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ラシュトヴィチュコヴァー女王 ―アシュリー―

 森が騒がしいと感じた。

 街道から外れた森の奥がこんなに騒がしいってなんだろう?

 泉が見えたと思ったら襲ってくる魔物の数も増えたんだ。

 正直魔物が多いと思う。


 あの、黒だかり……なんだろう?


 なんでこんな所に魔族がいるんだ?

 なんで魔族が集団でこんな森の中にいるんだよ。

 まだ僕には気が付いていないみたいだけど……あれ、誰か襲われている?

 こんな森の中で?

 金色の魔王が現れてから森の奥に入るなんて自殺行為に等しい。

 普通の人が森に入るのはすぐに街に戻れる浅いとこまでだ。

 僕みたいになにかしら用がないと森の奥に行こうとなんて思わないはずだ。

 魔物一匹でも集落が壊滅したって話を聞くくらいだ。

 それなのに魔族が集団でいるって……ヤバいでしょ。

 誰か襲われているみたいだし、まだ生きているのかな?

 生きているなら助けたい。

 助けたいと思うのが人情だ。

 ……金色の魔王を討伐する勇者なんだ。

 誰かがどうとかじゃなくて魔族は倒さなきゃいけないんじゃないか?

 でも……怖いし、でも……強くなりたいし、でも……7体の魔王にも対峙したんだ。

 金色の魔王にだって会ったんだ。

 こんなところで怯えていたらいつまでたっても王子様とお姫様の役になんて立てない。


 魔族に襲われているのは……獣のような耳が頭についた、獣人!?

 まさかね……だって彼らはもっと動物に近い形であんな風に綺麗な人間のお姉さんって感じではないと思うんだけど?

 ……うん。アレは尻尾だ。

 獣耳に尻尾、あの咆哮は獣人だ。

 まだいたんだ。


 金色の魔王は亜人種の国から襲撃し、壊滅させている。

 最も先に世界から人魚が消え、エルフと獣人も後を追うように蹂躙されたと聞いた。

 辛うじて亜人種として残っているのがドワーフと人間社会に生きているハーフエルフだ。

 ドワーフの抵抗は時間の問題だろうと、ハーフエルフは人間の守護をなくしたら終わりだろうと言われていた。


 助けなきゃ。

 あの獣人はまだ生きている。

 魔族に対してあんなボロボロになりながら、遠目からでもわかる刃溢れしたした剣で戦っていた。

 面白がるように魔族は獣人に魔術弾を浴びせ、それを致命傷にならないようにと避け、攻撃に転じてようとしては別の魔族から攻撃を受けていた。

 僕から一番近くにいた魔族に後ろから斬りかかる。

 後ろからの攻撃に油断していた魔族はこの一撃で消えた。


「あ、ありがとうじゃ」


 声をかけると彼女は律儀にもお礼を言うんだ。

 そんなもの助かってからでいいのに。

 彼女だけに敵意を向けていた魔族達は僕にも攻撃を仕掛けてきた。

 飛んでくる魔術弾を剣で弾き、直接攻撃してくる魔族に斬りかかり、どうにか撃退することができた。

 どうにかってとこがダメだな。

 魔族の群くらい一人で倒せないとダメだ。

 僕の最終的な相手はあの金色の魔王なんだから。


「大丈夫? 僕はアシュリー……って」


 寄りかかってきた彼女を支えきれずに僕は一緒に倒れてしまった。

 僕が来るまで一人で戦っていたようだし、大変だったのだろう。


「……すまないのじゃ。妾はラシュトヴィチュコヴァーじゃ」


 ……それって、獣人の女王様?!

 なんでそんな大物が一人きりで森の中で襲われているんだよ。

 お付きの人とかどうしたんだよ。

 てか、本物……?

 僕が抱き支えると彼女は呻き声を漏らしたって、凄い怪我をしていた。

 この出血量で今まで立っていた?


「すぐ街に……」


「ダメじゃ!」


 彼女は苦しそうに、でもはっきりと言うんだ。


「人間の里はダメじゃ。やつらは妾達が人間の里へ行くとどこからともなく沸くのじゃ」


 沸くって虫かよ。

 気持ちワル……


「でも、この怪我は早く魔術医に見せた方が……」


「……この程度、休んでおれば大丈夫じゃ」


 そんな苦しそうに言われても説得力ないんだけど。


「その髪色、アシュリーって……アリス様の息子か……」


 彼女は僕の返事も聞かずに気を失った。

 これってヤバいよね?

 やっぱり街に連れて行こうかな。

 でも、魔族が沸いてくるのはやだな。

 

 あああ、ごちゃごちゃ考える前に止血だけでもしなきゃ。


 調香師だった父さんは薬草学にも強くて僕も教わっているんだ。

 止血の薬草はこの森で見かけているんだ。

 ほら、そこの泉の畔にもあった。

 魔術が使えなくてもこのくらいは出来ないとね。

 手当てを施すにも彼女の怪我は酷かった。

 本当によくこの状態で戦っていたよ。

 この人は本当に獣人の女王様なのかな?

 名前だけで判断出来ないし、でも噂で聞く女王様の特徴そのままなんだよね。

 猫のような耳と獅子の尻尾、金茶の髪とエルフのような整った顔付きと、獣より人型に近い姿。

 そのままラシュトヴィチュコヴァー女王様なんだ。

 僕、一人の手じゃ負えない相手だよ。


 しばらくすると彼女は目を覚ました。

 ぼーっとしてはいるが、耳を動かしているし大丈夫かな。

 あれだけの怪我でもう目を覚ますんだ。

 獣人の回復力って凄いな。

 これが種族の違い?


「そなたが、アシュリーが手当てをしてくれたのか?」 


 体を起こしつつ彼女はお礼を言った。

 お礼を言われるのはこそばゆいな。

 僕が出来ることをしただけなんだ。


「アシュリーはあのアリス様のご子息じゃな?」


 頷くと彼女は嬉しそうに笑った。


「そなたに会いたかったのじゃ。アリス様は妾達獣人が尊敬していたお方じゃ」


 尊敬って母さんはなにをしたの?

 強かったって話はよく聞くんだけど、尊敬されていたなんてはじめて聞いた。

 なんだか嬉しい。

 母さんが誉めらるって嬉しいんだね。


「獣人は力こそ全てじゃ。王は戦い勝った者が王と認められるのじゃ。妾はアリス様に最後まで勝てなかったのじゃ……」 


 やっぱり母さんの話は強かったってことか。

 他に母さんの話題ってないの?

 ん? 勝てなかったってやっぱりこの人は


「あなたは獣人の女王様……?」


 眩しくなるよな笑顔で肯定された。

 笑顔はあっという間に曇り


「妾が弱いばかりに国を魔族どもに好き勝手されてしまった……もう、妾一人しか生きてはおらぬのじゃ……」


 だから一人で魔族と対峙していたのか。


「これからどうするんですか?」


 女王様は目元を隠し、


「獣人といっても妾はハーフエルフじゃ。獣人の血を絶やさずにすみそうじゃ」


 女王様は寂しそうだ。

 基本的に他種族どうし子供を作れないのにエルフだけは違った。

 エルフとの間の子はハーフエルフと蔑まれているけど、それでも血を残せたといえるのかな?

 僕は当事者じゃないからなんとも言えないし、なんて返していいのかわからない。


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