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笑顔の礼―アラン―

 アシュリーは無事だろうか?

 旅の中で聖教皇国でなにか変わったことがあるって話しを聞かないから大丈夫だとは思うんだ。

 それでも、連れていった相手が怠惰の魔王ベルフェゴールだ。

 怠惰と言うだけあって表舞台に殆ど出てこないが、歴史家の見解は7体の魔王の中で一番やっかいな相手だと認識されているんだ。

 神話の中でも怠惰と天使は戦う描写が多い。

 実際、怠惰の魔王戦が起こるときは天使がベルフェゴールに負け、消滅しているという。

 あの……体の奥のもっと奥から沸いてくる恐怖を思えば納得だ。

 他の魔王にだって恐怖は感じるけど、非じゃないんだ。

 一緒に対峙したはずのレオは恐怖を感じなかった、ルシファーやアスモデウスの方が怖かったっておかしいだろう?

 アシュリーだって怖がっていたじゃないか。

 『黒焔の獅子』は聖獣となると感じ方も違うのだろうか?

 いいや、レオが変なんじゃないのか?

 だって明らかに変なやつだろう。

 俺がレオの世界に行った時だって学友の話がわからないとか、人としておかしいんだって。


 悲鳴が聞こえた。


 どこだ?

 ああ、向こうだ。

 ヴィーたちに声を掛けずに悲鳴の聞こえた方へ馬を急がせた。

 

「アラン!?」


 俺はフードを目深に直しいつでも攻撃を仕掛けられるように構える。

 今にも村娘に食い付きそうな魔物に炎を投げつける。

 炎は致命傷にならず、魔物は声をあげた。

 後ろからヴィーの氷が魔物を狙い、魔物が怯んだ隙に村娘を掬うように拾い上げた。


「ああ! お花が……」


「黙ってろ。舌を噛むぞ」


 村娘は黙ってしがみついた。

 素直なようで安心だ。

 馬を少し走らせ、魔物の心配がない場所で一度降ろした。


「乱暴にして悪かったな」


 魔物が怖かったのか、馬に乗り慣れていないせいか彼女は少し青い顔をしていた。

 もしかして……フードは外れてないが、俺の顔をしっかりと見たのか?


「いいえ……ありがとうございます」


 礼をしながらも彼女の顔は浮かばれない。

 そんなに怖かったのか?

 森の中に魔物が出ることくらいわかっていただろうに。


「どうしたの?」


 人畜無害な顔をしてレオが彼女に問えば


「明日の姉の結婚のお祝いにと摘んだお花が……」


 今にも泣きそうな顔をして……そんなに大事なはなだったのか?

 花なんてでかいか小さいか、色が違うだけじゃないのかよ。


「花なんてどれも一緒じゃないのか?」


 ヴィー睨むなよ。

 あ? マリアはともかくなんでレオまでそんなため息をつくんだ!


「あのお花は……嫁百合花って……ひっく……花嫁が髪飾りに……」


 なんで泣くんだよ。

 花の為に泣くなっていうんだ。


「アランどうしますの?」


 俺が悪いのか?

 俺は悲鳴が聞こえたから助けに……なんだよ。

 人助けのなにが悪いんだよ。


「お姉ちゃんに幸せになって……貰いたくて……」


 本格的に泣き出した村娘をレオが必死に慰めていた。

 魔物が出るような森を村娘が一人で歩いていることがおかしいんだ。

 俺を責めたって……そんな責めるような目を向けるな。

 一人で残すわけにもいかないから村まで送っていく。

 ヴィーが俺の人助けを良しとしてないことは知っているよ。

 今さらそんなに睨んだって仕方がないだろう。

 気が付いた時には体が動いているんだ。

 

「アランの趣味にとやかく言う気はありませんけど」


 趣味じゃねえし。


「今は一刻を争うときなんですよ。それに、人助けをしてよかったことなんて今まで……」


 そこから先はなにも言うな。

 人助け……誰かの為になんて思って行動したことなんか今まで一つもない。

 でも、母様が幼い頃に言っていたことがあるんだ。

 泣いている誰かを助けられるような人になりなさいって。

 その言葉だけは忘れたくないんだ。



「セアラを助けて頂き本当にありがとうございます」


 村娘セアラの家族総出でお礼を言われるとは思わなかった。

 夕暮れに差し掛かっていたこともあり一晩の宿をもらえることになった。

 ほら、たまにはいいこともあるじゃないか。

 ずっと野宿が続いていたんだ。

 屋根のあるとこで寝られるなんて最高だ。

 聖獣の癖にガキ臭いレオなんか風呂まで借りてさっぱりとした顔しているんだ。

 風呂までって図々しくないか?


「皆さん必要なものがあったら仰って下さいね」


 セアラの姉のルビーは気立てがよく、レオの図々しいわがままも聞いてくれている。

 本当に風呂は図々しいと思う。

 レオの世界は便利なものに溢れていたせいか、風呂には毎日入るんだと。

 どこぞの王様かよ、と言いたくなるね。

 風呂が贅沢品だと知ったレオの顔は笑えたな。


「ルビーさんは明日ご結婚されるんですよね? おめでとうございます」


 ヴィーの祝辞をルビーは照れ恥ずかしそうに礼をする。


「家の中が浮き足だっていて落ち着かないとは思いますけど、ゆっくり休んでください。大事な妹を助けて頂いたんです。これくらいじゃ足りませんけど」


 セアラの家族は俺たちに十分良くしてくれている。

 こんな大事な時に邪魔をしてしまっている俺たちの方が迷惑をかけて悪いよな。

 特にレオ!

 旅慣れていないっていうから仕方がないのか?


 夜風に当たりたいと思い部屋の外にいればセアラがどこかに行こうとしている姿を見つけた。

 こんな時間になにをしてるんだ?

 篭を持って、男の格好までしてなにをしてんだ?

 俺、夜目は利くんだ。

 そんな怪しい格好したやつ見逃すわけないだろう。


「セアラ、なにしてんだ?」


 見つかると思っていなかったのかセアラは体をびくりとさせ篭を落とすまいと抱き締めた。


「アランさんこそ……」


 こんな時間に村から出て行こうとするやつを見つけたら声掛けるよな。


「セアラが見えたから。どこに行くんだ? こんな遅い時間に外は危険だろう」


 セアラは言いにくそうに俯き、俺を見ては俯いた。

 言いたいことがあればはっきり言え。

 こんな風にもじもじされるのは面倒なんだが……


「昼間の、お花」


 え? なんだボソッと聞き取れない。


「嫁百合花を摘みに行きたいんです」


 なに馬鹿なこと言ってるんだ?

 こんな時間に女が一人歩きしているだけでも問題だっていうのに。

 魔物が出る森に一人で行くなっていうのに。

 こいつ、馬鹿か?


「お姉ちゃん、嫁百合花を頭に飾ったお嫁さんになることが夢だったんです。その夢私が叶えてあげたくて……」


 たかだか花の為に危険を侵すようなことなのか?


「いつも優しくて自分のことよりも私のことばかり優先するお姉ちゃんだから絶対に幸せになってもらいたいんです!」


 こいつそんなにお姉ちゃんが好きなのか。

 だからって一人で無茶するもんじゃないだろう。


「セアラに何かあったらルビーは幸せになれないんじゃないか?」


 なんで泣くんだよ。

 俺、悪いやつみたいじゃん。


「……でも」


「でもじゃねえ」


 面倒くせえな……


「それはどこに生えてるんだ?」


 どんな花か分からねえけど、俺なら魔物からは守ってやれる。

 セアラは涙を拭い、笑顔で俺の側について歩いた。


 結構魔物がいるんだけど、こんな中セアラは花を採りに行く気だったのか。

 これじゃあ村を出てすぐに魔物の餌食になっていただろうな。

 魔物が出れば年頃の娘らしく怖がるんだが、魔物がいなければセアラは嬉しそうにして、こんなに警戒心がなくて大丈夫なのか?

 関係のない俺が心配になってくるんだ。

 もしもヴィーがこんな無茶なことするようなら俺……いいや、ヴィーが無茶をしないわけがないか。

 セアラのようにヴィーは俺のことばかりで自分を蔑ろにするし、赤の他人には興味すらないんだ。

 これじゃあ嫁の貰い手なんかないよな。

 エドウィン伯父のとこで無理やりにでも結婚相手を探した方がよかったか?

 あ? 婚約者と紹介された名前の忘れたあの男は絶対にダメだ。

 仮に、仮になにか間違いがあってヴィーがあの男を選んだとしても絶対に認めない!

 認める訳がない。


「ここです! よかった。まだたくさんある」


 セアラはピンクと白の花を篭一杯に摘んだ。

 なんだかやたらと甘い香りの花だな。

 こんだけ香りが強いと逆に臭いくらいだ。

 セアラはいい匂いだと嬉しそうに嗅いでいるんだ。

 信じられねえ……

 姉の為に危険を顧みず花を採りに行くなんて根性のある娘だよな。

 それでもこんな無茶するもんじゃないし、させたくないね。


「アランさん。ありがとうございました。お陰でお姉ちゃんの夢を叶えてあげられます!」


 笑顔でお礼を言われるって気持ちがいいな。


 ――金色の魔王の子――


 誰かを助けて、石を投げられる。

 あの石は心を抉っていくようで痛かったな。

 旅の中で武勲を挙げるようになって、国の中枢へ出入りが出来るようになったのは本当に最近だ。

 それでもまだ石は飛んでくる。

 いつか……いや、こんな旅の生活は必ず終わらせて、ヴィーに落ち着いた生活をさせてやるんだ。


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