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廓雲と扇の剣士  作者: 実茂 譲
第五話 扇探偵と長崎の騎士
79/611

五の十七

 くそっ。

 かつての密談者は舌打ちをする。

 騎士たちは波止場の船を全部調べている。民間人が桟橋に入れないように人の壁をつくっていた。主だった騎士団幹部が集まり、港湾官吏を詰問している。

 殺されたかつての密談相手――外務長官の高間崎尚之を見下ろす。小舟の船底にうつ伏せで倒れている。副総長のときと同じで心臓に一本短剣が刺さっている。ただし、今回は背中から刺されていた。頭と左の足が舟の舷側に押しつけるようにして、もたれかかっている。

 高間崎は漁師に化けて、島から逃げるつもりだったらしい。そういえば、この朝から姿を見なかった。望月が殺され、副総長が殺されてから、ずっと誰かが自分たちの阿片の密貿易を知っていて、それがもとで命を狙われていると信じていた。昨日までは平静を装うことができていたが、ついに限界が来たのだ。

 生前、あれだけ服装にうるさい男が、古くなった印半纏とツギハギだらけの股引を穿き、自慢の口髭を落とし、髪を五分刈にしてほっかむりをした状態で死んでいるのはまったくもって皮肉としか言いようがない。

 だが、最悪なのは逃走資金にするつもりで、島に隠してある阿片の一部を持ち出したことだ。

 あれだけよせと言ったのに。馬鹿め。

 高間崎の用意した小舟の船底には手毬大の大きさに丸めた阿片の玉が五十個ぎっちり詰まっていた。

 これで阿片のことが明るみに出た。騎士団は重い腰を上げて、捜査を開始するだろう。

 騎士団はこのことを伏せて、秘密捜査にかける。望月商会は帳簿の提出を求められ、運んだ船荷と実際に倉庫に入った積荷、売却した積荷の行方を追って、そのうち積荷の数が帳簿上の数字と実際に運んだ数字で異なることに気がつくに違いない。

 そうなれば、捜査の手は遅かれ早かれ自分に及ぶ。

 もう四の五の言ってはいられない。

 高間崎のせいで、今度は自分が逃げる番だ。

 ただし、持っていく阿片は五十ではない。

 全部を持って逃げる。

 使える人員は十人。なんとか今夜までに積み込めるだろう。

 願わくば、阿片の隠し場所が誰にも知られていないことだ。

 特に副総長と高間崎を殺した真犯人には……

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