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婚約披露宴 ―ヴィクトリア―

 どうしてこうなったんですの?

 伯父様への挨拶もそこそこに使用人達はわたくしをお風呂に連れていくんです。

 一人で大丈夫といくらお伝えしても聞いてもらえず、あれよあれよという間に磨きあげられましたわ。

 公衆浴場でもないあんなに大きなお風呂、子供の頃以来じゃないかしら。

 落ち着きませんでした。

 お風呂はやっぱり一人で入りたいですわ。

 人にやってもらうって……恥ずかしいですもの。


 コルセットが必要な時だっていつもは自分で締めてましたからこんな苦しくはありませんの。

 息をするだけで疲れるって、世の御令嬢方は凄いです。

 こんなに苦しい中、こんなに重いドレスを着てよく動けますわ。

 わたくしだって旅をしておりますから体力には自信がありまのよ。

 だけど、衣装を纏うだけでこれだけ体力が削られるなんて……鍛え方が足りないのかしら?

 髪もこんな立派に結い上げられて、ひきつって痛いくらいですわ。


「やはりこのくらい派手なものでも見事に着こなしてますわね。マチルダ様のご衣装取って置いて良かったですわ」


 疲れきって長椅子に座るわたくしを見て、カリスタ伯母様は満足そうにされております。

 もし、わたくしが王女のままでしたら毎日のようにこんなに苦しくて重たいドレスを着ていたのでしょか?

 記憶にあるお母様はこんなに重そうなドレスは滅多に着ていなかったと思うんですけど。


「ほら、王子達もいらっしいましたわ」


 さすがアランですわ。

 金色の髪もいつものように隠すことなく整えられて、きらびやかな衣装にも負けず、王子様そのものですの。

 アシュリーは馴れない衣装に緊張されているのかしら?

 ところで、どうしてわたくしたちはこんな格好をさせられているのでしょう?

 お話を聞こうにもお客様がいらっしゃったと伯母様はすぐ側を離れてしまったんです。

 入れ違いのように側に来たアシュリーが誉めてくださいます。

 素直に嬉しいですが、なんだかこそばゆいですわ。


「アラン。これは一体なんですの?」


 アランは肩をくすめ、首を横に振ります。


「俺が聞きたいね。」


 本当になんでしょうか?

 同じように着飾った方が集まって来ましたわ。

 こんな豪華な衣装、集まった方々は貴族の方でしょうか?

 伯父様は一体なにを始める気なのかしら?


「僕、パーティーとか初めてなんですけど……」


 わたくしたち双子だってこんなパーティーは子供の頃以来ですわ。

 アシュリーと同じように不安です。

 マナーだってうろ覚えなんですよ。


「エドヴィン伯父これはなんですか?」


 アランの問いに近くに来た伯父様はにこやかな顔で答えてくださいます。


「王女の婚約披露宴だよ」


 なんと? 今なんと仰いましたの?

 わたくしの婚約?

 どうして……どここからそんな話が出てきますの?


「ヴィーの婚約ってなんだよ?」


 アランも、アシュリーも驚いております。

 わたくしだってそうですわ。

 わたくしと婚約するメリットがありませんわ。

 だって、わたくしは金色の魔王の子ですよ?

 わたくしだってまだそんなこと考えておりませんもの。


「王女の婚約はレイディエストがこうなる前からあった話なんですよ。ここに帰ってくると聞いたので先方にお話ししたら是非にとなりましてね」


 だからって……

 どうして今なんですの?

 伯父様に促されるように挨拶をされるマクシミリアン・エーメリー様がお相手というようですわ。


「はじめまして、ヴィクトリア王女様。伺っていたよりもなんと麗しい方なんでしょう」


 アラン、そんな顔をしてはいけませんわ。


「エーメリー伯爵家から二人が子供の頃から何度も話があったんだ。マチルダがなかなかよい返事をくれなくてね……」


 伯父様がなにを話しているのか理解できませんわ。

 今、このご時世でわたくしの結婚、わたくしの幸せなどどうでもいいことじゃありませんの?


「王女の幸せを願うことは当然だが、王子が王になるための後ろ楯も必要に……」


 アランが王に?

 それは素晴らしいことですが、アランが治めるはずの国はもうありませんの。

 今は自分達のことよりも、金色の魔王をどうするかの方が大事じゃありませんか?


「エドヴィン伯父、俺は王にはならない。こんなことを勝手に進められては困る」


 エドヴィン伯父様は目を細められ


「アリス殿の息子のアシュリー殿が勇者として名乗りをあげたんですよ。お二人のお役目は終わったんじゃないですか?」


 わたくしたちの役目ってなんですの?

 わたくしたちは未だにお父様を取り戻せておりませんわ。

 幸せだと知らなかった時間を取り戻せておりませんの。


「いつまでも可愛い妹の子に危険な旅をされては心配で仕方がないですよ」


 勝手ですわ。

 その可愛い子とやらをずっと放っておいたのは伯父様ですのに。

 ……率先してわたくしたち双子を追いたてたのはレイディエストの貴族達でしたわ。

 子供だったわたくしたちを冷たく突き放していたじゃありませんの。

 金色の魔王の子と罵られて……それでもめげずにやってきましたのよ。

 わたくしたちの幸せを勝手に決めて勝手に作らないで欲しいですわ。


「陛下の意向もなく勝手にヴィクトリア王女の婚約を決めないで頂きたいですね」


 どうしてここにいますの?


 会場にいる誰もが驚き、ざわめいております。

 アシュリーは剣があれば飛び掛かっていたんじゃないかと思う殺気を醸し出します。

 肩に乗せる烏はどの魔王でしょうか?

 どうしてそんなに涼しい顔をしていられますの。

 昔と変わりなく漆黒の貴公子と揶揄される黒い艶やかな髪も涼やかな黒い目元も健在です。

 お父様の側近だったヴィンセントがどうしてここにおりますの?


「陛下の名代として参りました。エドヴィン卿お久し振りでございます。王女を危険な旅から遠ざけようとしていただきお礼申し上げます」


 ヴィンセントの一挙一動が絵になります。

 誰よりも美しく、誰よりも魅了したその姿は10年前からなにも変わっていないように感じますわ。


「ヴィクトリア王女の婚約と聞き慌てて参りましたが、政略的なものとなりますと、お父上である陛下の意向を聞いて頂かなくては困りますね。」


 会場を警護する騎士から剣を受け取ったアシュリーがヴィンセントに斬りかかっていきますが、烏の一声でアシュリーが吹き飛ばされます。


 ヴィンセントは冷めた表情で冷たい視線をアシュリーに向けます。


 テーブルをなぎ倒し、きらびやかな室内の飾りを壊して転がり、呻き声を漏らすアシュリーに息を飲む音が聞こえます。

 その様子にどこからか悲鳴が上がり、我先にと逃げ出す者が現れ、それに続くように皆会場を出ていきます。


 婚約者と紹介された彼、名前はなんでしたっけ? 彼も一目散に逃げて行きましたわ。

 そんな男をわたくしが好きになる、伴侶と認めるわけがありません。


「エドヴィン卿、あの男ではヴィクトリア王女を任せるには力不足じゃありませんか?」


 ヴィンセントは静かに話します。


「王女を差し置いて逃げるとは思わなかった。だが、あなたがここに現れたら仕方がないのではないか? 私だって今すぐにでもここを離れたい」


 エドヴィン伯父様の言葉にヴィンセントは笑って返す。


「酷いですね。私はただの人間ですよ。今も昔も陛下に仕えているだけです」


 アシュリーが再びヴィンセントに仕掛けます。

 軽くいなすように剣を受け、烏の鳴き声に飛ばされました。


「アシュリー、私は貴方の仇敵ではありませんよ。これでは話が出来ません」


 立ち上がり剣を構えていたアシュリーがふらつきます。

 たたらを踏み、頭を振り、ヴィンセントを睨み付けております。

 様子がおかしいんですわ。


「アシュリーになにをしたんだ?」


 アランはいつでも炎を投げられる用意をしております。


「眠りの魔術ですが、アシュリーの抵抗力は凄いですね」


 音を立ててアシュリーが倒れ、近くにいた兵が介抱致します。

 本当に寝ているだけ?

 心配で駆け寄りたくてもドレスが邪魔してうまく動けませんわ。


「大丈夫です。寝てもらっただけですから。……それで王女の婚約は破棄してもらえますね」


 伯父様は頷きます。

 手が震えておりますわ。

 ヴィンセントの前で……怖いのでしょう。


「お二人のご結婚ですが、陛下は自由にして欲しいと言ってました。王子と王女という身分は捨ててもいいと、むしろ捨ててしまえと言ってましたよ」


 身分を捨てろって……

 わたくしたちはやっぱり……

 お父様にとってわたくしたちは……

 要らないのですね。

 余計な存在なのですね。

 子供として、家族でもないのですね。

 涙が溢れて参ります。

 あの時、一緒に暮らせるようにって仰っていたのはなんでしたの?


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