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神への侮辱 ―アラン―

 ヴィーのせいで俺までとばっちりだ。

 神だって俺みたいに信仰心のないやつよりガッツリと信じきっているやつの方がいいんじゃないのか?

 うん臭いんだよ。

 この世界に生きる者を幸せに導く存在とか、本当にそんな世界だったら誰も泣かないだろう。

 ヴィーがいう俺の趣味……趣味じゃないが助けが必要なやつなんていないはずだ。

 レイラ様はすっかり乗り気じゃないか。

 全く余計なことをしてくれた。


 広げた教典をヴィーは覗き込んできた。

 何度となく教典を読んだんだが、俺は神を信じられねえし、盲目的に信じきっているは頭のおかしなやつじゃないかと思っているんだ。

 例えばこの『神は地上に住まうものものたちを幸福へと導くために、地上へ降り立った』

 それって神がいなきゃなにも出来ないのかよって思うんだ。


「アラン、レオを呼びましょう。アシュリーが言うには天使に会っているかもしれませんわ」


 レオが天使に?

 もう何百年と天使は姿を現していないっていうじゃないか。

 それをレオが会ったかもしれないって……

 一大事じゃないのか?


「天使!? それは本当ですか?」


 レイラ様だって目を丸くし身を乗り出してくる。

 レオに聞けばわかることだ。


 いつ見てもレオの黒い獅子の姿は圧巻だ。

 あんなに格好いいのになんでこんな頼りない姿に変わるんだ?

 呼び出したレオは教典を散乱させ、その上に鎮座していた。

 靴を手に呆然と


「え? ……もうですか? 今回は一息入れる間もないんだ」 


 なにをそんに驚いているんだ?

 召喚したときに驚かずにいることの方が希だが、毎度毎度慣れないのだろうか。

 レオは机から降りながら召喚の感覚が短いとかぶつくさ呟いていた。

 レイラ様は挨拶もそこそこに早速レオに天使について尋ねていた。


「天使? 知りませんよ」


 あっさりと、きっぱりと言った。

 知らないはずがないだろう。

 あの時ベルフェゴールは天使に会いに行くとはっきり言ったんだ。

 レオと別れた後で会いに行った?

 それじゃあレオとアシュリーを連れて行った意味がまるでないじゃないか。


「アシュリーはレオなら天使に会っているかもと言っていましたのよ」


 ヴィーに促されるように窓に目を向け、窓枠に器用に腰を掛け危うげに船を漕ぐアシュリーに安堵のため息をこぼした。


「アシュリー無事だったんですね!? よかった……本当に心配だった」


 緊張気味だった表情を笑顔に変えていた。

 アシュリーとレオは本当に仲がいいからな。


「天使には会ってないです。天使っているんですか?」


 ベルフェゴールが言うことが本当ならいるんだろうな。

 この数百年その姿を確認されていないんだ。

 俺は本当にいるのか怪しいと思っていた。

 だけど、レオは実在するし、なぁ。


「ベルフェゴールに連れていかれた場所にはデカい血溜まりがあって……それだけでした」


 血溜まり?

 それは天使か? いいや、最近惨殺されたのはここの騎士たちだ。

 そのことを言っているのだろうか?


「この城の地下の陰気な場所で、大きくて豪華絢爛な扉がある部屋でしたけど」


 レイラ様は首を傾げ


「地下に豪華絢爛なというような形容詞がつく場所はありません」


 ベルフェゴールの暴れた部屋も普通の部屋だったはずだ。 


「教会の方ではありませんの?」


 この城はどちらかといえば地味な作りだ。

 豪華絢爛といば教会の方だろう。

 だけど、地下に豪華絢爛な場所を作る意味なんてあるのか?

 派手な建物なんて権威の象徴以外になにかあるんだ。

 レオは近くにあった椅子に腰を落ち着かせ靴を履く。


「城って言っていたと思うんだけどな」


 レオの世界では半年の時間が過ぎたと言っていたから記憶が曖昧なのだろう。

 大事なことなんだ。

 しっかりしてくれよ。


「教皇としては天使様の話はぜひに聞きたかったです。神の意向を届け下さるのも天使様だし」


 落胆を隠そうともしないレイラ様にヴィーは


「天使とは神の奴隷のようなものですの?」


 それは俺も思っていた。


 実際に教典に記されている天使の役割として


――神の世話をし神の機嫌を伺う――


 という一文があるんだ。


「なんということをいうんですか!?」


 ああ、インク壺を倒しちゃったよ。

 ここに持ってきた教典汚れちゃまずいんじゃないの。

 レイラ様は机の上のインク壺を倒したことも気にせず


「天使様は神に仕えることを至上の喜びとされているのですよ! それを奴隷などと……」


「それなら金色の天使はどうして神に反旗を翻したんだ?」


 レオのいつもと違う静かな口調にレイラ様は一瞬押し黙り


「それは、母たる神に成り代わろうと」


 レイラ様は激昂のまま


「金色の天使は悪なのです! 絶対的な悪。神に逆らう愚か者なのです! そうでなければ金色の魔王になどなることはなかったはずです」

 

 そのせいで俺たちは……

 あれ、父様は元々天使だった?

 人間だよな?

 じゃあ俺たちも……?

 はっ、そんなわけねえな。

 そもそもレオは教典に記されていることを知っているんだよな?

 神話の時代よりも古い創世記の聖獣なんだ。

 寧ろ生き字引じゃないのか?

 だけど、レオだしな……

 レオはなにを知っていてなにを知らないんだ?

 レオは謎だ。


「ヴィクトリア、あなたは聖女となるのですよ。神に対して信仰の念が足りないですわ!」


 教皇のレイラ様を怒らせて、ヴィーも馬鹿だな。

 溢れたインクから難を逃れた教典をまとめる。


「アランもです!」


 ヴィーに向いていたレイラ様はこちらを睨み

 は?

 俺までとばっちりだ!


「先程から黙って教典を見ていますけど、きちんと理解しているんですか?」


 理解って、こんなものただの妄想だろう。

 神や天使が存在したからって俺たちを幸せにしてくれないし、救ってくれるわけねえ。

 赤の他人じゃないか。

 何が幸せなのか自分で決めるし、神になんか助けを求めたりしない。

 俺の幸せは……


「神への祈りが足りないのではありませんか? 金色の魔王はともかく、あなた達が蔑まれるのは信仰が足りないからですわ」


 信仰や祈りでだけで何が変わるんだよ。

 あ――馬鹿じゃねえの。

 溢れたインクは……俺が片付けなくてもいいだろう。

 教典を抱えヴィーとレオを部屋の外へ促した。


「お待ちなさい。話しはまだ済んでません」


 自分で溢したインクに手を乗せ、不快そうに慌てて手を引いた。


「信仰がどうのって話しは俺たちには不要だ。そんなことで金色の魔王が倒せるならいくらでも祈ってやる」


 レイラ様は怯み、それでも俺たちをしっかりと見据え


「それは神への侮辱と捉えますよ」


 声が震えてやがる。

 ……なんでかな? 俺は無条件で神様を信じているやつが苦手だ。

 金色の魔王を倒すという目的がなければこの国に寄り付こうと思わない。


「それで構わないし、それじゃあ聖人聖女がどうのといった話しもなしな」


「それは……」


 なにか言いたげにしているレイラ様を残して俺たちは部屋を出た。

 あのままレイラ様と話していてもどうしようもないと思ったんだ。

 俺たちは天使のことが知りたいんだ。

 ベルフェゴールが言っていた通りなら本当に天使はいるし、白の書の解析にきっと役に立つ。

 金色の魔王をたおせるならさ、俺はなんにでもなってやる。

 聖職者でも罪人でもなんだっていいんだ。

 でも、レイラ様の聖人聖女はダメだ。

 教会のただのシンボルになっている暇なんてないし、お祈りだけで金色の魔王を倒せるわけがない。

 夢の世界だけで生きていくには俺は、俺たちは現実を思い知らされてんだ。


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