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寝不足 ―レオ―

 大事なものを守れず、逆に守られて……情けないと何度も何度も何度も自分を責めた。

 守るための力を持っていたはずなんだ。

 守るために存在していたはずなんだ。

 独り逃げ延びて……あいつ等がどうなっかも知らず、俺はここで朽ちていくのだろうか?

 死など怖いと思ったことはなかった。

 大事なものを守るためなら死んでもよかった。


 ――よかったんだ。


 独りで逃がされて生きてくことになるとは……

 あいつ等は今どうしている?

 あの世界は今どうなっている?


 幾度と巡る季節の中で記憶は薄れていく。

 なにがあったんだっけ?

 どうしてここに独りでいるんだ?

 なにを守りたかった?

 なにを守ればよかった?

 

 どこから来たんだっけ?

 戻りたいんだ。

 戻らなきゃいけないんだ。

 何処へ?


 金色の……

 


「……す、黒須、起きろって!」


 最近夢見が悪くてちゃんと眠れないんだ。

 もう少しでいいから寝かせてくれ。

 昨夜は特に酷くて……覚えていなけど、辛い夢だった。

 感情だけは覚えていることってあるだろう。


「おーい! 黒須! もう夕方だぞ!」


 夕方? ……なにを言っているんだ?

 なんでもいいけど、寝かせろ……体を揺するな……


「いてっ!?」


 頭を叩かれた衝撃で眠気が飛んだ。

 叩くなよ……

 大して良くない頭が悪くなったら困るんだ。


「やっと起きたな」


 和泉、そんなに呆れなくてもいいだろう。

 そのノートで叩いたのか……この凹みは俺の頭の形か?

 受け取ったノートにくっきりと跡がついているんだけど。


「おまえ、どれだけ寝ているんだよ。本当にもう放課後だぞ」


 俺……午後の授業を、昼飯を食べた記憶がない。


「どうしてもっと早く起こしてくれないんだよ」


 机の上で教科書を枕に寝ていたせいで体が痛いし、ぎしぎしする。

 体を伸ばしたところで焼け石に水だ。


「何度起こしたと思ってんだ? 幾ら起こしても起きない奴をこうして諦めずに起こす俺を誉めてもいいんじゃないか?」


 聞こえよがしにため息を漏らさなくてもいいだろう。


「あ――、ありがとう」


 起こして貰えて助かりましたよ。

 感謝ですね。

 俺の適当な感謝に和泉はまた、ため息を漏らす。

 そのため息、わざとだろ。

 面倒見のいい和泉はなにかと俺の世話を焼いてくれるんだ。

 他のクラスメイトに対してもそうなんだけどな。


「先生が起きたら職員室に来るようにって、ほら黒板に」


 和泉に促されるままに視線を向ければ、またデカデカと黒板に書かれている。

 あれは怒っているよな……

 ずっと寝ていればそりゃ怒るよな。

 マジで俺、どのくらい寝てたんだろう?

 さすがにこれは恥ずかしい。

 黒板消しが二個あってよかった。

 和泉は出来たヤツだ。

 なにも言わずに手伝って……そこ、書き足すな!


 アランさんがこっちにに来た日から夏も過ぎ、制服の冬服へ衣替えもつい最近あったばかりだ。

 なんだか随分とあっちの世界はご無沙汰だ。

 これって、俺寂しいのかな?

 こんなに長い間召喚されないことが寂しいってなんだ?

 あっちの都合で呼び出されて、怖い思いさせられて気がつけばこっちの世界に帰ってきて、文句はあるけどさ、こっちから行けないっていうのは寂しいよな。

 このまま向こうに呼ばれないってことないよな?

 だって向こうの世界がどうなったのか気になるじゃん。

 でも呼ばれないってことは、あっちの世界が平和になったってこと?

 双子と金色の魔王が和解したのか?

 いくら親子でもわだかまりってそう簡単になくなるものじゃないと思うんだ。

 いや、そういう問題でもないか。


 和泉の俺が怒られることを期待したにやけた顔は腹が立つな。

 自業自得だから仕方がないんだけどさ、


「怒られてこい」


 は酷くないか?

 当然だけど、和泉は職員室へまでは付き合ってはくれないらしい。

 あのにやけた顔は職員室まで一緒に来るのかとおもうだろう。


 雪村さんもあれからなにも言って来ないし、俺から話を聞こうとすればなにかに邪魔されているんじゃないかって思うくらい機会がないんだ。

 アランさんを知っているってことはあっちの世界の関係者でいんだよな?

 他にもあっちの世界の関係者がいるとかないよね?

 アランさんがこっちに来たとか、雪村さんの意味深な発言とかさ、気になることばかりだ。

 俺の他にも召喚された人がいるなら会ってみたいな。

 ……居るとは思えないけど。

 あっちの世界で雪村さんに会っていたのかな?

 いや、アランさんがこっちの世界の格好に目を丸くしていたんだ。

 こっちの世界の格好をしている人がいれば目立つだはずだ。

 だからきっと会ってないと思う……

 大体にして思い出せばわかるとか、何を思い出すんだ?

 勉強の方はともかく、俺は記憶力は良い方だと思うんだ。

 真剣朱雀とか得意だし。


 どれだけ俺はボケッと歩いていたんだろうな。

 よく見慣れた学校の廊下はなんだか立派な部屋に変わっていた。

 普通はすぐに気が付くだろう。

 まだ寝足りないのか?

 学校にこんな場所はないはずだ。

 いつだったか召喚されたとき豪華絢爛な部屋と作りは似ている。

 違いといえば、置いてある家具や、壁の彩飾だろうか。

 一般人の俺には縁のない空間だ。

 いや、現代を生きる俺にはと言い換えておこうかな?

 辺りを見回せば案の定金髪の双子がいるんだ。

 いつもより小綺麗な格好をしているけど、どうしたんだ?

 ヴィクトリアさんなんて絵画の中からそのまま飛び出してきたような動きにくそうなドレス姿だし。

 いや、いつも汚い格好をしているってわけじゃなくて、旅の格好っていうのか?

 いつもはゲームとか漫画でよく見るようなファンタジーな旅の戦士というか、魔術師か……まあそんな感じの格好なんだ。

 だけど、今の格好は王子様とお姫様だ。

 美男美女だし、どんな格好でも着こなしそうな二人だしさ、金髪も相まって中世の王子様とお姫様にしか見えないよ。

 教科書の挿し絵にありそうな肖像画のような姿なんだ。

 俺が召喚されずにいたこの数ヶ月でなにがあったんだ?

 本当に世界が平和になったとか?

 金色の魔王と和解したとか?

 それなら俺がこの世界に呼ばれる訳ないか。



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