三十の二
六人は軍人のようだった。階級章や所属部隊を示す徽章が剥ぎ取られていて、少年刑務所の壁際に思い思いの格好で倒れていた。流れる血潮は小さな排水溝へと集まって、ゴボゴボと音を立てながら死者の罪を洗った。ヤマトの首都である奈良ではいつもどこかで銃殺刑の一斉射撃が鳴り響いていた。国政を牛耳っていた執政院のお偉方は一部は公開裁判と公開処刑のためにとっておかれ、残りはさっさと銃殺した。大物は軒並み蜂の巣にされたから、今撃たれているのは比較的小物だった。建物は革命軍と連合軍によって占領され、まだ逃走中である政府幹部を追って部隊をあちこちに走らせていた。
高杉晋作率いる革命軍の本部はとある材木商の建物を接収していた。ヤマトの主な寺院に檜材を供給していた会社であり、もう材木は運び出され、野戦築城に使われていたが、木材の切断面から香る木の落ち着くような匂いがまだあちこちに残っていた。
扇は運搬用の蒸気機関にもたれて煙草を吸っている民兵に高杉晋作か老将軍に会いたいとたずねた。
「老将軍?」
「いつも高杉晋作のそばにいるやつだ。確か、名字は柳といった」
「もうちょっと待つんだな。いま裁判の最中だ」
裁判は材木商が持つ倉庫のなかで行われていた。判事役の革命家も被告も傍聴人もみな椅子のかわりに切った丸太に座っていた。傍聴人のほとんどは独裁政権の悪党たちが生きたまま回転ノコギリに両断されることを期待してやってきていたが、倉庫の隅で銃殺隊が気だるそうに判決を待っているのを見て、がっかりした。
裁かれている被告は〈機関〉の最高責任者だった。白い髭の老人で判事を含めた全員がうちわでぱたぱた自分の顔を扇ぐほど蒸し暑いにも関わらず、フロックコートを着こみ、固くて窮屈な襟に面白みのないネクタイを結んで、汗ひとつかかずに座っていた。あんまり堂々としているので、暗殺団の首領というよりは避暑地に出かけたギリシャ王国の陸軍元帥のように見えた。
判事は五人いて、右から二番目の席に高杉晋作が、一番右端に老将軍が座っていた。革命家の正装である弾薬ベルトを斜にかけ、モーゼル銃を後ろの壁に立てかけた判事たちは被告がしゃべっているあいだ、ときどき手元の紙をめくっていた。被告の悪行を記した報告書か年齢による情状酌量を求めた嘆願書かは知らないが、被告が歳のいかない子どもたちを暗殺者として育成し、見込みのない子どもたちは処分したという話をきく上で、手元の紙は役に立つらしく、高杉晋作も五秒に一度は手元の紙に視線を落とした。紙を一度もめくらなかったのは老将軍だけだった。相変わらず何を考えているのか分からない顔をして、被告席の老人が自己弁護をしている様子をじっと眺めていた。
被告は雄弁だった。暗殺者を育てたのは上からの命令だったと繰り返し、反逆者を討伐するための組織をつくっただけだと言い張った。〈鉛〉に肉親や親友を殺されたものは傍聴人席に少なからずいたし、判事のなかにもいたのだが、判決は終身刑に傾きかけていた。死刑にするより、一生償わせたほうがいいと思い始めたのだ。
高杉晋作と老将軍は腕を組んで、公判の行く末を見守っていた。だが、被告が子どもたちは捨て子でどのみち暗殺者になるしか能がなく、普通の暮らしなどできなかったのだ、と言ったとき、老将軍が立ち上がって、それは違うと吠えた。
扇が知る限り、老将軍は扇以上に口数の少ない男でだんまりにかけては紫苑といい勝負だった。その老将軍が立ち上がり、被告をはっきり指差して言ったのだ。
「子どもたちはなんにでもなれた。可能性に満ちていた。それをお前が台無しにしたのだ。この男は死刑にならなければいけない。なぜなら、この男は生きている限り、またやるからだ。子どもたちを殺し屋に育てようとするからだ。たとえ、重病を患って、右手の小指だけしか動かせない体になったとしても、この男は子どもを殺し屋にしようとあらゆる努力をする。だから、おれはこの男に死刑を宣告する。異議のあるものはいま言ってくれ」
そう言いながら、老将軍が弾薬ベルトから銀色に輝く六連発拳銃を抜いた。異議は出なかった。被告は老将軍の憎悪に燃える目を見て、自分の運命が定まったことを知った。何をしても無駄だと観念した。老将軍は被告の胸ぐらをつかんで床へ引き倒し、こめかみに銃口を押し当てて引き金を引いた。




