鳥撃ち(シューティング)
発砲した弾は、見事鳥を撃ち落とすことに成功した。
「よっし!」
すぐに、サーヴァは猟犬に回収を命じる。
垂れ耳の大型犬は草むらから飛び出し、畑の柵をすんなりと飛び越えて、地面に落下した鳥を咥えて帰って来た。
「よーしよしよし、偉いぞ」
サーヴァはご褒美の干し肉を与えながら、ぐしゃぐしゃに頭を撫でて褒めていた。
この猟犬は回収を専門にしている。湖に落とした獲物も喜んでシャブジャブと泳いで取りに行く。
獲った獲物は可能であればすぐ解体したほうが良い。
「解体を急ぐ理由は肉の汚染もあるが、腸にガスが溜まりやすいから、時間を置くと破裂することがある」
「怖えな」
サーヴァは野鳥の腸や内臓を抜き、さらに首を切り落とす。両足を縄で縛って、木に吊るして血抜きしていた。
再度、草むらに潜んで獲物を待つ。
「いいか、ミーシャ。判断に迷ったら、絶対に撃つな。いいことはない」
鳥撃ちの方法を教える前に、サーヴァは諭すように言う。以前、オリガからも似たようなことを言われたことがあった。深々と頷く。
銃の構えから、撃つ機会、風の読み方。
これも、だいたいオリガに習ったことがあったが、実際に獲物を待ちながら聞くとイメージが掴みやすい。
何度か、オリガと『狩猟ごっこ』をしたことがある。
屋根の上にオリガが上り、丸めた古雑巾を投げ、それをミハイルが撃ち落とすという遊びだ。
なかなか難しかったが、何回かするうちに、当たるようになった。
オリガはさすがと言えばいいのか、ミハイルが投げた物はすべて撃ち落としていた。
「あ、ムクドリは撃つなよ? 畑の害虫を食う鳥なんだ」
嘴と足は黄色。羽根は黒で、体は灰色。その鳥は撃たないでくれと、緑星の村の農家からも言われているらしい。
「ムクドリは野性味が強くて、あまり美味くないし、文句は言われるし良いことないからな」
「いや、ムクドリの実物を見ないと判断できねえよ」
「それもそうだ。空を飛ぶ鳥だって、咄嗟に判断できるもんじゃない」
もしも撃ち取ってしまったら、運がなかったと思い、正直に申告するように言われた。
サーヴァは次の鳥はミハイルに撃つようにと勧めた。
「胴は肉が激しく破損するし、弾抜きも面倒で母ちゃんに怒られるから、首を狙えよ」
「難しいっての」
ミハイルは地面に尻をつき、足を広げた体勢で銃を構えた。
青い空に銃口を向ける。
「――来たな」
一羽の鳥が畑に向かって飛んできた。
サーヴァが銃の位置を修正してくれる。
「いいか、まだだ。……まだ。……まだだ」
ごくりと、生唾を呑み込む。
視線の先には橙色の綺麗な鳥があった。翼をはためかせ、畑に降り立とうと高度を下げる。
「よし、今だ!!」
サーヴァが言ってすぐ、ミハイルは引き金を引いた。
パァン! と乾いた発砲音が響き渡る。
橙色の鳥はパラリと羽根を散らせ、ガクリと急に角度を下げて地に落ちて行った。
「やった……?」
「おお、見事だ。偉いぞ、ミーシャ!」
サーヴァは「よーしよしよし」と言って、呆然とするミハイルの頭を撫でる。
ここで、やっと我に返った。
「あ、その手、さっき犬撫でた手だろう?」
「そうだけど、うちの犬は綺麗なんだ」
「嘘吐け! さっき泥遊びをしてたじゃねえか」
サーヴァとじゃれている間に、回収犬はミハイルが撃ち落とした鳥を咥えて帰って来た。
ミハイルは犬に干し肉を与え、頭を撫でて褒める。
「ミーシャ、大した腕じゃないか」
「さっきのはサーヴァの誘導があったから」
「じゃあ、今度は自分で撃てるようにならないとな」
その後、ミハイルとサーヴァは交互に撃った。
結果、昼までに二十羽ほど仕留める。
「ここの畑、渡り鳥に大人気だったんだな」
「こんだけ頻繁に飛来していたら、畑の草花もたまったもんじゃねえ」
ひっきりなしに飛んで来ていた鳥であったが、最後の三十分くらいはまったく姿を現さなくなった。
「警戒したんだな。ま、これでしばらくは大丈夫だろ」
後片付けをしていたら、ニーカが走ってやって来る。
「叔父さ~ん、昼食ができたってきゃあ!!」
元気よく、手を振って走って来たニーカであったが、木々に吊るされた首なしの鳥の姿を見て、飛び上がるほど驚愕していた。
地面に滴る血を見ると、再度驚く。
「なっ、ななっ!」
「悪いな、ニーカ。驚かせて」
サーヴァは吊るしていた鳥を回収し、革袋に入れる。ミハイルは剣鉈で地面を掘り起こし、血を埋めた。
本日は大猟であった。ミハイルの取り分は五羽。
「ミーシャ、自分で撃ち獲った分は持って帰れ」
「いいのか?」
「ああ。持ってけ。ま、胴に被弾したやつもあるから、食えないかもしれんがな」
「いや、いい」
初めての獲物の重みを、ミハイルは手の平に感じる。
命を奪った。だから、全部食べる。そう誓った。
「綺麗な分は売れるから、あれだったら交渉してやる」
「ああ、そうだな」
五羽のうち、二羽は首を弾が貫通して損傷もなかった。そういうものは売り物になる。
村に戻り、イーゴリに仕留めた鳥を見せる。
すると、籠いっぱいのジャガイモ二箱に、小麦粉三袋が手渡される。
ミハイルの取り分は、ジャガイモ箱半分に、小麦粉が一袋。
「俺ももらえるのか?」
「おうよ。お前、頑張ったろ。持って帰って嫁さんを喜ばせるといい」
「サーヴァ、ありがとう」
思いがけず、たくさんの野菜や小麦粉を得ることができた。
オリガは喜んでくれるだろうか。
家に帰るのが楽しみになる。
「あ、でも、獲物と野菜は交換じゃないのか?」
「依頼は害獣退治だからな。仕留めた獲物は俺達のものだ」
「なるほど」
そういう決まりで契約が交わされていると言う。
そんな話をしていたら、老婆が近付いて来る。
「お兄さん、それは野鳥かい?」
「ああ、そうだけど」
革袋から取り出し、お尻から胴にかけてを見せる。小柄だが、毛艶の良い鳥だ。先ほど、ニーカが怖がっていたので、首の辺りは見えないようにする。
「おや、美味しそうな鳥だねえ。このニンジンやタマネギと交換してくれないかい?」
革袋の中には、ニンジン六本、小振りのタマネギが十個ほど入っていた。
ミハイルはサーヴァを見る。すぐに頷いていた。正当な取引であることがわかったので、すぐさま応じる。
サーヴァも数名の村人と物々交換をしていた。
その後、イーゴリの家で昼食を食べて帰る。
昼食後、イーゴリの子ども達に村案内をしてもらいつつ、村で買い物をする。香辛料や茶など、買い込んだ。
あっという間に、陽が暮れてしまう。
ニーカが見送りをしてくれた。
「叔父さん、旦那様のこと、よろしくね!」
「わかった、わかった」
手をぶんぶんと振るニーカに、サーヴァは苦笑する。
馬に跨り、緑星の村をあとにした。
「いやあ、まいった」
「姪の旦那探しか?」
「そうなんだが」
ここだけの話だと前置きをしてから話しだす。
「ニーカは青星の村に嫁いでくる話になっているんだ」
明るく元気で、大人しい者が多い青星の村が活気づけばと思い、父親のイーゴリと話し合っていた。本人も承知していた。
「だが、ニーカの希望が、童話に出てくる王子様みたいな人って……いるわけないのに」
はあと、盛大な溜息を吐いている。
村の若者は地味な顔立ちの者が多い。どうしたものかと、頭を悩ませているという。
「相手は、ロジオンがいいかなって思っているのだが」
「ああ~、いいかも」
「だろ?」
お調子者どうし、気が合うのではとサーヴァは話す。
しかし、ロジオンはどう頑張っても、王子様のようには見えない。
ミハイルはある提案をしてみた。
「いっそのこと、ニーカを村で預かって、『仕立屋 愛しきヴェローニカ』で働かせればいいんじゃねえか?」
「あ~~、ありかもな。共に過ごす中で芽生える愛。芽生えなかったら、また別の奴を探せばいいし、どうせ青星の村の者になるんだったら、慣れるのもいいだろう」
ロジオンはミハイルとオリガの新婚生活をずっと羨ましがっていた。
もうすぐ十八歳になるというので、結婚適齢期にもなる。
「――あ」
「ミーシャ、どうした」
「いや、俺も十八になっていたなと思って」
「誕生日、いつだったんだ?」
「知らねえ。でも、春生まれだって」
「ザックリだな」
「適当なんだよ、あの人は」
そんな話をしながら、春の森の中を進んで行った。
途中でサーヴァと別れ、ミハイルは帰宅を果たす。
馬から降りて、塀を潜る。
辺りはすっかり暗くなっていたが、家の中には灯りが点いていた。
そして、辺りにはスープのいい匂いが漂っている。
馬を厩に連れて行って、玄関の前の階段を駆けあがって行ったら、扉が触れる前に開いた。
家の中から灯りが漏れてくるのと同時に、オリガがひょっこりと顔を覗かせた。
「おかえりなさい、ミーシャ」
笑顔で出迎えてくれたオリガの顔を見て、ホッとしたのと同時に泣きそうになる。
家に灯りが点っていて、美味しそうなスープの匂いがする。それは、彼が夢見た家族の待つ温かな家だった。
ぐっと涙を堪えて、ミハイルは返した。
「オーリ、ただいま」




