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廓雲と扇の剣士  作者: 実茂 譲
第二十九話 是永の扇と刀狩りの国
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二十九の二十九

 扇が少しでもいいから仮眠が取りたいと思い、二の坂の外れにあった廃屋に潜り込もうとすると、そこには七代目藤原是永がいた。回転ノコギリ銃剣をじっと眺めていたが、扇に気づくと、力なく笑った。

「このポンコツが第三の剣なら気も楽なんだが」

「違うのか?」

「違うね。これはただのノコギリだ。これをふりまわすのは戦いというより農作業だよ。草刈りにもってこいだ。屯田兵に持たせるのがいいのかもしれない」

「じゃあ、第三の剣というのは?」

「古来より作刀に宿る霊力と西欧の産業化した作刀の融合とでもいえばいいのかな。わたしも一時はそれの鍛刀を志したことはあったが」

「あったが?」

「やめたよ。ろくなものが出来上がらないことが分かった。その際にまとめた資料はあの宇喜多って大佐に全て取られた。第三の剣の製作には核になる刀が必要だが、わたしがあの工場から解放される前日、それが手に入ったと言っていた」

「その刀は普通の刀じゃダメなのか?」

「霊力豊富なものでなければいけない。心当たりがあるのかい?」

 扇は白神神社の千鶴が寿のためにつくった短刀のことを話した。

「間違いなく核はそれだ。そうか、宇喜多大佐はもう手に入れたのか」

「手に入れたら、どうなる?」

「第三の剣の製作はぐんとはかどるだろうね。ただ、第三の剣を制作するということは人間をやめるということだ」

「人間を――やめる?」

「ヒトデナシになるとか、そういう意味ではない。本当に人間ではなくなるのだ」

 扇はその後、眠りについたが、七代目是永の言ったことが気になって夢にまで出てきた。目覚めると同時にきれいに忘れ去られたが、夢のなかで扇は、人を斬るたびに成長する刀とその刀に魅入られた辻斬りを眺めていた。これは夢なのだなとはっきりわかっていたが、辻斬りが女子どもの区別なく人を斬るたびに刃の表面にどすぐろい血管が波打ち、少しずつ厚金になっていく。そのうち辻斬りがふるえなくなるくらい重く、大きくなると刀は辻斬りを吸収してしまい、ますます肥え太っていった。たるんだ鋼は転がりながら、人を斬ってますます脹れていた。夢だと分かっていても、ひどく不快であり、はやく目覚めてしまいたかったが、それもできないまま、刀そのものまで食べるようになった化け物をただ見ているしかできなかった。

 目が覚めたとき、是永はいなかった。外は晴れていたが、どのくらい寝たのか分からない。ひょっとすると、軍のほうが扇を必要とせずたっぷり眠らせたのかもしれないと思ったが、どうもまだ眠気が払えない。泥まみれの冷たい衣服が重たくて、縫合された背中は鋭い魚の歯が食い込んだみたいに痛む。

 外に出ると、抜刀迅雷隊を探して、あちこち見てまわった。昨晩、両軍がいたずらに兵を投入した場所は主戦場から外れ、今は挽肉坂と名を変えた光忠坂の三の坂まで長船軍は迫っていた。砲弾が尾根でひっきりなしに爆発し、政府軍兵士がちぎれ飛んでいる。長船兵はばらけて坂を上っていて、そこに陶器でできた手投げ爆弾を両手に持って、塹壕や洞窟へ放り込んでいた。

 そこで扇は自分の眼を疑った。七代目是永が散歩でもするようにステッキを片手に前線を敵のほうへと歩いていた。弾丸は奇跡の連続できわどいところを飛びぬけていたが、尾根についたとき、横穴のような小屋からサーベルをかざした士官が出てきた。扇が投げ槍のように着剣済みのミニエ銃を投げなければ、是永は真っ二つになっていただろう。銃剣は士官の背中を貫き、そのままうつぶせに倒れた。

「あんた、死にたいのか? はやく戻れ!」

「どうして?」

「まだ敵が――」

 いなかった。尾根の向こうには放棄された怪我人と荷車、壊れた蒸気装甲車のほかには何もなかった。扇は自分が銃剣を投げつけた士官のほうを見ると、その老士官の肩に将軍用の金モールが下がっているのを見つけたのだった。

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