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恐怖―アシュリー―

 レオは?

 レオは大丈夫なの?

 また、僕はレオにすがるだけでなにも出来なかった。

 僕はいつまで弱いままなんだ?


 黒いもやが晴れると僕は聖教皇国の教皇レイラ様の前にいた。

 突然現れた僕にレイラ様は目を丸くされ


「アシュリー……? 一体どこから……」


 どこから?

 そんなこと僕が聞きたい。

 確かベルフェゴールは……そうだ!

 城の地下だ!

 そう言っていた。


「レイラ様、地下だ! 今城の地下に怠惰の魔王ベルフェゴールがいる」


 レイラ様は驚きながらも聖騎士に地下を確認するよう命令した。

 騎士の報告を待つような、のんびりしていられないよ。


「レオが対峙しているんだ早く助けに行かないと」


 ……怖いよ。

 だって怠惰の魔王だよ。

 あんなに怖い魔王ははじめてだ。

 底の知れない、本能から警鐘が鳴り響くような……

 怖い。

 傲慢も色欲も恐ろしいと思ったけど、そんなの比にならない。

 これ以上に例えなんか見つからない。

 地下へ行く道すがら剣や防具を騎士たちは僕に用意してくれた。

 僕は本当に勇者なんだ。

 これは至れり尽くせりっていうのかな?

 怖がっているなんてバレたくないな。


 地下はここまで?

 騎士たちの案内する地下とベルフェゴールに連れられた地下の様子はあきらかに違う。

 だってさっきのあの部屋はもっとカビ臭くて陰気な部屋だった。

 こんなに掃除の行き届いた場所じゃない。


「勇者様。その、魔王は……」


 騎士は聞きにくそうに僕に尋ねてくる。

 僕が聞きたいって。


「地下は、これ以上地下はないの?」


 騎士たちは互いに顔を見合せ


「城に地下は2階層までしか、部屋も一緒に確認したものが全てです」


 それじゃあさっきのあの部屋は?

 レオはどこにいるんだ?

 あ……どうして僕はベルフェゴールの言葉を鵜呑みにしているんだ?

 相手は怠惰の魔王なんだぞ。


 くそっ……


 僕は近くの壁を殴った。

 身体強化なんて掛けているつもりはなかったけど、壁に穴を開けてしまった。

 木造じゃないのに、石で出来た壁に穴が開くってなんだよ。

 ここは地下だよ。

 穴が空くって……

 穴……?

 壁の向こうに空間があった。

 なんで?

 隠し部屋ってこと?

 騎士に穴を開けると宣言し壁を壊した。


 まだ先に、城の地下は深そうだ。

 ここからレオの所まで行けるかな?

 いや、行きたいんだけど……

 穴の中に明かりなんてあるわけもないから真っ暗で、なにがあるか予測もつかない場所だ。

 恐怖が先に立つけど……行かなきゃ。


 ――穴から黒いもやが流れてきた。


 これはベルフェゴールの?

 まさか……だけど、本当にベルフェゴールだったら大変だ!

 恐怖と緊張を思い出す。

 懸命に記憶を押さえ込み


「怠惰の魔王ベルフェゴールがくる! 構えろ!」


 僕の合図に騎士たちは剣を抜いた。

 黒いもやは壁の穴から這い出てくるなり、人の型を型どる。


 眠そうな目はそのままにどこか怒りを含む顔をしたベルフェゴールになった。


 再び恐怖が沸き起こる。

 体が震えてくる。

 押さえろ。

 今ここに居るのは僕を勇者と崇める者達だ。

 僕が怯むわけには……甘えさせてくれる人は居ない。

 息を飲む音が大きく響く。


「ここにいた天使はどうしたんだ?」


 さっきまでの丁寧な口調と違う。

 面倒臭そうな余裕があったさっきまでと違うけど、なにがあったんだ?

 レオはどうしたの?


 ベルフェゴールに怯み、後退りする騎士もいる。

 僕だって今すぐ逃げ出したい。


「レオはどうしたの? まさか……」


「レオ様? お還りになられた」


 ベルフェゴールから黒いもやが沸きだす。


「それよりも、天使はどうしたんだ? おまえ達の大事な天使じゃなかったのか?」


 怖い。

 でも、そんなことを言っていられない。

 ベルフェゴールの言葉を信じるならレオは無事だ。

 そもそもレオは『黒焔の獅子』なんだ。

 心配することが失礼だ。

 ここにレオが居てくれたら、王子様とお姫様が居たらと思わなくもない。

 ここには弱い僕しかいない。

 どうしよう……


 黒いもやが部屋に広がっていく。

 黒いもやに絡み付かれ騎士の中には恐怖でおかしくなっているものもの出てきていた。


「黒いもやに気を付けろ」


 延びてくる黒いもやを魔力を通した剣で斬る。

 やられっぱなしって訳にはいかないんだ。

 魔力を通せばこの黒いもやが斬れるってことは魔術が有効なはずだ。

 騎士たちに魔術を使うように伝え、ベルフェゴールへ斬りかかっていく。

 いとも簡単に僕の剣を防ぎ、弾き飛ばされる。

 身体強化していなければただじゃ済まないだろう、これは。


 魔術の苦手な者から、ベルフェゴールの恐怖に負けた者から倒れていく。

 ベルフェゴールが笑みを浮かべている。

 だけど目だけは笑っていない。

 笑みというにはあまりにも禍々しく歪だ。

 体のそこから呼び起こされる恐怖に支配されそうだ。

 恐怖を振り切るようにベルフェゴールへ攻撃を仕掛け、阻止され、再び向かう。

 

 魔王を前に勇者が負ける訳にはいかないんだ。

 しかもここは聖教皇国の城の中だ。

 人々の希望を受け止める場所だ。

 それを僕は守らなきゃいけないんだ。

 それが王子様とお姫様の手伝いになるんだ。

 負けられない。

 怠惰の魔王を倒した先にはまだまだ他の魔王がいる。

 金色の魔王が鎮座しているんだ。

 父さんの優しい笑顔が浮かぶ。

 女王のはにかんだ笑顔が浮かぶ。

 王子様とお姫様の力強い笑顔が浮かぶ。

 レオのあの笑顔が浮かんだ。

 僕は負けない!

 負けたくない。

 負けられない。


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