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空想の産物 ―アラン―

 レオに隷属の魔術を向けたこの国のお偉い方にヴィーは厳しい処分を求めた。

 それは当然だと思うけどさ、その家族にまで責を負わせようと思うなんていつものヴィーからしたらあり得ない。

 本気でヴィーは怒っている。

 あんな外道な隷属の魔術を使う連中だ。

 そいつ等がどうなろうが構わないと俺だって思うよ。

 でもさ、家族までってやり過ぎだろう。

 気持ちはわからなくはないけどね。

 それにマリアの昔馴染みのマーゴに対しての処分は軽いだろう。

 減俸だけで済むとかキャサリン女史も何を考えているのか……

 レオに対する魔術行使だけでなく、彼女は俺たちから白の書を盗んだんだぞ。

 それを減俸だけでとか……ふざけるなっていうんだ。

 死刑でもこの気持ちが収まるかどうか……

 ヴィーがあからさまに不機嫌な分俺は落ち着いていられる。

 本当はヴィーに負けず劣らずイラついてんだ。


 白の書は俺たち双子が父様から譲り受けた唯一の物。

 まだ、金色の魔王と呼ばれる前の父様との思い出の品、今まで誰も出来なかったこの白の書の解析を任されたんだ。

 まだ10歳にも満たなかった俺たちは父様に認められたような気がしてうれしくて、貰ってすぐは読めもしないページを二人で捲って、日がな一日すごすことも多かった。

 父様が金色の魔王と呼ばれるようになって俺たちはこの白の書の解析に本気で取り組んだ。

 白の書の解析が金色の魔王を倒せる、金色の魔王から父様を取り戻せると信じて……

 今は……今はどうだろう……

 それでも信じてはいる。


 それにしても白の書の文字も読めないマーゴが筆頭魔術師とかこの国はいうほど魔術に精通しているわけではないんだろう。

 ただ世界中の魔術書を集めているだけの国なんじゃないか。

 白の書は難解だけどさ。

 あれくらいだったらマーゴよりマリアの方が魔術師とし優れているんじゃないのか?

 ……マリアも白の書の解析になんの役に立たなかったけど。

 マーゴはレオ『黒焔の獅子』の実力を計りかねるくらいだ。

 それは俺たちがアリスを直接知っているから思うのか。

 

 ヴィーは不機嫌を隠すことなく白の書をキャサリン女史に見せていた。

 ここまでヴィーが他人に感情をむき出しにするとか本当に珍しい。

 よっぽど肝に据えかねたのだろう。

 本気で怒ったヴィーを俺は止められない。

 いや、いつも俺を優先するヴィーだからこそ止めはしない。

 ヴィーだって感情をコントロール出来ない日があってもいいだろう。

 ヴィーはもう少し自由に、俺だけじゃなく自分の事を大事にして欲しいんだ。


 レオのお陰で魔術公国が討伐軍に参加を表明したことは怪我の功名とでもいうのだろうか。

 俺はこの魔術公国は討伐軍に参加拒否かと思っていた。

 公爵、元か、あの人と勇者アリスの確執は有名だったしな。

 そんな男が息子のアシュリーに力を貸すとは思えなかったからレオにはお礼をした方がいいんじゃないか。


「この一文が『黒焔の獅子』ですか? ……こんな複雑に書かれているなんて……」


 キャサリン女史は『黒焔の獅子』と書かれている文をなぞっていた。

 それをその一言を理解するだけで俺たちはかなりの時間を使った。

 『黒焔の獅子』の召喚は何度も失敗した。

 白の書はページを捲る度に文字が変化しているように感じるときがあるんだ。

 そんな不思議なことあるわけないのにさ。

 レオの名を見つけられたのだって本当に最近なんだ。

 幾ら術を試しても召喚出来なくて、魔力ばかり使って、あの頃は一日に一度試すことが出きればいい方だった。

 魔力が尽きて立てなくなることもあった。

 今だって『黒焔の獅子』の召喚は完璧だとは思っていない。

 召喚における魔力消費量はなくなったに等しいが、あんな勝手に振る舞う召喚獣とか聞いたことがない。

 『黒焔の獅子』の姿でいることは殆どなく、人型で過ごすことが多いし、格好だっていつも同じとは限らないしな。

 それはどうでもいいけど。

 でも不思議だ。

 裸足で来て、靴を要求された時はびっくりした。

 あまりにも人間臭くてレオが聖獣であることを忘れてしまう。

 俺たちがレオを制御出来ないせいで被害を拡大させてしまったこともある。

 だからってレオを隷属させようと思ったことはなかった。

 そもそも思い付くことがおかしいだろ。

 あ……腹立ってきた。

 

「『黒焔の獅子』がいるんですものここにある『白の魔女』『……竜』こちらの聖獣もいると思うんですの」


 ヴィーは白の書のページを捲る。


「『白の魔女』? そんな空想の産物が存在するとは思えません」


 キャサリン女史が言うことはもっともだ。

 だけど、俺たちはお伽噺の存在だった『黒焔の獅子』の召喚に成功したんだ。

 実在した。

 同じように空想上のお伽噺に出てくる『白の魔女』だっているはずだ。

 俺たちが目を通したどの魔術書にも『黒焔の獅子』も『白の魔女』も出てこなかった。

 この魔術公国なら『黒焔の獅子』『白の魔女』のなにか手掛かりがあるんじゃないか。

 金色の魔王を倒すための力が欲しいんだ。


「キャサリン女史は魔術書などに『白の魔女』に関するものを見たことはないか?」 

  

 魔術公国を治めようとする彼女だからこそ一般人が読むことの出来ないものだって目を通すことがあると思うんだ。

 彼女は何かを考えるように顎を指に乗せた。


「関するものって……児童書くらいしか見たことがありませんけど……」


 それは誰でもそうだろう。

 教科書にだって『白の魔女』は載っていた。

 誰でも知っている。

 でも、ここは魔術公国だろ? なにかしら『白の魔女』に関する記述があってもいいと思うんだ。

 この国は世界中から魔術書を集めているっていうじゃないか。

 ここ以上に白の書に書かれていることを調べるに適している場はないんだ。

 

「レオに聞くのはどうなんですか? だって彼は『黒焔の獅子』じゃないですか」


「アシュリー。マリアたちはどうしたのですか?」


 アシュリーはマリアとマーゴの二人と自身のあの変な魔術を解明するんじゃなかったのか。

 なんでここにいるんだ。

 ……もう終わった? あの変な魔術の解明がそんな簡単に終わるか?

 魔術師と自ら名乗るくらいになれば新しい魔術の解明は片手間にできるようなものか?


「二人の世界に入ってしまって……僕には難しいことばかり話しているよ」


 マリアが? 珍しいことも在るもんだ。

 マリアにも自分の世界ってものがあるんだな。

 ……以外だ。


「そうですわ。『黒焔の獅子』に直接聞いたことはあるんですか?」


 ヴィーと目が合った。

 俺と同じように考え付かなったようだ。

 本当に思い付かなかった。

 だってあいつ、全然聖獣らしくないじゃん。

 人型しか知らなければ聖獣とは誰も思わないだろう。

 レオ自身が『黒焔の獅子』だということを理解していなかったし。

 今だって理解しているのか怪しいとこがある。

 大体あいつ、魔術が使えないとかいうんだ。

 ふざけてるだろ。


「レオが『白の魔女』を知っているとは思えませんわ」


 俺もヴィーと同じだ。

 あいつが知っているわけない。

 

「『黒焔の獅子』と『白の魔女』は対に語られることも多いですわ。なにか知っていてもおかしくないのでは?」


 普通に考えればキャサリン女史の言うことはもっともだと思うが、俺たちは思い付きもしなかった。

 どうして思い付かなかったんだろう。


「ねぇ、ヴィクトリア」


 唾の広い帽子から真っ赤な唇を覗かせる女がヴィーの側に立っていた。

 いつそこに来たのか、いや、現れたのは嫉妬の魔王レヴィアタン。

 レヴィアタンはその細い腕のどこにあるのかという力でヴィーの首を掴み、掲げた。


「いい気になっているんじゃなくて? ヴィクトリア様。お姫様。姫君。姫……」


 ヴィーは息苦しさに顔を歪め少しでも苦しさから逃れようとレヴィアタンの手を緩めようと必死にもがいていた。

 俺もヴィーを助けようと炎を投げつけるも届く前にかき消される。

  

「あなたは人に敬われるような人ではないのよ」


 アシュリーが斬りつけるもその衣装に刃が通ることもなく、弾かれた。

 

 くそっ


 ヴィーがこのままじゃ……なにも出来ないのか?

なにも出来ないままでたまるか。

炎を再び起こし斬りつけると同時には爆ぜさせるも、剣は届かず炎は目眩ましにもならない。

アシュリーの攻撃も影を斬るばかりでレヴィアタンに届く様子もない。


「あのお方と同じ金の髪もアラン王子とよく似た青い目もあなたには分不相応だわ」


 ヴィーは氷をレヴィアタンに向けるが力を示す前に解け消えた。


「立場を弁えぬ卑しい者があのお方の娘であるはずが……」


 ヴィーの氷が再び再構築され、同じように消されるも、氷に紛れたナイフがレヴィアタンの頬を裂いた。

 一瞬の隙を作ってもらえたお陰で俺は剣を払いヴィーをレヴィアタンの手から解放出来た。

 咳き込むヴィーの背中を擦りながらレヴィアタンを睨み付けた。


「アラン王子……そんな卑しい者に情けをかける必要はくてよ」


 ヴィーに傷つけられた頬を撫でるとレヴィアタンの頬は元のなにもなかった肌に戻った。


「嫉妬程……醜いものはないですわ」


 ヴィーの挑発にレヴィアタンはその紫の目を光らせる。


「変な挑発しいないでください!」


 キャサリン女史を逃がしたアシュリーが俺たちを庇うように前に立った。

 俺はアシュリーに守られるほど弱くはない。

 守られるだけの王子様はやってないんだよ。

 炎をレヴィアタンに向けるが簡単に払われてしまうが、炎に紛れたアシュリーが一太刀入れられた。

 怪しく光る紫色の光線がアシュリーを狙うも、アシュリーの剣が弾く。


「うわっ……」


 剣が弾け砕けた。

 ヴィーがアシュリーに自身の剣を渡し、氷をレヴィアタンに投げた。


「そんなもの」


 レヴィアタンは嘲笑うように手を払い氷を砕いた。

 息を整えたヴィーは頷き、俺たちは声を重ねた。


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