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母の故郷―アラン―

 旧レイディエスト王国エーイスト領は母様の故郷だ。

 俺たちが産まれた頃までは独立した王国だったらしい。

 らしいというのも母様も誰も王国だった頃の話を俺たちに話してくれず、そうだったという事実だけを言っていた。

 子供の頃の俺もそこまで興味がなかったから聞きもしなかった。

 今でも興味がないけどな。


 俺たちは母様の実家であるエーイスト家を訪ねることにした。

 それにしてもエーイスト領都であるはずの街はなんでこんなに寂れているんだ。

 仮にでも領都だ。

 かつて王国だった頃は首都であったはずの街がこんなにも寂れるものだろうか?

 子供だった頃はこんなに寂れてはいなかったはずだ。


 使用人達は突然訪れた俺たちに警戒を隠さなかった。

 それは当然の事と俺とヴィーは気にもしなかったがアシュリーは気になるみたいだ。

 ずっとぶつぶつ文句を言っているんだ。

 手紙は出してあったからアシュリーの気持ちもわからなくはない。

 だけどさ、相手にだって聞こえているだろうし、なにより行儀が悪くないか?

 俺たちは金色の魔王の子と恐れられているんだから仕方がないだろう。

 実際その通りなんだ。

 俺たちがなにかをしたわけでもないのに怖がられるっていうのは一抹の思いはあるけどな。


「王子、王女。これはお久し振りでございます」


 ぶすっとした顔の使用人たちの奥から出てきたのは現領主エドウィン・エーイスト卿だ。

 母様の長兄にあたる伯父、俺たちの身内だ。

 10年振りだというのにエドヴィン伯父は俺たちを妹の、母様の子として迎えてくれた。       

 母様の命を奪った男の、金色の魔王の子としてではなく、昔と変わらない態度が素直に嬉しい。

 この10年俺たちも苦労したが、エドヴィン伯父も大変だったと思う。

 レイディエストの王都付近から逃れてきた民を受け入れていたのはここエーイストだ。

 魔族を、金色の魔王を恐れ、レイディエスト王都付近の住民は謂れのない差別を受けているんだ。

 彼らはなにもしていないし、住むところを追われたというのに……

 本当に父様はどうして金色の魔王なんかになってしまったんだ。

 全てはそれが原因なんだ。

 それさえなければこんな大変な時代になったりしなかったはずだ。


「お話は至るところから聞いております。いい話も悪い話も」


 いい話だけであって欲しいな。

 悪い話なんて殆どが眉唾ものだ。

 エドヴィン伯父のいう話が噂話だけというならいいも悪いも信じないで欲しい。

 勝手に作られた偶像を信じられると哀しいんだ。


「旅の生活では落ち着くこともなかなかないでしょう? ここでは我が家のようにお寛ぎ下さい」


 エドヴィン伯父ような優しい言葉は身に染み入るな。

 この10年なかなか優しい言葉を掛けてくれるよな者はいなかった。

 いつだって金色の魔王の子と罵られてきた。


「さあ、王女様はこちらに」


 使用人がヴィーに傅いた。

 俺たちの訪問は迷惑だと思っているんじゃなのか?

 戸惑う俺たちを余所に使用人は拉致るようにヴィーを連れていく。


「あの……?」


 俺もだけど、その様子にアシュリーは呆然としていた。


「年頃の王女を旅の埃まみれのままでいてもらうわけにはいかないでしょう」


 ああ、そうだ。

 エドヴィン伯父はそういうことに厳しい人だった。

 子供の頃少しでも行儀が悪ければ怒られた。

 俺たち双子にとってエドヴィン伯父は大好きな怖い伯父様だったんだ。

 国を追われる身となった今でもヴィーはエドヴィン伯父にとって大事な王女様なんだ。

 本当にありがたい。

 俺……このままここにヴィーを置いておきたいよ。

 危険な旅の生活より、エドヴィン伯父の庇護下にいた方が絶対に安全だ。

 お願いしてみようか?


「こちらの方があのアシュリー殿ですか?」


 アシュリーの赤銅色というのか髪色はアリスのそれを見事に継いでいるんだ。

 アリスを直接知っているものならすぐにアリスの息子とわかる。

 挨拶もそこそこに俺たちはマリアの事を聞いた。


「申し訳ありません。マリア殿のことはわかりません」


 ここに寄るとは思っていなかったからいいんだが、俺はエドヴィン伯父のこの憔悴振りと街の様子が気になってしまう。

 金色の魔王に関する事だとは目星は付く。

 けど、王都から離れたこの土地がどうしてこんなに寂れるんだ?


「旦那様」


 部屋への入室許可も取らずに部屋へ飛び込んできた。

 エドヴィン伯父が眉間にシワを寄せる。


「騒々しい。王子の前で何事だ!」


 男は慌てて取り繕う。


「申し訳ありません。ですが……」


 尋常ではない男の慌て振りにエドヴィン伯父は先を促した。


「魔族が攻め入って参りました」


 魔族が?

 驚く俺たちにエドヴィン伯父は溜め息を漏らす。


「最近魔族が街中によく現れるんだ。これがまだ、1、2体での襲撃で済んでいるから対処出来てはいるんだが、民も怯え逃げ出すものが多くてな」


 魔族の襲撃は驚異だ。

 魔物だって戦ったことのない一般人には危険なものだ。

 それが魔族となれば、兵士だって尻込みするものがいる。

 逃げ出した民を責める事など出来ないだろう。


「王子。どこへ行かれるんですか?」


 どこって、決まっているじゃないか。


「魔族はどこに出たんだ? 案内を頼む」


 エドヴィン伯父は慌てて俺を制止する。


「なに考えているんですか? 王子が向かうべきではありません」


 相手は魔族だ。

 誰であろうと戦力になる人間が行かないでどうするというんだ?


「あなたはいずれこのレイディエストの国王となるのですよ。自ら危険に飛び込むことはお止めなさい」


 俺が国王?

 なにを言っているんだ?

 金色の魔王の子が王になどなれるわけがないし、俺には世迷い事にしか聞こえない。


「もし、俺が王になるというのなら今助けを求めている民を守れずにどうしろというんだ?」


 制止するエドヴィン伯父を残して俺とアシュリーは魔族が現れたという街へ向かった。


「王子様よかったんですか?」


「なにがだ?」


 あんな世迷い事を聞いていられるかっていうんだ。

 エドヴィン伯父の言うことを聞いていればレイディエストの国王にはなれるかもしれないが、金色の魔王の驚異が去ることはないだろうな。


「お姫様置いてきちゃいましたよ?」


 ヴィーを置いてきたきたことだったら構わない。

 少しでもあいつを危険から遠ざけられるならそれがいいんだ。

 アシュリーも俺たちを王子様、お姫様と呼ぶわりに忘れているんじゃないのか?

 お姫様が戦いに参加するっておかしいだろう。

 まあ、俺たちにもその自覚はないからな。


「魔族の数体くらいヴィーが居なくても倒せるだろう? 勇者だし」


 勝てたことはないが、何度か魔王と対峙しているんだ。

 魔族ごときに怯えているようでは困るんだ。

 アリスだったら……いや、アリスと比べてばかりでは駄目だな。

 アシュリーはアシュリーなんだ。


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