王に負けてなんかいられない。

 あんな雑魚、逃がすとか……情けないな。

 僕は金色の魔王を倒さなきゃいけないんだから。

 この世界は僕の……


 あ……


 青い目が僕を静かに見ている。

 荒れていた心が凪いでいく。

 肩に置かれた手に僕はなんだか恥ずかしくて……

 今さらだけど、こんな醜態、見せたくなかった。

 見られたくなかった。

 ダメだな、僕。

 お姫様、そんな心配そうにしないで。

 僕は大丈夫だ。

 僕は守れたんだ。

 誰も死ななかった。

 今は、これでよかったんだ。

 

 「アシュリー、怪我は大丈夫ですの? 助けていただいてなんですが、無茶はしないでください」


 怪我? 僕、今怪我なんてしてないけど……お姫様は心配性だな。

 王子様に対してはもちろんだけど、こんな僕にまで心配してくれるなんて。

 嬉しいな。

 強くて、慈悲深くて、心配性過ぎるとこはアレだけど。

 本当にお姫様が聖女やればいいのに。

 なんでそんなに嫌なんだろう?

 聖女なればいいことあるだろう。

 僕が勇者を嫌がっていたみたいな理由かな?

 そんな後ろ向きな理由だったらこの人はきっと金色の魔王を倒そうとなんて思わないだろうな。

 お姫様ほど聖女に向く人はいないでしょ。

 王子様とお姫様二人で、ね?

 そうしたら金色の魔王の子なんてもう呼ばれなくなるでしょ。


「アシュリー、元気そうでよかった」


 は? 元気そうって……

 それは僕の……

 笑顔が眩しいよ。


「なんだよ? どうしたんだ?」


 レオの僕を労る笑顔が戸惑いに変わる。

 だって……だって……だって、レオが生きてる。

 レオは僕を引き剥がそうとするけど、レオが生きてるって確かめたくて、レオの無事が嬉しくて離れたくない。

 抱きついてでもレオが生きてると感じたい。

 だって、レオが生きてたんだ。


「泣くなよ。アシュリーはすぐ泣くんだから」


 仕方がないだろう。

 レオを死なせてしまったんじゃないかと……

 そんなため息つかなくても……父さんみたいに頭をポンポンされたら誰だって……

 僕だって泣きたいわけじゃないんだ。

 勝手に涙が出てくるんだ。


「勇者がそんな泣き虫でいいのかよ」


 いいんだよ。

 だって、僕は僕だもん。

 だって、みんな僕の前で死んで逝くんだ……

 だって、生きていたことが本当に嬉しくて。

 信じていたよ。

 だけど、ベルフェゴールの言葉しかないんだもん。

 レオが『黒焔の獅子』だとしても、王子様とお姫様の召喚獣でも、信じていたって、心配なものは心配だったんだ。

 ここ最近で一番嬉しい。

 ……僕は少しでも強くなれたと思ってもいいのかな?

 僕は守れたんだよね?


「アシュリー、顔がくしゃくしゃですわ」


 笑わないでよ。

 恥ずかしくなってくるな。


「お姫様、そんなに笑わないで……痛っ」


 離れるにしても、顔を押さなくてもいいだろう。

 さっきまで優しかったのに、なんでそんな乱暴に離れるんだよ。

 そんなに嫌だった?

 それは傷つくなあ。


「アシュリーの涙と鼻水でグチャグチャだよ」


 あ。それはごめんだ。

 服を引っ張り僕が汚した箇所を主張してくる。

 だけど、服なんて洗えばいいだけだろう。

 そんな……


 笑って仕方がないななんて言いながら服を脱ぐ。

 なんだ、怒ってないじゃん。


「ねえ、お姫様。どうして聖女やらないんですか?」


 穏やかに笑っていたお姫様の顔が一瞬陰り


「わたくしに聖女をしている時間はありませんわ」


 時間? 聖女に時間なんて関係ないでしょ?

 ただの称号じゃないのかな?


「お姫様ほど聖女に向く人はいないと思うんですけど」


 そうだよ。

 他に向く人なんかいないよ。

 絶対にお姫様の方がいいって


「聖女などと教会のシンボルを勤める暇があるなら、わたくしは早く金色の魔王を倒しに参りますわ」


 なんだかなあ……

 金色の魔王は僕に任せてくれればいいのに。

 お姫様が聖女なら世界はもっと


「神様が俺たちになにをしてくれたんだ?」


 煌めく金の髪から覗く青い目は鋭かった。

 あんな鋭利な刃物のような目、はじめてだ。

 前に漏らした言葉と雰囲気が違う。

 感情を隠すような微笑みで


「わたくしたちのように信仰心のないものが聖女など、それこそ神様に失礼ですわ」


 そんなこと、気にしないと


「この話は終わりだ。俺たち双子は、ヴィーは聖女にならない」


 青い目はどこまでもまっすぐだ。


「悪いけど、レオ」


 無理矢理レオの腕を引く王子様は怖い顔をしていた。

 レオはなにかやったのか?


「痛っ……アランさん? ちょ……」


 戸惑うレオを気にする様子もなく、腕を掴み引きずって行く。

 なんだか、取り残された気分だ。

 ほら、当然のようにお姫様も一緒に行く。

 僕だけ…… 

 



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