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溢れてくる切なさ ―レオ―

「あの、その格好はどうしたんですか?」


 二人はお互いに顔を見合わせ


「気にするな」


 いやいや、気になるでしょう。

 似合ってるとか似合わないとかじゃなくて一体なにがあったのってことを聞いているんだけど。

 聞いたらまずいことなの?


「今わたくしたちは伯父の所でお世話になってますの。そのニヤついた顔、止めてくださいまし」


「聞きたいことがあるんだ。この白の書だが」


 白の書はその名の通り白い革の装丁だ。

 旅の荷物に紛れているにも関わらず装丁は汚れ一つなく真っ白で気高ささえ感じる。

 双子が大切に扱っているからかな。


 俺にこの本について聞きたいって、なにを俺が知っていると思っているんだ?

 俺はこっちの世界のことなんてなにも知らないのに。

 白の書をパラパラと捲ってみるけど、ほら俺の知らない文字だ。

 純然たる日本男子の高校生なんだ。

 日本語で書かれていない文字を読めるわけがないだろう。

 英語だって簡単なものしかわからないし……これは学校教育がきっと悪い!

 俺のせいじゃない! ……と思いたい。


 『白の魔女』――シラユキ――


 なんだろう、この懐かしい名前。

 どうしてかな? これだけは読めた。

 日本語じゃない、見たこともない文字なんだ。

 どうしてこっちの世界の文字を読めるんだ?


「その白の書に書いてある……レオ? なにを泣いているんだ?」


 なんで泣いてんだ、俺?

 なにが悲しいんだろう?

 わからない。


 ――シラユキ――


 これが物凄く気になるんだ。

 名前ってこともわかった。

 大事な……なにが大事なんだろう?


「あ……いや、気にしないで」


「急に泣きだして、気にしないわけがありませんわ。どうしたんですか?」


 そうだよな。

 よっぽど薄情な人か他人じゃなきゃ気になるよね。

 あ――涙が止まらない。

 どうやって止めたらいいんだ?


「わからない。なんで自分が泣いているのかわからないんだ」


「なんだそれは?」


 自分でもわからないんだから仕方がないじゃないないか。


「俺のことはいいから聞きたいことってなんですか?」


 アランさんとヴィクトリアさんは腑に落ちないといった様子だけど、俺のことは本当に放っておいて欲しいんだ。

 なんていうのかな? 今、あまり感情を刺激されたくない。


「この『白の魔女』について教えて欲しいんだ」


 アランさんが白の書にある『白の魔女』――シラユキ――を指差した。

 それこそ俺が聞きたい。

 その名前は誰なんだよ?


「レオ? どうしましたの」


 怪訝そうにヴィクトリアが俺の顔を除き混んでくる。

 嗚咽が漏れる。

 駄目だ。

 この名前、本当になんなんだよ……


「……ごめん。今……俺、本当にすまない……」


 感情の整理が追い付かない……

 ああ、俺の中にいる黒いライオンが悲しいんだ。

 泣いているのはライオンだったんだ。

 なあ、おまえは誰なんだ?

 なにがそんなに悲しいんだ?

 おまえは俺で、俺はおまえなんだよな?

 俺、おまえが泣いている理由がわからないんだ。

 教えてくれないのか?

 これじゃあ、慰めることも出来ないじゃないか。

 ……ごめん、他人事にしちゃダメだよな。


「――。……オ。……レオ!」


「……アランさん?」


 心配そうに揺れる青い目があった。

 もう、止め……そんなに揺すったら気持ち………

 ヴィクトリアさんも心配そうな顔をしていないで止めて。


「もう大丈夫ですか? 泣き止んだと思ったら急に動かなくなるんですもの」


 あんなに切なかった気持ちが落ち着いていた。

 ……大丈夫だ。


 『白の魔女』――シラユキ――


 この名前を見ても今はなんともない。

 あの溢れてくる切なさはなんだろう?

 どうしようもなく止められなかった。


「ごめん。アランさん、このシラユキってわからないです」


「シラユキ? この『白の魔女』シラユキっていうのか?」


 え? なにに驚いているんだ?

 ヴィクトリアさんは俺から白の書を奪うように手元に寄せた。

 なにかをぶつぶつと呟いているけど、それがなにか俺には理解できない。

 白の書のことになると途端にアランさんとヴィクトリアさんは二人だけの世界に入ってしまうんだ。

 そうなると、俺のことは放置だよな。

 この双子からしたらきっと俺のことだけじゃなくて全てが後回しになるんだろうな。


 いつもちゃんと話してくれるマリアさんの姿がないみたいだけどどうしたんだろう?

 ここにアシュリーもいないし。

 今この双子に話しかけても無駄だろうし、どうしょうか?

 勝手に側を離れてもいいかな?

 俺がここにいてもなにもないし。


 二人は本当に没頭しているらしく、俺が部屋から出ても気にも止めていないみたいだ。

 ドアの隙間から覗いて見たんだけど、俺、気にされないのはちょっと寂しいかも。

 別に構ってちゃんってわけじゃないけどさ、寂しいものは寂しい。


「あ! レオだ。久しぶり」


 アシュリーはいつもと同じような格好だ。

 アランさんとヴィクトリアさんみたいにいつもと違うきっちりとした格好だったらどうしょうかと思ったけど、ちょっと安心した。

 なんというか、二人のあの格好は近づき難いっていうのかな?

 本物の王子様とお姫様だと思い知らされるって感じだ。


「王子様とお姫様はいいの?」


 いいんじゃないかな?

 呼び出しておきながら俺のこと放置だし。


「白の書に没頭しているから」


 俺の返事にアシュリーは納得したのか苦笑いを浮かべる。

 アシュリーもあの双子のそれに振り回されているのかな。

 

「じゃあ、レオも買い物に行く? そろそろ聖教皇国に戻ろうかと思って準備をしているんだ」


 戻る?

 えっと……なにかあったんだっけ?


「討伐軍のことずっと放っておいてあったから催促が来ているんだ」


 勇者だからと自嘲するようにいうけど、胸を張ってもいいんじゃないのか。

 勇者って誰もが出来るものじゃないだろう。

 そりゃあ、あの双子の方が勇者っぽいけど、この世界の勇者はアシュリーなんだ。

 親の後を継いだといっても自信を持って自分は勇者だと言っていいと思うんだけど、アシュリーは違うのかな?


 この世界の街ってはじめてちゃんと歩いた。

 いつも戦いの最中にこっちへ呼ばれるし、壊滅状態の町中だったり、逃げ回るばかりの状況でまともに過ごしたことなんてなかった。

 アシュリーが言うにはここも魔族に襲われたりして本来の街の姿じゃないらしいけど、ガイドブックにあるような石造りのしゃれた街だと思う。

 人は笑っているし、子供達は駆け回って元気だし、魔族に襲われた街と、俺は感じなかった。


 あまりにもキョロキョロと、フラフラしているからって俺がはぐれないようにアシュリーは俺に紐を繋ごうとするんだ。

 幾らなんでも酷いと思わないか?

 俺は犬かっていうんだ。


「あんまりフラフラしていると本当にはぐれるから! 観光は構わないけど、迷子は困る」


 だからって紐は……まあ、男同士で手を繋ぐのはもっと嫌だけど。

 何度かこっちの世界の食べ物を食べたけど、どれも美味しかった。

 基本的に食べ物、動植物は同じみたいだ。

 犬や猫はいるし、鳩や馬なんかもいる。

 名前や呼び方も同じものが多くて、異世界とはなんとも都合よく出来ていると感心するよ。

 もちろん見たこともないものだってある。

 牛や豚といった家畜は貴族とかのお金持ちしか食べられないらしい。

 マーゴさんのとこで食べた料理は豪華だったとアシュリーがうっとりと話していたんだ。

 双子と一緒に旅をするようになって豪華なものを口にするようになったとニコニコしてんだ。

 やっぱりあの双子は王子様でお姫様なんだな。

 俺は実感がないんだけどね。


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