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見たこともない景色 ―アラン―

「……さん。アラン……アランさん」


 レオ? なんでレオがいるんだ?

 いつ召喚した……?

 違う。失敗したんだ。

 失敗して代わりに白い女が現れて、父様が来て……


「ヴィーは? 他のやつらは?」


 飛び起きた。

 だって、どこだ……?

 寝てなんかいられない。

 俺は今どこにいるんだ?

 この狭い部屋は宿屋?

 宿にしたら随分と所帯染みた部屋だ。

 机があって、服が掛かって……

 床に座り込んだレオが俺を見上げ


「アランさんなんでこっちの世界にいるんですか?」


 こっちの世界?

 レオはなに言ってんだ?

 世界にこっちもあっちもないだろう。

 

「ここはどこだ?」


 レオは目を泳がせ困った顔を隠そうともせず


「ここは俺の部屋です」


 レオの……部屋?

 なんで?


「どうしてアランさんいるんですか?」


 それは俺が聞きたい。

 なんで俺はレオの部屋にいるんだ?


「レオが俺を連れてきたのか?」


 レオは首を傾げ


「どうやって? 俺はアランさんたちみたいに魔術を使えないですよ」


 魔術? なんで部屋に運ぶのに魔術がいるんだ。


「こっちになにか用事でもあるんですか?」


 用事ってなんだよ?

 俺はレオの部屋に来たいなんて思った事ないぞ。


「なにもないなら帰りませんか?」


 そうだな、ヴィー達の事も心配だし帰るか。

 レオの言葉に頷くことで返事をし、まっすぐ……って二三歩で届く距離の扉へ向かう俺をレオは慌てて止めた。

 扉を通らずにこの部屋から出る方法でもあるのか?

 さっきからレオの言動はおかしい。

 こっちの世界とか、レオは時々意味のわからないことを言う。


「その格好で部屋の外へ出るのはマズイんです」


 あ……そうだ。

 そんなにすがり付くように抱きついて止めなくてもわかっている。


「……わるかった」


 俺は金色の魔王の子だ。

 この金の髪と青い目を隠さなくてはレオに迷惑をかけてしまう。

 レオに金色の魔王の子と扱われるのは堪えるな……

 俺はフードをいつものように目深に被った。


「違うんです」


 慌ててレオは俺のフードを外した。

 そんなことをしたら俺が金色の魔王の子だとすぐにバレてしまう。


「こっちじゃ金色の魔王がどうとかじゃなくて」


 レオはなにか言いにくそうにしている。

 言いたいことがあるならはっきり言えばいい。


「その格好は悪目立ちしちゃうんです。只でさえアランさんは目立つんですから」


 格好?

 そんなおかしな格好をしているつもりはない。

 旅の生活だ。

 ほつれもあるし、汚れだってある。

 王宮の貴族どものように些細な汚れもダメだというのだろうか?


「なにがダメなんだ?」


 レオは困った表情を浮かべ


「えっと、全部ですね」


 は?

 なんだそれ?


「まずはこっちの世界、俺の国ではマントを羽織ることもなければ剣を常に持ち歩くことがありません」


 マントがいらないって旅の便利品だぞ。

 防寒着だしテントに代用だって出来る優れものだっていうのに。

 レオは俺の剣を指差し


「それに剣とか武器を持つことが犯罪なんで、剣をもって歩くことはダメです」


 犯罪って……


「どうやって身を守るんだ? まさか誰も彼もが魔術を使えるというのか?」


 でも、レオは使えないって。


「何度も言いますが、使えませんって」


 それじゃあどうやって……?


「こっちの世界じゃモンスターそのものが出ないんです」


 モンスター……魔物が出ない?

 なにを言っているんだ?

 金色の魔王のが復活してから魔物、魔族が活性化しているっていうのに、出ないわけがないだろう。


「……窓開けてもいいか?」


 風でも当たって気分を変えたい。

 頭を、心を使うことばかりで疲れてきた。


「いいですけど、アランさん大丈夫ですか?」


 窓へ向かうレオが俺をちらりと見る。

 なんの心配だ?

 俺は大丈夫だ。

 心配されるようなことはない。

 頷き返すと、レオが窓を開けてくれた。


 引かれていた薄手のカーテンの向こうは見たこともない景色だった。


 この10年いろんな国を回ってきた。

 文化の違いというのだろうか。

 国によって建物の形は違った。

 それでもどこか似たり寄ったりの石造りや木造の建物だ。


 だけど……これはなんだ?

 よくわからない素材の建物。

 あの石の筒は?

 石の筒に繋がる黒い紐は?

 この地面は石畳でもなければ均しただけってわけでもなさそうな……一枚岩か? 違うな……


 窓の外に身を乗り出すようにしていた俺をレオが引っ張る。


「大丈夫だでしょうけど、一応ここは2階です。気を付けてください」


 この位の高さなら落ちたって大したことない。

 心配されるような高さじゃないだろう。


「……レオ。ここはどこだ?」


 窓の外のあの景色はなんだ?

 今日はなんでこんなにいろんなことが起こるんだ?

 俺……もう一杯一杯だ。


「アランさんのいた世界じゃないですね」


 レオは苦笑いを浮かべ


「俺が暮らす世界、んー異世界って言えばいいですかね?」


 異世界……?

 なんだそれ?


「精霊界とか? 天上界、地上界とかいう教義の話か?」


 何度教義を聞いても神を信じられなかった。

 国を奪い、大切な者達を奪い、父様は金色の魔王へと変わった。

 神は地上の人々を幸福へ導く存在じゃなかったのか

 神は俺たちになにかをしてくれるわけでもなければ存在だってあるかどうかわからないじゃないか。

 そんなあやふやなものをどうして信じられるんだ?


「違います。アランさんのいる世界とは全く違う世界ですよ」


 教義とは違う……?


「俺だってまだちゃんと理解しているわけじゃないけど、毎回毎回そっちの世界に召喚されていれば幾らか思うとこはあります」


「召喚って……俺が召喚されたってことか?」


 誰に?

 大体、召喚術ってそういうものじゃないだろう。

 力を貸してもらうものであって存在そのものを呼び出すものじゃない……はずだ。

 『黒焔の獅子』レオの召喚についてはなにかが違うと感じるが……


「召喚? こっちの世界に召喚……ていうか魔術を使える人がいませんよ」


 レオはなにを言っているんだ?

 理解できない……混乱する。

 ベッドに腰を降ろした。

 もう、立っているだけで疲れる。


「アランさん、大丈夫ですか?」


 レオは俺を労ってくれているけどさ……

 こんなことってあるのか?

 ちゃんとヴィーのとこへ帰れるのか?

 レオは心配そうに俺を見ていた。

 レオの黒い目が俺を労ってくれる。

 あぁ、レオも初めて俺たちの前に現れた時こんな思いだったのか。

 混乱する。

 もう、考えるのは疲れた。

 父様と会ったことよりも、死んだと思っていたやつが生きていたことも、どうでもいい……


「レオ、外へ行ってみたい」


「え? 外ですか?」


 そんなに驚かなくてもいいだろう。

 異世界? そんなとこへ来られるなんて貴重な体験、普通ならありえない。

 気持ちを切り替えたい。

 悩んでも仕方がなさそうだ。


「ヴィー達に自慢出来るだろう? 帰る前にレオの世界を見てみたい」


 帰る算段なんて俺にはないけど、レオならどうにかしてくれるだろう。

 他人任せになるけど、レオは『黒焔の獅子』なんだ。

 他に頼れる相手もいない。


「このまま帰るっていうのは……」


「ないな」


 窓の外へ身を乗り出すとレオが慌てて止めた。


「だから、その格好はダメですって!」


 俺を部屋に戻し、レオは小さな扉を開きその中からいくつかの服を取り出した。


「せめて着替えてから外へ出てください」


 レオは困った顔をしてその服を俺に渡してきた。


「身長は同じくらいだから大丈夫だと思います」

 

 レオの寄越した服は飾り気のない簡素なものだ。

ズボンの丈が幾分か足りない位でそれ以外はとても着心地が良かった。


「これでいいのか?」


 あまりにも簡素でこれだけでいいのか心配だ。

 俺も目立つことは嫌だから格好くらいレオに合わせておきたい。


「なあ、これじゃあ金色の魔王の子とすぐバレてしまうんじゃないか?」


 せめて帽子かなにかでこの髪を隠さなくても大丈夫なのか?


「金色の魔王がこっちの世界じゃ認識すらされてないから大丈夫ですよ」


 金色の魔王を認識してないって……どんだけ平和ボケしてんだ。

 魔物も出ないとか言っていたけどさ、そんな平和なとこがあるなんて信じられない。


「レオ、この格好なら外出ていいんだな?」


 剣を手に扉へ手を伸ばすと、レオが邪魔するように俺の剣を引いた。


「だから剣はダメですって」


 剣がダメってレオの世界は本当に平和ボケしているな。

 いや、レオが平和ボケなのか?


「本当にダメなのか?」


「ダメです。アランさんは魔術が使えるんだから剣がなくても心配ないでしょう」


 俺の使える魔術なんて大したことないのに。

 俺は魔術より剣の方が得意なんだぞ。

 レオが扉近くの壁に手を当てると部屋が明るくなった。


「おい! 今なにしたんだ?」


 夕暮れの薄暗かった部屋が昼間のように明るくなった。

 レオは散々魔術は使えないと言っていたじゃないか。

 これが魔術じゃなければなんだというんだ。


「え? 電気点けただけですけど……」


「デンキ……? 魔術じゃないのか?」


 戸惑う俺を宥めるようにレオは笑った。


「これは魔術ではなくて……技術です。外へ出たらこれだけじゃ済まないくらい驚きますよ」


 イタズラでも仕掛けた子供のようにレオは笑っていた。

 さっきまでずっと困った顔をしていたのに。

 進んでイタズラにかかりにいくようで気にくわないとこもあるがしょうがない。

 ここがレオのいう異世界だというなら俺の常識など役に立たないのだろうな。


やっとアランを召喚出来たあぁぁぁ!!

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