表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/61

おもてなし ―レオ―

 アランさんに言われるままに外へ出たけど、やっぱりずっとアランさんは驚きっぱなしだった。

 電気ひとつ、街灯ひとつで驚けば女の人の格好に驚いた。

 電気は驚くとは思っていたけど、ミニスカートに驚くとは思わなかった。

 確かに向こうの世界でミニスカート履いてる人なんて見なかったけど、そんなに驚くようなことだろうか?

 俺はそこに一番驚いたよ。

 初めて遊園地にいく子供を引率しているよな気分で俺は町を、こっちの世界を案内した。

 案内なんて大それたことじゃないけどね。

 俺にとって当たり前のことがアランさんには全てが真新しく新鮮だったようだ。

 バスに乗るアランさんのはしゃぎっぷりといったらヤバかった。

 子供だってあんなにはしゃがないと思う。

 なにもしなくても人目を引く人なのに、あのイケメンの顔でバスの中で騒がれるんだ。

 周りの目が半端なかった。

 恥ずかしいっていったらなかった。

 そんなにはしゃいで疲れないのかな?


「夜だというのに人が多いな」


 地元の駅前でこれじゃアランさんは都会に行ったらもっと驚くだろうな。

 明日、今夜アランさんが帰らないなら学校サボって都会に行ってみようかな?

 面白そうだし。

 これがヴィクトリアさんだったらだったらって思わなくもない。

 だってさっきから女の人の目がスゴいんだ。

 どんだけアランさんイケメンなんだよ。

 俺はただの引き立て役か……引き立て役にもなれないってことないよね?

 ヴィクトリアさんだったら自慢して連れ歩くのに。

 こっちの世界でアランさんにご馳走するとなると……ハンバーガーより牛丼とかご飯ものの方が驚くかな?

 高校生の財布事情としてはあとはラーメンかうどん……

 あ、食べなれないものよりパンの方がいいかな?


「おい、あれはなんだ?」


 アランさんはさっきからそのセリフしか言わない。

 ほかにいう言葉といえば


「すげーな」


「うわー」


 とか、感嘆詞しか出てこない。

 ここまで驚くなんてなんだか面白くなってきた。

 なんにもない駅前を歩くだけでこれだけ驚かれたら面白くなるってもんだろう。


「レオの世界はスゴいな。便利な物で溢れてる」


 アランさんは満面の笑みでコンビニの鳥肉を噛った。

 お財布が寂しくてそれくらいしか買えなくてごめん……

 もっと見栄を張りたかったな。


「アラン」


 児童公園を静かに照らす街灯、日が落ちて幾ばくもないとはいえ俺たち以外ここにはいない。

 いや、いないと思っていた。

 後ろから声をかけられるはずなかったし、アランさんに声をかける人がいるとは思わない。

 だってアランさんは異世界の人だ。

 こっちの世界じゃ俺しか知る人がいないのに。

 アランさんの知り合いがこっちの世界に来るなんてことも考えられない。

 ありえないだろう。


「雪村さん?」


 振り向けば私服姿の雪村さんがいた。

 制服の黒いセーラー服と違う白い服がよく似合っていた。


「誰だ?」


 アランさんが警戒し、呪文を唱える。


「こっちの世界でそれはダメです」


 アランさんの腕にすがり、詠唱を止めた。

 いきなり火なんか出されたらとんでもないことになる。

 困るわ。

 アランさんは不服そうに俺を見た。

 不適な笑みを浮かべ、嫌な予感をさせる。


「アラン……さん?」


 火が雪村さんに向かっていた。

 なんてことをするんだ!


「危ない!?」


 雪村さんは火を気にする様子もなくただ見ていた。

 火は雪村さんに当たることもなく集束していき、消えた。


「な……!?」


 アランさんは驚き言葉をなくす。


「アラン。こっちの世界じゃダメだよ」


 それって、雪村さんが火を消した?

 なんで? どうやって?

 雪村さんは笑顔で


「理の違う世界で魔術を使えるまでになっていたのね」 


 アランさんの行動にも困ったものだけど、それよりも 


「雪村さんなんでアランさんを知っているの?」


 彼女は静かに微笑んだ。

 悪いものなんかなんにもない、なにも知らない笑顔だ。


「だって一度会ったことがあるもの」


 それって雪村さんも召喚されたことがあるってこと?

 アランさんに視線を向けると首を横に振って否定した。


「言葉を交わしていなくても最近会ったばかりなのに」


 拗ねたように唇を尖らせる。

 雪村さんは向こうの世界を知っている……?

 なんで? どうして?

 この前のあの意味のわからない質問も向こうの世界に関係していた……?

 アランさんも警戒を解かず、じっと雪村さんを睨んでいた。


「俺はお前を知らない」


 雪村さんは悲しそうに目を伏せ


「今はそれでもいいけど……」


 アランさんは雪村さんから目を離さずに聞いた。


「レオ、この女はなんだ?」


「クラスメイトの雪村真白さんです」


 ただでさえ謎多き美少女だったのに益々謎が深まる。


「レオ、そんな顔しないで。寂しくなる……」


 え? 雪村さんが混乱させているんじゃないか。

 話というか、展開についていけない。

 アランさんがこっちの世界に来て、雪村さんがアランさんを知っている。

 もうこれ以上混乱するようなことはなしにして欲しい。

 雪村さんはアランさんに近づき、頬に手を当てた。


「金色の魔王の子と蔑まれながらも腐ることなく成長してくれてありがとう」


 雪村さんはアランさんの目を真っ直ぐに見つめて


「わたしはずっとあなた達を見ていた」


 アランさんも雪村さんから目を反らすことなく睨み返す。


「まだ力不足で傍観者のままだけど必ず助けになるから」


 雪村さんが何の話をしているのかわからない。

 アランさんはわかったのかな?

 俺だけがわからなくて蚊帳の外ってことはないよね?

 ……それでいいはずなんだけど、なんだか嫌だ。

 これは寂しい……?


「お前は……なんの話をしているんだ?」


 雪村さんは微笑み返し


「世界の話よ。アランにはこっちの世界を見てもらいたいと思ったの」


 それって、雪村さんがアランさんをこっちの世界に呼んだってこと?

 世界を見せるってなんだ?


「アラン達のいる世界はもうずっと成長が止まっている。幾千億万の時がずっと止まっている世界」


 頭が痛い。

 なんでこんな急に頭が痛くなるんだ?

 くらくらする。

 こんなに頭が痛くなったこと初めてだ。

 立っているのもやっとでしゃがみこむ。

 雪村さんが申し訳なさそうな顔を向け


「レオ少し我慢してね」


 優しく微笑んだ。


「この世界はアラン達のいる世界の未来の形に近い世界。あなたもお城にいた頃歴史の勉強をしたでしょう?」


 アランさんを気にする様子もなく雪村さんは先を続ける。


「今は無くなってしまったけど、レイディエスト王国の歴史って数千年も昔からずっとあったでしょう?」


 アランさんが頷いた。


「人の営みはもっと短くてもっと早くてもっと有意義なものなの。新しい発見も新しい革新もなくただずっと同じ時が流れいる……本来国の寿命はもっと短く、数百年と短いもの」


 アランさんはじっと話を聞いている。 


「もういつからだったかもわからないくらい昔、千や万では数えられないくらい昔、気がつけば世界は奪われ、世界の成長が止まってしまった」


 雪村さんは悲しそうに、悔しそうに話した。


「あなた達の戦いは世界を取り戻す為の戦い」


 涙を堪えるかのように目を伏せた。


「彼を独りぼっちにしてしまったわたしがなにかを言えるような立場ではないけれど……」


「ユキムラ……お前は何者だ?」


 アランさんの声は掠れていた。

 俺も雪村さんがただのクラスメイトに思えない。

 雪村さんは微笑み


「会ったばかりじゃない。いずれまた向こうの世界で会いましょう」


 アランさんが白い花びらに包まれ雪の結晶が舞う。

 凄く幻想的だ。

 そして、俺はこれを知っている。

 何って聞かれたらわからないけど、古い記憶の中にこの白い花びらと雪の結晶が舞う光景があるんだ。

 舞っていた白い花びらと雪の結晶が消えるとアランさんの姿も消えていた。

 俺のあんなに痛かった頭の痛みもいつの間にか消えている。

 まるでアランさんが向こうの世界に持って行ったみたいだ。


「……アランには難しい話だったかな?」


 俺にも難しい話だ。

 全くわからない。


「雪村さん?」


 イタズラの種明かしをするように雪村さんは笑った。


「わたしが誰かわかった?」


 は? 誰だ?

 その口ぶりからしたら俺は雪村さんの向こうでの正体を知っているってこと?

 ……雪村さんらしい人に会ったことなんてない。

 あの双子に関わりがある人しか俺は知らないんだ。

 アランさんだって雪村さんのことわかってなかったと思うし。


「ごめん。今の話も俺にはよくわからなかったんだけど?」


 雪村さんは少し寂しそうに笑った。

 そして、拗ねた顔を近づけ


「思い出してもらえないのは寂しいよ」


 そんなに近づいたら……恥ずかしい

 女子とそんなに顔を近づけたことなんかないし、雪村さんは学校でも話題の美少女なんだ。

 そんなことされたら俺の心臓がもたない。

 雪村さんは俺から離れ、改まり


「レオ。ごめんなさい」


 俺、雪村さんにそんな風に謝られる覚えなんてない。

 謝るよりも先にアランさんたちのこと教えて欲しいんだけど。

 僕なんかよりあっちの世界のこと詳しそうなんだけど。


「そしてありがとう」


 俺はお礼を言われるようなこともしていない。


「雪村さん?もう少しわかり……」


 俺の唇に人差し指を当て


「わたしを思い出せれば全てわかるよ」


 それを今教えてくれないのだろうか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ