友人と守りたいもの ―レオ―
馬に乗るのだってはじめてだっていうのに、夜は野宿……
現代っ子にはキツすぎる。
馬ではマリアさんの後ろにしがみつくだけで精一杯だった。
馬ってあんなに早いの?
競馬とかたまにテレビで流れているの見るけど、こんなに早いと思わなかった。
振り落とされるんじゃないかって心配で怖かった。
それにだた乗っているだけで腰がガクガクで立ってられなくなるって誰か教えておけよ。
情けないにも程があるだろう。
マリアさんはいつものニコニコ顔で介抱してくれて、アランさんはいつもの関係ないって顔で体を支えてくれた。
でも、なに?
どうしてヴィクトリアさんはあんなに冷たいの?
あんなに冷ややかな目で見なくてもよくない。
いつもはもう少し優しかったじゃん。
そんな風に冷たくされる覚えがないんだけど。
「マリアさん、俺ヴィクトリアさんになにかしましたっけ?」
お茶の用意をしていたマリアさんは手を止め
「さあなんでしょう? なにか心当たりでもあるんっですか?」
ないです。
ないから聞いたんですけど。
本当になにかしただろうか?
「気になるなら本人に聞けばいだろう」
アランさんはヴィクトリアさんと双子だから、怖いもの知らずだからそう言えるんだ。
そんなアランさんがベルフェゴールに対してあそこまで怖がるとはビックリはしたけど。
あ――本当に俺、ヴィクトリアさんになにかしたのかな?
マジで聞くべきかな?
誰か代わりに聞いてくれないかな?
一人で悶々としても誰かが代わりに聞いてくれる訳じゃないんだ。
「あの、ヴィクトリアさん」
「どうして、レオはアシュリーを守ってくださらなかったんですの?」
ヴィクトリアさんは幹にもたれ、俯いたまま顔をあげようとしない。
俺の顔を見ることも嫌だってこと?
アシュリー守るって……どうやって?
あんなの無理だよ。
アランさんだって太刀打ちできてなかったんだ。
それに俺はただの高校生だよ。
『黒焔の獅子』の意識が全くないって訳じゃない。
認めざるを得ないくらいに俺の中にいるって理解はしているんだ。
でも、『黒焔の獅子』は俺であって俺じゃないと思う。
だって、あの黒い焔を思い通りに動かせないんだ。
守れるものなら守りたいよ。
敵になんか捕まりたくなかった。
怯えていたアシュリーを守りたかったよ。
「ヴィクトリアさんだったら守れたんですか?」
顔をあげたヴィクトリアさんは俺を睨み
「レオは『黒焔の獅子』じゃないですか? 創世の聖獣じゃないですか?」
また、それ?
他にないのかよ。
アランさんがヴィクトリアさんを窘める。
あれ? いつもと逆の風景だ。
「強いあなたが……どうして……」
「何度も言うけど俺はただの高校生なんだ。不思議な力もなにもないんです。」
泣き出したヴィクトリアさんには悪いけど、俺に対する期待が大きすぎると思うんだ。
「アシュリーのことを大事に思っているのは一緒です。こっちの世界での数少ない友人だし」
「……当たり前ですわ」
当たり前って……
「ヴィー。相手は怠惰の魔王ベルフェゴールだ。いくらレオでも……」
アランさんそれは庇ってくれているのか?
まあ、アランさんとアシュリーが怖がるくらいの相手だし。
「そんなんじゃ……金色の魔王のお父様に敵うわけありませんわ!」
アランさんが捕まってしまった時のようにヴィクトリアさんは不安なのだろうか。
ヴィクトリアさんは優しいから人を大切にしているから、アシュリーが心配だから怒っているのかな?
「ヴィーなにを焦っているんだ?」
「焦るに決まっておりますわ。アランは平気ですの? アシュリーは……」
突然響く乾いた音に俺たちは顔を向ける。
手を鳴らしたのはマリアさんだった。
「ヴィクトリア様、もういいでしょう? 皆アシュリー様が心配な気持ちは一緒です」
マリアさんが用意しているのはお茶だけかと思っていたら甘そうなお菓子も用意されていた。
こっちの世界のお菓子ってはじめてだ。
そんなに甘くないといいな。
甘いものは得意じゃないんだ。
ヴィクトリアさんとアランさんは顔を見合せ、俺の名を呼び
「アランだけは絶対に守って下さい」
「ヴィクトリアだけは絶対に守ってくれ」
さすが双子だ。
考えていることは一緒なんだ。
笑うなって方が無理だよ。
だって声まで揃っているんだ。
二人で剥れたってしょうがないだろう。
マリアさんだって笑ってるんだ。
これを笑わずになんていられるかよ。
「マリア。こんな高級品どうしたですか?」
お菓子に気が付いたヴィクトリアさんが嬉しそうにお菓子に手を伸ばした。
やっぱりヴィクトリアさんは女の子だ。
お菓子を手にしたヴィクトリアさんは嬉しそうで、なんか可愛い。
もともと綺麗っていうのもあるが、今さっきまでの怒っているヴィクトリアさんより今のヴィクトリアさんの方が断然いい。
「さあ、レオも」
本当に怒っていたの? って様子で俺の口にお菓子を入れてきた。
うっ……
「なにこれ……めちゃくちゃ甘いんだけど」
マリアさんの用意したお菓子は甘過ぎるくらい甘い。
焼き菓子だし、どこかで見たことあるような感じだったし、大丈夫だと思ったのに……
「レオは甘いものダメなのか?」
アランさんはよく平気だな。
美味しそうに食べてるし。
お茶を飲んでも口の中に甘さが残ってるよ。
「昔から甘いものってなんか苦手なんです」
幼い頃から甘いものが苦手でよく大人に変わっているって言われた。
なにがいいのかわからない。
生クリームのケーキとか飴とかなにが美味しいんだ?
「砂糖は高級品だから苦手なやつは珍しいな」
それじゃあ、あいつの作っていた菓子って……
なんだそれは?
誰が作っていたお菓子?
たまにある変なこの感じ……
こっちの世界にくるとたまにあるよな。
雪村さんやベルフェゴールが言っていた記憶と関係あるのか?