表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廓雲と扇の剣士  作者: 実茂 譲
第十一話 洛中洛外図扇と梟雄悪御所百鬼夜行
182/611

十一の十

 りんは黄金の霞がゆったりと横切る土手の上に立っていた。どうやら、〈あっち〉の世界へ来てしまったようだった。

 扇と久助がりんのすぐ後ろで立っていた。さっきまで屋敷にいたはずの自分たちが黒い空の下、金箔ずくめの土手の上に立っているわけが分からなかったようだ。

「りん、これはどういうことだ?」扇は左右を見渡した。「ここは妖物どもの世界のようだが――そうだ、泰宗は?」

 そうたずねたとき、土手にかかっていたすやり霞が左右に退いた。

 まず、見えたのは顎を上にして死んでいるあの翁の顔だった。口から相当の血を吐いたのか絹糸のようだった鬚と髪が赤くどろっとした血反吐でよじれて絡まっていた。目は驚愕に見開き、断末魔を上げて硬直したままの大きく開けた口からは舌が――正確にはきれいに切断された舌の付け根が見えていた。長さ二尺はありそうな真っ赤な舌は少し離れた場所に転がっている。

「傷ついた泰宗さんの正体です」

 りんは転がっている舌を指差した。

「九十九屋さんたちが失踪したときに見えた屋敷の奥の赤い灯もたぶんこれでしょう。こうやって偽りを見せて、獲物をおびき寄せて喰らう。それがこの妖物の正体です」

 そのとき、翁を覆っていた霞が全て退いた。翁の体――仰向けに倒れた巨大な土蜘蛛の体があらわになった。節張った長い脚は縮まるように曲がり、くすんだ黄金色の毛に覆われていた。まるい胴体は今まで食らったものたちのしゃれこうべではちきれそうになっている。

「祇園社の空っぽの社に閉じ込められていたのはたぶんこの鬼蜘蛛です。京の地脈が不安定になった機会に外へ逃げたのでしょう」

「りんがいてよかった」扇が言った。「でなけりゃ、おれたちもあの骸骨どもの仲間入りだった」

 土蜘蛛の骸が黒ずんだ。かと思ったら、あっという間に黒い雲になり、体が掻き消えた。残ったのはしゃれこうべの山。

 しゃれこうべの山は震えていた。扇と久助が、新手か! と警戒し、得物を構えた。しゃれこうべが転がり落ちて、なかから這い出てきたのは――、

「ふーっ、危うく命拾いしました」

 怪我一つない泰宗だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ