二の十六
千葉荘から届いた電報にフランス人は歓喜した。彼はナポレオン三世風にのばしたインチキくさい鬚を目いっぱいひねると、陸上巡洋艦で銚子を発った。ドイツ人とオーストリア人とアメリカ人がそれを羨ましげに見送っている。イギリス人の大砲屋は生まれつき顔面に染み込んだ冷笑を引き攣らせていた。ざまあみろ。撒いた種がついにとうとう芽吹いたのだ。あの黒い服を着た目つきの鋭い少年から届いた電報によると、千葉の豪族が彼の売り物に非常に興味を示しているとのこと。
イギリスからやってきたラングデイル氏はあんな少年に陸上巡洋艦のセールスを仕掛けるなど愚の骨頂だと非常に遠まわしなイギリス風レトリックでなじってみせたが、大切なのはレトリックではなく、セールスの実績であり、実績を築き上げるのはたとえかすかであってもあらゆるものに対してコネクションを作る努力なのだ。いくら自分の国が世界で最も強い大英海軍を持っているからと言って、客がフラフラと自分のところに舞い込むのを待っているようでは良い武器商人とは言えない。これだけの商機が転がっている土地ではむしろ押しの一手こそが契約成立の道なのだ。
電報には三日で到着すると返事を打ったが、もう少し早く到着できないかとフランス人は考えた。陸上戦艦ならともかく陸上巡洋艦であれば、機動性も売りにすべきだろう。そこで艦長と協議した結果、サン・タルノー級陸上巡洋艦は通行可能かつ地上建造物に損害を与えないで済む道を選ばず、真っ直ぐ目的地に向かうこととした。これで一日半の節約になり、客の心証も非常によいものとなろう。
クリミア戦争中にコレラで死んだ元帥の名を冠する鉄の軍艦は牧場、小川、小道、茅葺きの百姓家とスイカ畑を踏み潰し、埋めるのも大変なキャタピラの刻み目をつけていった。領地を荒らされた地元の豪族とは当然小競り合いになったが、副砲の一発で豪族たちの蒸気要塞は鉄の脚を吹き飛ばされ、みじめにひっくり返っていった。
敵要塞一基を撃滅するごとに赤ワインの配給が一杯増えたので、フランス人水兵たちはもっとつぶせる要塞はないかと観測気球を飛ばし、目を皿にして敵の姿を探した。その結果、長沼氏の分家で今はすっかり盗賊と化した加田通右衛門一味を見つけたので、水兵たちは艦長を説得して、その撃滅に向かい、砦と蒸気要塞を粉砕した。
千葉に着いたのは電報をもらってから三十七時間後の午前十一時、気持ちよい晴れ空の日のことだった。
千葉の町が見え、それを守る堡塁のように蒸気要塞が四基、そして町の向こうの奥まった場所に千胤城が見えた。
フランス人は艦長に祝砲を撃つよう頼み、全砲門を開き二十一発の空砲をぶっ放した。
町をびりびりと震わせる砲声で千葉の町では大混乱だった。魚売りの天秤棒から落ちた鯉が飛び跳ね、人形屋の飾り棚がガラガラッと崩れて、鞠を持った少女や歌合いをする貴族の人形が表の土間のほうまで転がった。
侍たちの早馬や蒸気自動車があちこち走りまわり、町人に対して、家に避難しろと布令が出て、電信所は町を守る四つの蒸気要塞に対して、北東へ三里の位置に現われた所属不明の陸上軍艦を牽制できる位置まで至急移動するように電報を打った。四基の蒸気要塞は温泉でも湧き出したように派手に白い蒸気を建てて、巨大な車輪を動かし、謎の軍艦のもとへ向かう。
千胤城では総員戦闘配置の汽笛が鳴り、砲兵隊長が各砲を配置させた砲郭にそれぞれ砲弾と砲身洗浄用の水を用意させ、おそらく砲撃が始まれば、各砲郭は硝煙が充満し、目が痛くなり喉も渇くであろうから、竹筒水筒に飲み水を入れられるだけ入れるよう命じた。
砲兵隊長のもとを常姫――将官用の二列ボタンの軍服姿――がやっていた。
「砲弾の備蓄はどれだけある?」
「一〇〇ポンド砲が五十発、三六ポンド砲が千発です。しかし、あれだけの軍艦を相手に本格的な砲撃戦をするとなると、二日と持ちますまい」
「射程では?」
「こちらも負けていません」
「わかった。そのまま警戒し、射撃命令を待て」
「わかりました」
常姫は天守閣に戻り、気送菅やラッパ型の送話管を通して指示を与え、城の各砲郭や銃舎に警戒命令と合図があるまでの発砲を控えさせる。
天守の廻縁から欄干を握り、陸上巡洋艦を睨む。
胤姫だろうか? もし、そうだとすれば、自分はあの腹違いの妹を過小評価していたことになる。
常姫はベルトから下げていた銀のサーベルを外すと、床の間に飾ってある下総千葉家伝来の太刀〈日胤〉を吊るす。
蓋の開いた送話管が常姫の声を待っている。
常姫の目は再び北東の鉄の艦に向けられる。
客は一人でやってきた。
それをフランス人は不思議と思わない。サムライという人種は体面を重んじる。特に年老いたサムライほどその気質が強い。
ぞろぞろ供を連れるよりも一人でやってきたほうがずっと肝が据わって見えるし、そもそもこれだけの買い物をするのに家臣に相談する必要はない、自分一人の裁可で十分なのだ、という隠れたメッセージを送ることもできる。
フランス人は日本風に深々と頭を下げた。お望みなら頭が地面にめり込むほど深くお辞儀してもいい。何せ、この取引が成立すれば、一万フランのボーナスが入るのだ。
頭を上げたフランス人は一万フランのボーナスもとい艦を買おうとしている老侍に笑顔を見せる。
老侍は少し首を縦に動かし、下総権介千葉常胤と名乗った。
木工助は気が気ではない。
常胤公の名を騙るのもそうだが、この鉄の艦にも驚かされる。こんなに大きな鉄の塊が銚子から千葉までシモウサを横断したとは信じられないくらいだ。
もちろん、心の動揺は見せないよう努める。
しかし、それにしても大きい。
木工助の役目はこの鉄のかたまりをできるだけ長い時間、この場に留まらせ、四基の蒸気要塞を引きつけることだった。
陸上巡洋艦は南東から北西へ走る街道の北側にいて、四基の蒸気要塞は南側に集まり、陸上巡洋艦を警戒している。
甲板やデッキには聞きなれない異人の言葉が飛び交っている。直垂に烏帽子の侍が珍しいのか、青い眼をした異人の水兵たちが好奇の視線を寄せて、馬でも品評するように指差したり、銀板写真を撮影しようとしたりしている。そのほとんどはまだ少年のようにあどけない顔をしているが、実際、彼らのほとんどが十九歳か二十歳であった。
フロックコート姿のフランス人は微笑みながら流暢な日本語を操り、木工助に対して、
「例えば、ある偉大な人物が偉大な所業を成そうとし、その計画をします。そして、その途上でこのサン・タルノー級陸上巡洋艦が手に入れば、計画の八割方は成功したようなものです」
「残り二割は?」
「残敵の掃討や補給などの大したことのない仕事です」
「しかし、これだけの艦を動かすとなると」木工助は一世一代のクソ度胸を出すつもりで胸に垂れる白髯をしごきながら鷹揚に言う。「相当な石炭を食う。その補給はまさに計画にとっての命取りになろうな」
フランス人は心から感嘆した様子で言う。「さすが一流のお方は目のつけどころが違います。ですが、ご安心ください。我が社では兵站業務の委託も受けつけておりまして、この業務委託により、お客さまは最良の品質の石炭をいつどこにいても手に入れることが可能になります。ところで、商談のほうですが――」
「この主砲は?」
「はい。そちらはシュネーデル・クルーゾ社製の最新型六連砲でして――」
さっぱり分からない武器の説明がなされるあいだ、木工助は千胤城から町を隔てて北へ三里ほどのところにある森に視線を向け、心のなかで唱える。
南無八幡大菩薩。
どうか姫をお守りください。
森のなかではてんやわんやの大騒ぎだった。
久助は火薬機関の燃焼ガス経路のパイプをつなぎながら、予定よりもはやく陸上巡洋艦がやってきたせいで、砲弾型の自動車〈流星号〉の仕上げが少々雑になることを告白した。
「つまり、どういうことだ?」扇がたずねた。
「予定では流星号が千胤城に到着する前に爆発する確率は二分五厘だったんだけどな、こうも急ぎのこととなると、その確率は六分になるってことだ」
「途中で爆発する確率なんて今、初めて聞いたぞ」
「あれ、おっかしいな。話さなかったっけ? まあ、いいや」
単身、千胤城へ忍び込み、常姫を暗殺するという案が魅力的に思えてきた。この一日半は苦労の連続であった。半次郎が一度に蜜を平らげないよう玄之丞と二人がかりで半次郎を木に縛りつけ、火薬中毒者が誘惑に負けて燃料の火薬を食べてしまわないよう、これも二人がかりで木に縛りつけた。それもこれも十のうち六は途中で吹き飛ぶという砲弾型の車で敵の本拠地に突っ込む計画のためだ。
「よし、できたぞ!」
久助が声を上げた。
みなが目を向ける。
椎の実型砲弾に罐を三つ、車輪を八つ、そして人を乗せるための鉄の籠が二つついている。運転席には座布団が工業用接着剤で貼りつけてあって、同じ接着剤を使って操縦桿を前輪にくっつけている。
扇はこの車輪付き砲弾が本当に無事動くのかと心配になるが、久助がこれまで発明した機械――蒸気機関の力で自動的に十文字腹が切れる自動切腹装置や妖怪を燃料にすることで動くという複雑怪奇なスチームハンマーと比べれば、流星号はまだまともな発明品だった。
気づくと、一つ目の鉄籠に胤姫と文七郎、玄之丞が、二つ目の鉄籠に火薬中毒者と半次郎が乗り込んでいた。そのすぐ前の運転席には久助が座っていた。
「よし、扇。お前も座るんだ」
籠に乗り込むと、同じ籠の半次郎がこの世の甘味の食べおさめのつもりで蜜を全部掬いとってなめていた。火薬中毒者は罐に取りつけられた点火スイッチに指をつけている。
久助はカラクリ外套の裾がバタつかないように長靴に裾を突っ込み、石英ガラスのゴーグルをつけると、火薬中毒者に叫んだ。
「点火!」
火薬中毒者は点火スイッチを押した。
ボン! という音がして、フランス人と艦長は主砲を振り返った。
だが、砲煙は上がっていない。副砲も同様だ。
見張り台の水兵が「警戒!」と声を張り上げる。
見ると、艦首の方角五〇〇メートルの位置にある小さな森から陽光を反射させる魚雷に似た乗り物がすっ飛ぶように千胤城目がけて走っていくのが見えた。
流星号に取り付けられた罐の一つが吹っ飛んだが、それは久助の計算通りだった。火薬機関には、発進用、加速用、跳躍用の三つの罐があり、役目を終えた罐は邪魔なだけだから、吹き飛ぶように設計したのだ。
火薬の燃焼ガスがしっかり機関に飲み込まれ、車軸に巻かれたゴムのベルトが車輪を激しく回転させている。順調、順調。
にもかかわらず、乗客たちの顔がみな真っ青なのが、久助には気に入らない。天才カラクリ技師の逸品に乗るという栄誉に浴しているのだから、もっと喜んでもよかろうに。
久助が頬をふくらませているあいだも流星号は飛ぶような速度で走り続ける。つい先ほどまで森のなかにいたと思っていたのが、いつの間にか千葉の町の大通りを走っていた。町人たちは動体視力の限界を超える速度で走り去ったものの正体が分からず、妖怪かまいたちが舞い込んだのかもしれないと思い、着物の袖や自分の手足が切り裂かれていないか恐る恐る確かめた。
あれよ、あれよ、という間に千葉の町を出て、二つ目の罐が吹っ飛んだ。
あとは海を背にして立つ千胤城までの一本道だった。
久助は目を閉じた。
次にまぶたを開けたときには流星号は千胤城に飛び込んでいるはずだとほくそ笑みながら。
常姫の射撃許可の命令が送話管から聞こえると、砲兵隊長は千葉の町から常識外れの速度で飛び出していたソウダカツオのような乗り物に照準を合わせて、合計二十五門の火砲が榴弾を発射した。
砲弾は全て外れた。ソウダカツオは弧を描いて空を飛ぶ二十五発の砲弾の下をくぐり抜けて、千胤城へと突っ込んできた。
「照準が間に合わん! 全砲、霰弾を装填! 距離一〇〇で各砲一斉射撃だ!」
砲兵隊長は照準を合わせるのをあきらめて、至近距離での霰弾発射で謎のソウダカツオをバラバラにすることにした。どれだけ相手が速くとも二十五の砲から放たれた無数の金属片を回避することは不可能だ。
距離三〇〇……二五〇……二〇〇……一五〇……一〇〇!
「発射!」砲兵隊長は叫んだ。
同じ瞬間、久助はレバーを引いた。その瞬間、四つのライデン瓶から車体の下に取りつけられた三つ目の罐の点火装置へ電気が走り、燃料用火薬に火花が散った。
砲兵隊長は信じられないものを見たように空を仰いだ。
さっきと位置が逆になった。
今度は砲弾が炎の尻尾を引きながら空を飛ぶソウダカツオの下へくぐってしまった。
空飛ぶソウダカツオはそのまま千胤城の城塞へ突っ込んで……
三つ目の罐が爆発した瞬間、流星号本体に刺さっていた錬鉄のピンが折れて、扇たちが乗った二つの鉄の籠がどこへとも知れず放り出された。
流星号は役目を終えた。
城の真ん中をぶち抜くようにして飛びすぎると、青い空のなかで車輪も放り出し、純粋な砲弾として、ひゅーっと甲高い音と真っ赤な炎の尻尾を引いて飛んでいき、千葉の海へと飛び込んだ。
最後の大爆発が起き、千胤城の高さを越える水柱が派手に立ち上がって、そばにいた釣り舟や蒸気客船の甲板に鰯と鯵の雨が降ってきた。
千胤城の守備隊は家老から足軽まで大騒ぎだった――天守閣で一人居住まいを正して、日胤を脇に置き、やがて現われるであろう妹を待つ常姫を除いて。
半次郎は城の一階に落ちた。
天井に大穴が開いていて、宿直の侍が二人気絶していた。気送菅が割れて、命令書を入れた竹筒が失敗したお手玉のようにぽーん、ぽーんと飛び出して、あちこちに転がっていた
戦うとなれば邪魔になるであろう竹筒を足で端に蹴飛ばしながら、頭をぼりぼりと掻く。
殺しはなし。そういうことになっていたので、半次郎は脇差が鞘から絶対に抜けないように組み紐で四重にして縛っていた。鉄砲足軽が一人駆け込んできたので、鞘ごとの一撃を頭に見舞うと見事に気絶した。
外の侍たちが城へ駆け込んでくる騒々しい足音を聞きながら、半次郎は天井に開いた穴を見上げる。
他の連中はどこに行ったんだ?
三階には文七郎と玄之丞がいた。
既に玄之丞は機関部に真鍮を使ったウィンチェスター・ライフルを手にして、窓から狙って、城へ駆け寄る守備兵の頭に弾丸を降らせていた。
といっても、鉛のかわりに岩塩を込めたもので当たると死ぬほど痛いが、実際に死ぬことはない。
文七郎は空になったライフルに弾を込める役だった。玄之丞が撃ち尽した銃を受け取り、塩の弾を込め、空っぽの銃と引き換えに再装填した銃を渡す。
敵はこちらが鉛のかわりに塩を弾にしているとは知らないので、命大事と城へ駆け込めず、松や井戸などの遮蔽物に隠れている。
これならば、三階から上へ敵が行くことはないだろう。文七郎は鉄の籠から飛ばされながら、胤姫が四階に飛び込むのを見ていた。ここで文七郎と玄之丞が防いでいるかぎり、胤姫が常姫のもとへ行く邪魔も入らない。
ん? 待てよ、と文七郎は思う。
もし、四階に強敵がいたら、どうなるんだ?
四階には侍が三名、常に詰めている。
総髪が鉄張りの兜頭巾の裾から見えている若い剣士、肋骨服と義経袴の和洋折衷様式の小柄な年嵩の侍、雲水服の下に胴丸をつけた大柄な僧形の侍。 特に剣の使えるものたちが選ばれてここにいた。
そこに転がり込んだ胤姫はすぐに身を起こして抜刀し、刀を横に寝かせて切っ先を真ん中の剣士――肋骨服の老侍の眉間に向け、柄を自分の顔に引き寄せる右偏りの身で構えた。
天守閣はこのすぐ上で階段も見えている。だが、そこに辿り着くにはこの三人を倒さなければいけない。
三人の剣豪は最初こそ激しい破壊と爆発の音に気を乱されたが、すぐに得物を抜いて、臨戦の構えに入った。
兜頭巾と僧形の剣士が左右に動き、一度に斬りかかろうとする。
胤姫は自然と気を押される形となる。
僧形の剣士が梁材のない廊下へ身を移すと一気に剣を頭上高く構えて踏み込もうとした。
そして、気合の猿叫を上げようとしたその瞬間――。
外の障子を破った扇が真鍮を被せた棒の端で坊主頭にきつい突きを打ち込んだ。
大きなこぶをこさえた僧形の大男がばたりと倒れると、扇は胤姫と残り二人のあいだに素早く身を入れて叫んだ。
「はやく行け!」
それで押されていた気を取り戻し、胤姫は小さく、しかし強くうなずいて、天守へつながる階段へ走る。
扇はできるだけ身を低く沈めて、残り二人と対峙する。
「久しいな、胤」
長い睫の下できらりと光る目が天守に現われた胤姫の目を射抜くように捉える。
「姉上……」
「昔、よくこうして稽古をつけたものだ」
「なぜ――」
「なぜ、謀反を起こしたか? なぜ父上の遺言に違うことをしたのか? 意味はない。千葉の惣領にはお前より、わたしのほうがふさわしいと思っただけだ……口上が過ぎたな。それ以上は剣で語ろうぞ」
二尺六寸の日胤が鞘から放れ、正眼で構えた切っ先越しに胤姫を見据える。
胤姫も二尺三寸八分の刀を抜く。
扇から借りた差料は恐ろしく手に馴染む。
どちらかが死なねばならないのだ。
胤姫はそう悟った。
多くの血を吸った扇の無銘の刀がそれを胤姫に教えた。
あるいは常姫の目に宿った殺気が教えたのかもしれない。
自分よりも常に優れた姉を、優しかった姉を、憧れだった姉を斬らなければならない。
悲愴よりも懐古が胸に静かに現われる。
そして、その懐古が扇から借りた剣の先に触れて、もろく裂かれる。
その瞬間、胤姫の心と剣に修羅が宿る。
その修羅を常姫は剣客の鋭敏な五感で感じ取る。
そして、口の端を上向かせ、小さくつぶやく。
これでよい。




