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タイガの森の狩り暮らし〜契約夫婦と東欧ごはん〜  作者: 江本マシメサ


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都にて その四

 翌日より、相方を薬師に変えて謎の調査を行う。オリガは大事を取り、宿で留守番となった。


 まず、時計塔に向かう。


「九時の方向とあるが、川しかねえし」

「なるほど。時計塔の影、九時の方向、ですか」


 ミハイルは時計塔を見上げたが、ちょうど太陽が昇って来ている位置とルビーの星が重なってまばゆい光を放っているところだった。


「うわっ、眩しっ!」


 顔を逸らした先を見て、ミハイルはハッとなる。時計塔の星が、影となってある物を差し示しているように見えたのだ。同時に、薬師も気付いたようである。


「これが、九時の方向の時計塔の影、みたいですね」

「爺さん、時計塔の影が差しているアレは――?」

「皇帝の御所ですね。ちなみに、今は封鎖されていて入れませんが」

「そうか……」


 とりあえず、時計塔の謎は皇帝の御所を示していることがわかった。

 続いて、宝石商の曲がり角を目指す。


「これも意味がわかんねえんだよな」

「確かに……」


 曲がり角の先にある石壁には何もない。文字が彫られている可能性もあったが、どれもそのような形跡はなかった。困り果てた薬師は、店内に入る。


「いらっしゃいませ」

「すみません、質問したいのですが――」


 薬師は問う。かつて、店の曲がり角に何かあったかと。


「ええ、皇帝御用達の看板がございましたよ」


 なんでも、皇帝の悪評が広がり、店にも石が投げ込まれる事態となったので外していたらしい。現物を見せてもらう。

 看板には、店名と湖、それから女神の横顔があった。


「こちらの女神は?」


 言いにくそうにしたあと、こっそりと耳打ちした。


「ああ、なるほど。ふむ。ありがとうございます」

「いえいえ」


 一人、薬師は納得していた。店を出たあと、ミハイルは何かわかったのかと問いかけた。


「お宝の在処が判明しましたよ」

「え!?」


 残る場所には、行かなくてもわかるらしい。

「あんた、すげえな」

「いえいえ、皇帝に近かった私だからこそ、わかったことでして」


 馬車で向かった先は――墓所だった。墓守はおらず、人の気配はまったくない。迷うことなくまっすぐ向かったのは、とある女性の墓。手入れされておらず、墓石には蔦が巻き付いていた。


「これは……?」

「皇帝陛下の愛人の一人です」


 下働きとして宮殿に出仕していた下級貴族だったが、皇帝の寵愛を受けていたという。


「しかしまあ、皇后の嫉妬を買いましてね。殺されてしまったのですよ。このような事件が起きたと判明したら、皇族の評判も地に墜ちてしまう。よって、この方は秘密裏に埋葬されてしまったのです」


 当然ながら、親族は納得しない。そこで皇帝はこっそりと、愛人の像を女神に仕立てて公園に置いた。その話を、先ほど宝石商から聞いたのだ。


「私も、皇帝がこのようなことをしていたとは、知りませんでした」

「そうか……。噴水の嘆きは?」

「彼女は水死でした。噴水の水で、溺死したのです。私が検死をしたので、覚えています」


 時計塔の影、九時の方向――宝石商の曲がり角――女神の涙――噴水の嘆き。


「この四つが示す場所は、ここしかありません」


 薬師は先ほど買った柄の長いスコップで、墓を発きだす。


「え、おい、何を……!」

「安心してください。ここに、亡骸は埋まっていないので」

「そ、そうなのか……?」

「ええ。皇帝が引き取って……どこにあるかまでは」


 薬師に代わって、ミハイルが墓を掘る。途中で腕まくりをしつつ、額に汗をかきながら土を掻き出した。一メートル掘ったあと、カツンと硬い物に当たった。


「当たり、ですね」

「良かった。早めに見つかって……」


 埋まっていた缶を取り出した。それは、手のひらくらいで、蓋の部分は水が入らないように、蝋で固めていた。


「厳重だな」

「アンドレイらしい、丁寧なお仕事です」


 穴を埋めて、身なりを整える。開封はオリガと共にしたほうがいいと思い、宿に戻ることにした。

 ◇◇◇


「これが、父の――」


 オリガは父アンドレイが遺した缶を前に、困惑の表情を浮かべている。なぜ、ここまでして隠していたのか、わからない。


「オーリ、とりあえず、開けてみますか?」

「ああ」

「開封は俺がする」


 缶の蓋を覆っている蝋を、蝋燭に点っていた火で炙って溶かしていく。途中からナイフで削ぎ、蓋を開いた。


「これは――」


 中に入っていたのは、布に包まれた何かと、一通の手紙。

 オリガは包まれていた布を取る。それはフルール・ド・リス――百合の花を模した王家の紋章を首飾りにしたものであった。

 いっさいの曇りのない銀細工で、裏に『シャルロッテ王女、ここに誕生す』という文字が刻まれている。紛うことなき、オリガの出生と身分を示すものであった。

 手紙だと思っていた物には、シャルロッテ王女に関する書類が収められている。


「オリガが王女であるという、証みたいだな」


 まるで、生まれ故郷に戻れるように手配を整えているように見える。


「オーリが別の道を選べるように、アンドレイは準備をしていたのですね」

「そんなことを……」


 オリガは首を横に振り、フルール・ド・リスの首飾りを薬師へと差し出す。


「私は、王女ではない。針葉樹林タイガの森に生きる、ただの村人だ」

「いいのですか?」


 オリガはこくんと頷いた。


 こうして、都での目的は果たされた。

 夫婦と薬師は、針葉樹林タイガの森へと帰って行く。

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