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封じられた魔術 ―アシュリー―

「アシュリーはなぜこんな森の中にいるのじゃ?」


 僕は女王様に自分が弱い事を話した。

 このままじゃ弱くて役に立てないと、金色の魔王を今のままじゃ倒せないと。

 彼女は真剣に話を聞いてくれた。

 母さんじゃそんなこと悩みもしなかったとか言われても僕は母さんじゃない。

 どうしてみんな僕を母さんと同一視するんだ? 

 母さんは母さんで、僕は僕なのに……


「魔術が使えないじゃと? 当たり前じゃ」


 当然だろうと切り捨てるように、気にしている僕がおかしいと言わんばかりだ。

 当たり前って……どうして僕が魔術を使えないことが当たり前なんだ?


「アリス様に頼まれてそなたの魔術を封じたのは妾じゃ」


 母さんが?


「どうして……」


「クリストファーの妨げになる力はいらないとアリス様は申していたのじゃ。」


 クリストファーって金色の魔王か?

 なんで?

 僕が金色の魔王の妨げになるって……母さんが勇者だったんじゃないか。

 僕は母さんの跡を継いだに過ぎないのに。

 母さんはクリストファー王の側近だったと知ってはいたよ。

 だけど、自分の子の力を封じるほど心酔していたなんて知らない。

 聞いたことがない。

 傀儡の勇者と、生け贄の勇者と貶められることがあるけど、それって母さん自らその命を捧げたってこと?


 わからない……

 いくら考えってもわからない。

 なんで?


「その術を解いてくれませんか?」


 とりあえず、術を掛けた本人が居るならこの術を解けるでしょ。


「無理じゃ。妾はアリス様が死んだ時に封印解除の力は放棄したのじゃ。妾にはもうなにも出来ぬのじゃ」


 女王様は悼むように目を伏せ


「アリス様はそなたが魔術を使うことを良しとしなかったのじゃ。死んだ今、アリス様のお心はもうわからない。だから放棄したのじゃ」


 そうか、それじゃあやっぱり僕は魔術を諦めたほうがよさそうだ。


「時間か、そなたが強くなれば封印は自ずと解けるのじゃ。そんながっかりしなくてもよいのじゃ」


 勝手に解けるの?

 封印ってそんなものでいいのか?

 なんだか思っていたものと違うんだけど……

 放棄したってもう封印はどうでもいいってこと?


「妾はなんだか眠たいのじゃ」


 なにかを気にすることもなく横たわる。

 その怪我だ、体はまだまだ本調子ではないのだろ。

 女王様はここが外で森の中だということも気にする様子もなく寝息を立て始める。

 このまま寝かせてあげたいし、でもここじゃって気もするんだけど……まあいいか。

 女王様をここに一人で残せるわけもないから瞑想をしてみることにした。

 継続が大事だというなら時間があるときにしてみるのがいい気がするんだ。

 今なんてまさしくその時だろう。


 瞑想中って何を考えるんだ?

 深く静かに想いを巡らせるってなに?

 わかんない。

 わかんないことばかりだ。

 どうして母さんは僕の魔術を封じたの?

 母さんは僕のことどう思っていたの?

 父さんは僕を愛してくれた。

 母さんは?

 僕が覚えている母さんはいつもベッドにいた。

 床についたのは1年くらいだって聞いたけど、僕は元気だった頃の母さんを全く覚えていない。

 もっと幼かった頃に王子様とお姫様と遊んだことは覚えているんだ。

 だけど、元気だった頃の母さんを僕は知らない……? 

 まさか……ね。

 幼かったせいで覚えてないだけだ。

 瞑想ってこんなに疲れるものなのか。

 体というより心が疲れるんだ。

 これって僕だけなのかな?


 とういか、女王様3日も寝続けているんだけど、起きないのかな?

 もちろん起こしたよ。

 でも起きなかった。

 森の中でなんの警戒もなく寝るって……自殺行為だよね?

 街へ何度か連れて行こうかと思ったけど、本当に魔族が沸きだしてきても嫌だったから僕も一緒にここで過ごした。

 ちょうど泉の側だったし、瞑想するのに悪い場所じゃなかったんだ。


「魔物が集まって来ておるのじゃ」 


 女王は目を覚ますなり物騒なことを言う。

 魔物が集まって……ってかなり嫌なんだけど。

 3日振りに起きた女王様はいつ手にしたのか剣を握っていた。

 女王様が起き上がるとほぼ同時に魔術弾が飛んできた。

 油断していたわけじゃないんだけど、かなりの数の魔物に囲まれていた。

 縦横無尽に動く女王様の動きはさすがだ。

 女王様の動きは怪我人のそれには見えなかった。

 僕の方が動きが悪いんじゃないかってくらいに倒していく。


 あっという間だった。

 これが獣人の王となる人の力。

 女王は魔物など大したことないとばかりに魔物を殲滅した。

 僕なんか露払いににもなっていないんじゃなかな。


「疲れたのじゃ」


 あれだけの怪我で、急に起きて、あれだけ動けば疲れて当たり前だ。

 僕はここでも弱いんだな……

 女王様を守れたら思っていたにもかかわらず、この体たらく。

 情けない……


「アシュリー、人間にしたらそなたは強いと思うのじゃ」


 疲れ座り込んだ女王は優しい言葉をくれるけど、弱いなら弱いとはっきり言って欲しい。

 そう言われても……慰めにもなんにもならない。

 だって僕は王子様とお姫様の役に立ちたいんだ。

 金色の魔王を倒さなきゃいけないんだ。


「アリス様とは違った動きをしているようじゃが、アリス様より手解きを受けてはいないのか?」


 僕は母さんからなにも教わっていない。

 魔術も剣もなんにも。

 ベッドの上の母さんが僕に何を教えられるんだって……

 否定する僕に女王様は特になにも言わなかった。

 大抵の人は覚えていないだけだろうと、僕を責める人が多いのに、女王様はなにも言わなかった。


「剣の相手、妾がしようか?」


「え? でも、その怪我じゃ……」


 女王様はイタズラっ子のように笑い、


「長く体を休めたし、妾はそんなに柔じゃないのじゃ」


 屈託のない笑顔が眩しかった。

 僕は泉での瞑想の傍ら女王様に剣の手解きをしてもらうことになった。

 母さんがどんな人だったのかも女王様は教えてくれる。


 よく笑う人だった。

 強い人だった。

 憧れだった。

 クリストファー王に絶対の信頼を持っていた。

 何をしても死なないと思っていた。


 ああ、父さんと同じ事を言うんだ。

 女王様は本当に母さんが好きだったんだ。

 父さんもだけど、女王様は母さんを誉めることしか話さなかった。

 貶めるようなことはなに一つ言わなかった。


 女王様の剣は王子様のものとはまた違った。

 身体体強化でやっと真似が出来るくらいなんだ。

 それでいて動きを真似しようとすると無理が出てくる。

 なんとも難しい。


「妾の真似などするからおかしなことになるのじゃ」


「妾とそなたは違うのじゃ」


「闇雲に剣を振り回せばいいってものじゃないのじゃ」


「逃げ腰でどうするつもりじゃ」


 この数日、病み上がりとは思えない指導を女王様は僕にしてくれた。

 女王様より先に体力の限界がくるとかさ、僕は情けない……って獣人との種族の差だ。

 女王様は獣人の中でも戦闘力の高い獅子族だという。

 僕、成り行き上とはいえ、凄い人に手解きを受けているんだな。

 王子様も凄かったけど、厳しさでいえば女王様は本当に厳しい。

 火を投げ掛けてこないだけ女王様の方が優しいのかもなんて……思えないよ。


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