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全ての元凶はベゼルブブ ―ヴィクトリア―

 レオがアランに触れるとアランが黒い焔に包まれました。

 禍々しくも神々しい……

 嫌な予感がします。

 黒く大きく膨れ上がっていく黒い焔……

 止めて……ください。

 アランの姿が陽炎のように揺らめき消えていきます。

 ……止めて。

 声にならない声が漏れます。

 お願いですから。


「レオ! アランを連れて行かないでください!!」


 大きく膨らみきった黒い焔が、爆ぜります。

 なにもありませんでした。

 そこにアランがいた様子も、レオが黒い焔に変わった様子も、はじめからそこにはなにもなかったかのように、黒い焔が消えると二人の姿がありませんでした。

 


 アランがレオと一緒に消えてどのくらいたったのでしょか。

 キャサリン嬢の用意してくれた部屋でわたくしは一人で膝を抱えておりました。

 ベッドの上にいてもまともに寝ることも出来ず、ただアランのことを想うばかりです。

 窓から差し込む光が眩しいと感じても、宵闇に呑まれていく部屋が暗いと感じてもなにもする気になれませんの。


 どうして、レオはアランを連れて行ってしまったのでしょう。

 どうしてわたくしを一人にするのでしょう。

 アランが居なくてはわたくしはなにも出来ませんわ。

 一人でどうしろというんですか?

 わたくし一人では『黒焔の獅子』を召喚、レオを呼び出すこと出来ませんの……

 10年ぶりに再会したお父様の姿に驚くよりも、死んだと思っていた者が生きていたと喜ぶよりも、アランのことの方が大事ですわ。

 だってアランはわたくしの大事な双子の片割れですのよ?


 涙って枯れることがないのですね。

 どれだけ泣いたことでしょうか?

 こんなに泣いた覚えはありませんわ。

 いつだって側でアランが慰めてくれたんですもの。

 涙なんてすぐに止まりましたもの。


「朝食も食べずにまた泣いていたのか」


 暴食の魔王ベルゼブブが食事の台を引いてまいりました。

 お父様の言葉にショックを受けたマリアが姿を眩ませてからずっとベルゼブブがわたくしの世話を焼いております。

 なにを考えているのかわかりませんわ。


「姫。少しは口にしたらどうですか?」


 馴れた様子で新しく持ってきた食事を用意いたします。

 ベルゼブブは屋敷の者になんと言ってここに滞在しているのでしょうか。


 わたくしのことはきっと、暴食の魔王を従えている……さすが金色の魔王の子と噂されているでしょうね。


 わたくしもわたくしですわ。

 ベルゼブブの世話になにも思わないんですもの。

 恐怖も嫌悪も感謝すらなにも感じませんの。

 アランがいなくては感情の起伏すらなくなってしまうのですわ。


「姫」


 ベルゼブブの顔がすぐ目の前にありました。

 わたくしの顎を手に無理矢理に顔を上げさせて、覗き込んでまいります。


「王子は『黒焔の獅子』と一緒にいるんだ。なにも心配はいらないと何度も申しているでしょう」


 ベゼルブブの言葉のなにを信じろというのでしょうか。

 アリスを生け贄に、お父様を金色の魔王へとしたのはこの暴食の魔王ベゼルブブなのです。

 全ての元凶はベゼルブブですわ。


「まあ、一緒にいる相手がアスモデウスでは安心できないでしょうがね」


 色欲の?

 そんなことわたくしが許しませんわ。


「そんなに我を睨んでも状況は変わらないでしょう」


 呆れた様子でベゼルブブはわたくしから離れます。


「食事も摂らず泣いてばかりで、王子が帰って来たときに要らぬ心配をかけるつもりですか?」


 どうやってアランが帰ってくるというのですか。

 レオに連れていかれてしまったんですのよ。

 わたくし一人では『黒焔の獅子』を召喚する術を使うこともできませんのに……

 食事に興味を示さないわたくしの様子にベゼルブブは溜め息を洩らし、まじまじとわたくしを見つめ


「最後に湯浴みをされたのはいつですか?」


 そんなもの……いつでもいいですわ。


「幾ら旅馴れたものといえあなたは王女なのですよ。年頃の娘です。気にされるべきでしょう」


「ひゃッ……」


 冷たいと思ったときには全身がずぶ濡れです。

 頭から水を掛けられ……

 わたくし、ベッドの上にいましたのよ。

 全てが水びだしです。

 

「なにをなさいますの!」


 ベゼルブブは気にする様子もありません。

 生暖かい風がわたくしを包みます。

 仰々しく頭をさげ


「姫がそのようなことでは我が王に叱られます」


 それこそどうでもいいですわ。


「わたくしこのとなど放っておけばいいです……わっ!?」


 ベゼルブブが覆い被さってわたくしをベッドの上に押さえつけ体の自由を奪われます。


「なにをなさるのですか?」


 辛うじて自由になる足で蹴りをいれようにも上手くいかず、氷を出そうにも魔力をも押さえつけられしまっております。


「我は姫のことを心配しているのですよ?」


 ベゼルブブに心配されるようなことはありませんわ。


「これでも7体のどの魔王よりも付き合いは長いのです。乳をしゃぶる赤子の頃より側にいたのです」


 忌々しいことにわたくしたちはこのベゼルブブをただの小犬だと思っておりましたわ。

 アリスの飼い犬という感覚しかありませんでしたの。

 知っていれば直ぐにでも排除したしましたのに……


「心配? あなたが?」


 わたくしの言葉に目を細め、感情などないであろう冷たい声で


「そうですよ。あなたは大事な王女様ですから」


 わたくしはもう王女ではありませんわ。

 レイディエスト王国はもうありませんの……


「他の魔王達だってあなた方双子を大切に思っているのですよ」


 忌々しい……


「……そうですわね。あなた達は正体を隠してわたくし達の世話を楽しんでおりましたものね」


 国を無くし追われるわたくしたち双子を助け育てたのは7体の魔王達でした。

 身を守る術も、旅の仕方も、なにも知らないわたくしたちを導き、魔王の配下へと誘うのでした。

 お父様を奪った者共に下るわけありませんわ。


 どんなに睨み付けてもベゼルブブは涼しい顔をしております。

 疲れますわ……


「どうしてお父様を……お父様は金色の魔王になってしまったのですか?」


 ベゼルブブのわたくしを押さえる手が緩みます。


「なぜ金色の魔王と貶めるのですか?」


 そんなの簡単ですわ。


「世界に仇なすからですわ」


 ベゼルブブがわたくしから体を離します。

 どこか寂しそうに背を向け


「世界に仇なすのは王ではない。王は『黒焔の獅子』よりも上位の者と知っての言葉ですか?」


 なにそれ……


「レオは金色の魔王の配下の……お父様の従者ですの?」


 手が、声が震えますわ。

 わたくしたちは金色の魔王に手を貸してしまったのでしょうか。

 ……アランは本当に無事なのでしょうか?

 心配が増します。


「『黒焔の獅子』は遥か昔より王と共にいるがそういう者ではない」


 それじゃあなんだっていうんですの? 


「レオは『黒焔の獅子』とはなんですか?」


 ベゼルブブはこちらに向き直り頭を下げ


「申し訳ありません。それに対する明確な答えを我は持っておりません」


 白い花びらが部屋の中を舞います。

 これは一体なんでしょうか?

 白い花びらの中に雪の結晶が混じり一ヶ所に集まってまいります。


「ベゼルブブなにをしたのですか?」


 ベゼルブブはなにも答えず景色に溶けるように姿を消しました。

 どうしたらいいのでしょう。

 白い花びらと雪の結晶が光り、人の姿を型どっていきます。

 

 アラン……? 


 この型はアランですわ。

 アランをわたくしが間違えるはずありませんもの。

 光が消えアランが姿を顕にします。

 

「ここは……? ヴィー?」


 アランはいつものアランですわ。

 アランの胸に抱きつくわたくしを優しく支えてくださいます。

 アランもなにが起こっているのかわからないといった顔をしております。

 わたくしもわかりませんわ。

 アランが側にいてくれる。

 それだけでわたくしはなんでもできますの。



クリストファー王にケルベロスとしてベゼルブブ出てきます。あとは生け贄の勇者にもです。

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